健多くんシリーズ。(短編) 誤魔化せない。 (健多side) 藍崎が僕のカラダを清めている間、僕は寝たフリをしていた。 優しくカラダを拭う手、向けられる視線。そのすべてを瞼の奥で感じて。 あの媚薬はすっかり抜けている。 ………………本当は、2回目にイったときくらいから、少しずつ薬の効果は収まっていた。 でも、僕は薬のせいでおかしくなってると誤解したままの藍崎に、抱かれた。 薬のせいにすれば、いつもよりずっと素直になれる。 ずっと藍崎を…鳴人を求めることができるから。 自分でもなぜそんなことをしたのかわからない。 でもたぶん、試したかったんだと思う。 僕が鳴人のことを、本当はどう思っているのか。 鳴人が、僕をどう思っているのか。 意地悪なことを言ったと思えば、甘やかして。 好きだと言わないのに、髪を優しくなでてきて。 僕が素直に求めれば、あんなに嬉しそうな顔をして。 快楽に真っ白になった頭の中で、僕はずっとそんなことを考えながら抱かれていた。 「健多…?」 ゆっくり目を開けると、そこにはいつものように鳴人がいる。 「カラダ大丈夫か」 「………………痛い。あちこち」 むくれて言うと、呆れたように笑われた。 「そりゃ悪かったですね……そうだ。お詫びにひとつだけお前のお願いをきいてやるよ。ありがたく思え」 「……だからなんでそんなに偉そうなわけ」 「偉いから」 「………………はいはい」 元はといえばほとんどアンタが悪いような気がするんですけど。 「で?なんか欲しいものでもあるか?」 水くらいなら今すぐ買ってきてやる、と笑いながら言う。 その悪びれない態度が気にくわない。 きっとコイツは僕がどんなに悩んでるかなんて知らないんだろう。 だから少しだけ、意地悪を返してやることにした。 「…………………………キス」 布団を口元まで被って呟く。 意地悪をするつもりだったのに、僕は自分の言葉のあまりの恥ずかしさに大ダメージを食らった。 顔が、焼けそう。 でも少しだけ、効果もあったようだ。 「………なに、その変なカオ」 鳴人は始めてみるマヌケ面を晒していた。 「……………お前、まだクスリが効いてんのか?」 「………………そうかもね」 やっぱりコイツ嫌いだ。 「言うこときくんだろ?……早くしないと薬の効果きれるからな」 恥ずかしくて口早に言うと、鳴人はスッと目を細めて笑った。 そして、僕の額をその大きな手で撫でる。 「……じゃあ、クスリが切れる前に」 微笑んだ唇がそっと僕の唇を包み込んだ。 甘い口づけの間、僕はこの胸の高鳴りが鳴人にも伝染すればいいのに、と思った。 誤魔化せない心。 誤魔化せない気持ち。 誤魔化せない、恋。 Fin. 続く。 [*前へ][次へ#] [戻る] |