12月19日
教室がだんだんと緑と赤と金と銀と、この季節に相応しい色に包まれていった。12月のイベント、クリスマスが近づいてきた。
クラスのみんなは、クリスマスにお願いするプレゼントを話し合ったり、家族で旅行に行くだとか、サンタはいるだとかいないだとか、浮かれた話をしていた。短縮授業が、そのはやる気持ちを刺激させる。
冬休みがやってくる。
帰りの会が終わり、俺はいつも通りに帰り道を誰に会うこともなく歩いていた。木にかろうじでついていた枯葉は、もうすべて地面に落ちている。公園の八重桜は、もちろん一枚も葉をつけていない。
公園はクリスマスとは無縁で、赤も緑も、金も銀色もなく。あるのは緑なんだか水色なんだか分からない色をした、錆びた滑り台やブランコ等の遊具だけ。ここだけは、クリスマスとは無関係だ。
短縮授業だった今日は、昼ご飯までに時間がある。家に帰ってもどうせテレビでやっている内容なんてたかが知れているし、子供向けの番組なんてないだろう。この前買ったゲームは全部クリアした、理由作りのたまに買った分厚い小説も読破してしまった。
なにもすることがない家に帰るのは、いつだって退屈で。
俺はブランコに乗った。
キイキイとブランコの繋ぎ目は、やっぱりうるさかった。座る位置が低すぎて、足が地面についてうまく漕げない。葉っぱだらけになった自分の足と、枝だけになった八重桜を見上げて、スニーカーを見る。
息を吐けば、そこはくっきりと白くなる。当たり前だけど、寒かった。
がさり、と枯葉が踏まれる音がした。
「いっしょにブランコやっていい?」
声に、勢いよく顔を上げた。
そこにはクラスメイトじゃない誰かが立っていた。
チェックの緑色のマフラーに、赤茶色の温かそうなダッフルコート。おそろいなのか、手袋はマフラーと同じ色。その誰かは俺を覗き込む。
なんで覗き込むんだ。
「……なん」
こんなやつ知らない。
何分経ったのか。
いつまでも無言の俺に、知らないヤツは何故か俺の頬に触れた。毛糸のトゲのような肌触りと、人肌のあたたかさが伝わる。
「さむいの?」
目の前のヤツは心配そうに、今度は俺の手を握って擦り始める。なんだこいつ。なんで。
「……寒い」
なんで俺は抵抗しないんだろうか。
じょじょにあったかくなってきた肌に、自然と表情が和らぐ。知らないヤツは、そんな俺を見て、笑った。
「いつもここに来るの?」
ヤツは空いていた俺の隣のブランコに腰をおろす。やっぱりブランコは悲鳴をあげて、ヤツの足元にも枯葉がのっかった。
俺は目線をヤツの足元から一瞬も離さずに、乾燥した切れて痛む口を開く。
「今日、はじめてだ」
無理に動かしたそこが、びりりとまた裂けた。
「やっぱり!」
「……やっぱり?」
「うん! だっておれ毎日ここ来てるから!」
「へぇ」
慣れていない笑みを向けられる。
俺はなにを喋ったらいいのか、なにをすれば一番いい返答なのか、どうすれば答えがでてくるのか、必死で考えながら、隣のヤツの足元だけを気にして。
「どうしたの?」
「な、なにが」
「だって下見てるから、さむいの?」
「ち、ちが」
うまく喋れない。
「じゃあおれのマフラー貸してあげる」
ふわり、と首にあったかいマフラーをのせられた。
あったかい。それに、なんか、いいにおいがする。
無意識にそれに顔を埋めた。
「あったかくなった?」
声のする方を見た。
「あ、あったかい」
まんまるい目を細めて、笑っていた。
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