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健多くんシリーズ。(短編)
拭えない。
その後は花火が始まるまでの間ぐるっと会場を回って露店を覗く。

かき氷を買ったり、子どものとき以来の綿菓子を買ってみたり。

綿菓子がこんなに甘かったなんて思ってなくて、結局食べきれずに半分鳴人に食べてもらった。

鳴人も甘いモノはそんなに好きじゃなく、二人でかなり苦戦しながらなんとか口に押し込む。

ところどころ照らされた提灯の明かりが綺麗で、はぐれないように鳴人の浴衣の袖を掴んで歩くのも、なんだか気恥ずかしくて。

人が多いと自分たちが周りにどう見えるかなんてあまり考えることもなく、すごく楽しかった。

でも僕たちが店に寄ると時々言われることがあった。

『お兄ちゃんの分は?』。

『こちら弟さんの分ですね』。

・・・やっぱり同い年にも男女にも見えない僕たちは兄弟に見えるんだろうか。

もちろん恋人なんていちいち説明することはないけど。

「やっぱり堂々と歩けるわけじゃないんだなぁ・・・」

人混みをかき分ける鳴人の背中を見ながら、僕は小さく呟いた。

「なんか言ったか?」

喧騒の中で僕の声を拾ったのか、鳴人が振り返る。

なんでもない、と返事をすると訝しげに僕の顔を見たが、すぐに前に向き直った。



もうそろそろ花火が始まる時間になると、人の数はますます増えた。

一応打ち上げ場所の近くに設置された祭り会場だけに座ってゆっくり花火を見ることのできる人たちは何時間も前から場所取りをしている人たちだ。

「これじゃ見えないかな」

今年初の花火をかなり期待していただけに、ちょっとがっかりだ。

すると鳴人が当たりを見渡して、僕の腕を引っ張った。

「なに?」

「編集室にここらへん出身の人がいるっていうから、花火が見えそうなところ聞いておいた。たしか・・・向こう側のはずだ」

「ホント!?」

「ああ。しかも誰も知らない穴場スポット」

それはすごくラッキーだ。

誰にも邪魔されずに花火が見れるなんて滅多にない。

僕たちは人の波を縫って急いでその穴場スポットまで移動した。









「すごい、ホントに誰もいない!」

そこは確かに穴場スポットだった。

ちょうど祭り会場から打ち上げ場所を挟んで向かい側。

港公園を突っ切るとすぐの場所にそのスポットはあった。

辺りは木々に囲まれ、その間からバッチリ花火が上がるのが見えるようになっている。

ちょっと丘のようになっている斜面に座り込むと、港の側に並んだ家からの灯りも見えた。

「もうすぐ始まるな」

ケータイを見て時間を確認した鳴人が言うと、突然、夜空に細い光の筋が昇っていった。

「あ!上がった!」

光の筋は上空でふっと姿を消すと、次の瞬間満開の花を咲かせた。

そして一瞬遅れて、ドォン!とカラダ中が震えるほどの炸裂音。

「・・・・すごい」

こんなに近くで花火を見たのは初めてだ。

その後も次々に光の筋が上がり、そして赤や緑、黄色の花が咲いていく。

ビリビリと空気を震わす音がすごい迫力で、圧倒される。

隣の鳴人を見ると、やっぱり花火に見惚れているのか、なんだか優しい顔をしていた。

・・・来てよかった。

こんなに綺麗な景色を鳴人と一緒に見ることができるなんて思ってなかった。

花火の音と光を横目で感じながら鳴人の顔を見ていると、その視線に気づいたのか僕の方を向く。

「どうした?」

「・・・・・・別に」

照れくさくて立てた膝に顔を埋める。

目を塞いで心臓に響く花火の音だけを聞いていると、さっきの言葉が頭の中に蘇った。

『お兄ちゃん』。

こんなに楽しくて、こんなに嬉しくても、世間から見れば僕たちは兄弟くらいにしか見えてない。

それで、いいはずなのに。

「健多?」

俯いたまま顔を上げない僕を不思議に思ったのか、鳴人が声をかけてくる。

鳴人はどう思ったんだろう。僕と兄弟って言われて。

「僕たちって・・・一緒に歩いてると兄弟にしか見えないのかな」

「お前そんなこと気にしてたのか」

意外そうな声にちょっとムキになってしまった。

「だって、さっきもずっと言われてたし」

本当は少し傷ついたのに。

「・・・まあ、一部の人間以外には兄弟か友達にしか見えないだろうな」

「一部の人間?」

「そういうのに理解あるか、そういうのが好きな人間」

「なにそれ」

なんだかよくわからないけど、とりあえずはあまり恋人には見えないってことが言いたいんだろう。

でも鳴人は全然兄弟と言われることも友達と言われることも気にしてないようだった。

でも、それはなんとなく子供を宥める親のような口ぶりで。

「俺たちの関係なんて、俺たち自身が知ってればいいことだろ」

ぽんぽんと頭を叩かれるけど、やっぱりなんとなく納得いかない気もする。

やっぱり僕は鳴人から見たらガキなんだろうか。

歳だってそんなに変わらないはずなのに、鳴人は本当の歳よりも落ち着いてるように見える。

そのせいかもしれない。
自分がひどく子供じみて見えるのは。

「・・・子供あつかいして」

悔しくてそう呟くと、隣で小さく笑う声がした。

「誰もお前のこと子供だなんて思ってねえよ」

「嘘。だっていつも自分勝手に振り回すし」

僕一人が鳴人のことを考えてるだなんて最近は思わなくなってきたけど、いろいろやきもきしてるのは絶対僕の方だ。

だからきっと鳴人は僕のことを子供だと思ってるって、そう考えていた。

でも。

「・・・振り回されてるのは俺の方だろ」

す、と目の前が暗くなる。

花火が見えなくなって、唇に熱い息を感じた。

「なる・・・!」

驚いて肩を突っぱねようとして、手首を掴まれる。

「人がっ・・・んッ!」

「誰もいねえよ」

しっとりと甘い唇はさっき食べた綿菓子のせい。

甘いモノはそんなに好きじゃないのに、この唇はすごく甘くて・・・美味しい気がする。

ぺろぺろと味わうみたいに舐められて、背筋が痺れた。

「んっ・・・ぁ、だめッ・・・」

手首を掴んでいた手が離れ、僕の肩を押す。

キスですっかり力の抜けてしまったカラダは、あっという間に草むらに倒れた。

「鳴人・・・」

鳴人の後ろに広がる花火のせいで顔が影になってよく見えない。

でも、こんな時の鳴人の顔ならよく知ってる。

僕がイヤって言っても絶対に離さない、欲情した顔だ。

「ここで・・・するの?」

こんな誰が来てもおかしくない外で?

そんなの絶対に恥ずかしすぎる。

真っ赤になった顔を隠すように手で覆うと、影になった鳴人の口から、かすかな笑い声が聞こえた。

「俺だって・・・こんな外で我慢がきかなくなるなんて、半年前は思ってなかった」

だから振り回されてるのは俺だ、なんて。

「そんなのいいがかりだ・・・」

「だろうな」

首筋に草の先端がチクチクとささる。

その感触が、いま僕たちがコトに及ぼうとしている場所が外だってことを教えてくれる。

・・・声を出さないようにしないと。

その時にはすでに、僕の頭の中には『抵抗』の二文字はなかった。

そんな僕の努力を察したのか、鳴人がしっかりと閉じた僕の唇を指でこじ開ける。

「ん、ぁッ・・・」

高まる期待と興奮で呑み込みきれずに溜まった唾液が唇の端を伝う。

鳴人がその露を舌で掬いとりながら笑った。

「・・・こんなにエロいガキがどこにいるって?」










きっちり結んでいた帯を解かれ、前を肌蹴られる。

「浴衣って便利だな。脱がしやすくて」

「そ、んなことのために着たわけじゃない・・・んッ」

鎖骨を長い指で撫でられてカラダが震えた。

まだ近くで打ち上げられている花火。

その光と音が僕と鳴人に降り注ぐ。

ドン、ドン、と遅れて響く音に煩いくらいの鼓動が揺さぶられる。

心臓が痛い。

何度こうやって抱かれても、貫かれる前のこの愛撫は胸が痛む。

最初は緊張のせいだと思ってた。

でも最近は、嬉しいからこうなるんだってことに気がついた。

「声、殺すなって。どうせ花火の音で聞こえねえよ」

「でもッ・・・」

恥ずかしいモンは恥ずかしいんだ。

だってきっと、僕からは鳴人の顔は見えなくても、鳴人からは花火に照らされた僕の顔が丸見えだろうから。

仕方なく小さく息を吐いて少しだけ声を漏らす。

すると鳴人の手が裾を割って膝を撫で、突然の刺激に息を飲んだ。

「お前って浴衣似合うよな。すげー色っぽい」

男の浴衣が色っぽいだなんて思うのは鳴人くらい、と言い返しそうになって、そういえば自分も鳴人の浴衣姿を見た時に同じことを思ったんだったと赤面した。

相手の浴衣姿に心を揺さぶられたとしても褒めないところ。

そういう小さなところが僕たちは似ているのかもしれない。

「でも脚がこんなに見え隠れするのは周りにサービスしすぎ」

「サービスなんて、してないッ・・・」

するすると太腿を上る手のひらに息が上がる。

いよいよ鳴人の指が下着にかかった瞬間、僕はあることに気が付いた。

そうだった!

ここは外で、しかも今日は鳴人の家に泊まりじゃない。

家に帰ってこの浴衣を洗濯に出さないといけないんだった!

もし母さんが洗濯するときに『白い何か』に疑問を持ったら・・・・。

「浴衣汚しちゃダメッ!」

慌てて鳴人の手を引き剥がすと、鳴人は不満げな顔をした。

「コレ父さんの浴衣だし、汚したら母さんが変に思うから・・・」

「汚さなきゃいいんだろ?」

仕方ないとばかりに鳴人はため息をつき、僕の太腿を掴む。

両手でぐっと開かれ、浴衣の中に流れ込む生ぬるい風に身震いした。

恥ずかしさに文句を言う間もなく下着を下ろされる。

まだ少ししか反応していない僕のペニス。

ソレを鳴人は持ち上げ、ゆるゆると擦った。

「はぁっ・・・あ、だめ・・・」

こんな場所で性器を晒すのは、まるで子供の頃しかたなく外で用を足したような、そんな羞恥心が湧きあがる。

ここが高台でよかった。

もし僕たちがいる場所より上に家があったらこんな姿を見られていたかもしれない。

鳴人の器用な指に擦られたところが徐々に熱を帯び、股間から電気が走るように全身に快楽が回る。

開かれた脚が草を蹴り、腰の下にある浴衣がよれて皺を作る。

「んぁッ・・・な、るひと・・・も・・・」

裏筋を指で押すように揉まれ、先端にトロリと蜜が溢れてくるのがわかった。

このままじゃ浴衣を濡らしてしまう。

そう思って鳴人に止めてくれるように頼むが、鳴人はソコへの愛撫を続ける。

そればかりか、まるでもっと出せとばかりに扱き上げ、ついにはクチュクチュと濡れた音が花火の合間に混じりだした。

「なるひとっ・・・!」

慌ててカラダを起こそうとするが、ぷっくりと顔を出した先端を撫でられて力が抜ける。

「だめッ・・・たれちゃ・・・う」

下半身を抗いきれない快感が襲い、僕は腰を浮き上がらせて射精に耐えようとした。

「ひゃんッ、あ、ぁあんっ・・・ぁ、あ、あッ・・・あ、あッ!?」

先端を穴に熱いモノが押し当てられたのは、ちょうど僕のペニスがピュ、と白い蜜を飛ばしたのと同時だった。

ドンッ!

「ひッ!!」

一際大きな炸裂音に驚いて腰を跳ね上げると、クチュン、と鳴人の口に呑み込まれたソレがいやらしい水音をたてる。

射精の快感をやりすごすことさえ許されず、鳴人の熱い舌は先端の穴からこぼれ出る残滓を吸い上げる。

まるでペニスのナカまで震わされるようなその吸引に、僕は開いた脚を突っ張った。

「はッ、あ、あぁ・・・!」

気持ちいい。

頭がグズグズになって溶けてしまいそうだ。

鳴人の指が射精したとき太腿に垂れた数滴の白濁を掬い取り、口へ含む。

そのあまりに卑猥な光景に眩暈がした。

「や・・・舐めたらッ・・・」

「汚されたくないんだろ」

意地の悪い笑みを浮かべる鳴人に何も言い返せずに黙りこむ。

しばらく鳴人が好きなようにソコを舐めさせていると、もうなにもかもがどうでもよくなってきた。

見られても、声を聞かれても。

僕たちがそれでいいなら誰にどう思われようがどうだっていい。

冷静に考えればどうでもいいことなんて絶対にないはずなのに、何故かそう思ってしまう。

それはきっと鳴人が言ってくれたから。

『俺たちの関係なんて、俺たち自身が知ってればいいことだろ』。


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