05月03日
今日、六度目の転校をした。
俺が週5日歩くことになった通学路には、春の終わりを告げるように、ほとんど散ってしまったソメイヨシノに混じって、一本だけ大きな八重桜の木が突っ立っていた。緑の木々の中にひとつだけの桃色。
そして俺は今日からその八重桜の横を通り過ぎ、知らない、きっと思い出浅く終わるだろう学校に行く。
満開とは言い難い少し散った八重桜の花びらが、コンクリートと車のタイヤに挟まれ、すり潰されるのを遠目に眺めている。
六人目になる担任が、黒板のど真ん中に大きく俺の名前を書いた。
「みんなに新しいお友達を紹介します。春日優一(かすがゆういち)くんです! 優一くん、自己紹介できるかな?」
先生の言葉に、みんなは一斉に視線を俺にやる。
ありがちな台詞。俺の担任となる先生の明るく曇りない声色。
桃色のひらひらとしたスカートと、淡いクリーム色をした上着に、鎖骨辺りまである柔らかそうな髪はふわりと揺れて。
きれいで、か弱くて女性らしい。きっと生徒に好かれているだろう先生。
先生は俺に微笑みかける。
俺はそれに応えるように、簡潔に答える。
「南東小学校から転校してきました、春日優一です」
目線は正面向こう側にある今週の予定が書いてあった黒板へと向けた。わざわざクラスメートを見る必要はないだろう。
「えーと、優一くん? 他になにかないのかな?」
先生は苦笑を浮かべ、俺の表情を窺う。
機嫌が悪いとでも思ったのかもしれない。必死になにかいい案はないかと模索する先生の声は、震えていた。
けれど俺は別に機嫌が悪いわけじゃないし、ましてや恥ずかしくも怖いと不安に怯えているわけでもない。
むしろ俺の頭の中は場違い過ぎるほど、年齢に不相応に冷めている。
別に子供らしくしようとも先生に気を使おうとも思わない。
俺の予想通りに教室中は静まり返り、痛い視線が俺に集中する。
俺はそれを気にすることもなく、まだ黒板の落書きに目をやっている。
呆然と、俺の無愛想すぎる態度に困惑しているクラスメート、というより。無表情な俺の顔を睨んでいた、と言う方が正しいかもしれない。
ああ、まずい。
嫌われるな、なんて思うだけで俺はなにもしないけど。
少しだけ拳を強く握った。
「す、好きな食べ物は?」
「……カレーです」
みんなは、大好きな先生を困らせる俺は好かないようだった。
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