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ひぐらしハルヒの憂鬱な頃に

≪TIPS2≫
≪興宮バイク事件≫

 今考えると、うかつだったとしか言いようがない。

 キョンちゃんとレナと別れた後、一度家に寄って自転車で興宮を目指す。私が向かった先は、親戚の経営する玩具屋さん。

たまにバイトというか、お店の手伝いをしてるんだけど、今日はシフトのことで相談しに行った。

 信号待ちをしている間にふと考え事を始める。私ちょっと、男キャラすぎやしないか?

キョンちゃんには女にしとくにゃもったいないとか言われるし、私は私で男の子の前でも平気で下ネタ話しちゃうし。年頃の娘がこれでいいんだろうか。

 信号が青に変わって、自転車を進める。でも今さらおしとやかな乙女になっても、周りは逆に心配するだろうな。熱でもあるのか、食べ物があたったのか、……。

それにどうせそんなことしたって、すぐにボロがでるさ。はぁ〜、悩ましい。

 と、急に前のめりになって自転車が止まる。目の前でバイクが3台、綺麗にドミノ倒し。

あれ、追突しちゃった?

そこで初めて気付く。歩道に停めてあったバイクの脇に突っ込んだのだ。

考え事なんてしながら自転車こいだら危ないに決まってる。完全に前方不注意だった。

 あ〜、ついてない。バイク3台も1人じゃ起こせないよ……なんて考えてる私の襟首を誰かが掴む。

そのまま路地裏に引きずり込まれ、バイクの所有者らしきガラの悪い3人組がまくしたててきた。

「んだてめンなろぉおおおぉおおおおッ!! すったるぁ、おるぁあッ!!」

「をるぉんったら、なしツくとぉッんじゃねえぞおおおおぉおおおッ!!」

 何、言ってんの? 日本語で大丈夫だよ?

 さっぱり意味が分からずにキョトンとする私を囲んで威嚇を続ける。……3人か。

園崎家次期頭首として育てられてきた私にとっては、どうにかならない人数じゃない。

まぁ、できればこんなとこで暴れたくないんだけど。

 仕方なく、先制攻撃をしようとした矢先。

「おい! 女の子1人相手に、みっともないんじゃねーのか!? その辺にしとけ!」

 誰かが助けに入ってくれたみたいだ。参ったな、部外者を巻き込んで怪我させたくはない。

「んじゃごらぁああッ!!! イイとこ見ったつぉんかぁんあああッ?!」

「っこつけんとぉ痛い目見さらっそおおぉお!!??」

 見た感じ、私と同い年ぐらいの男の子だったが、3人組の迫力に押され気味のようだ。

胸ぐらをつかまれて、さらに怖気づく。

「あぁ、いやいや、ちょっ…と、待ってください! とりあえず暴力はやめましょうよ!あわわ……、バイクがですね、倒れたのはお気の毒と思いますが、できればご機嫌を直されてはいかがでしょうー……なんてね! ははっ、その、お金とかは無いんですけどね、ははは……」

 ねぇ、助けに来たんじゃないの?

「おぉお…そうじゃのぉ、金がのぉんならしゃあんなぁ!!体で払ってもらう他ないっしゃあなぁあ!?」

「こんの女、いい体してまんもおなぁ…!脱がしたらさぞや…むげへへへへへへ!!」

 ちょ、マジで?

「おお、折れんさ、AVなんかでよぉやっとる脱がッシーンが好きでさ!!はぁはぁ!」

「あぁあぁやっぱりHシーンそのもんよりゃあその前座の脱がすシーンも興奮すっさなあぁあ…!!」

 興奮しながらこっち見ないでよ! 何なのその手つき!?

「むはあぁああぁ脱がすあんもええぇんのおおぉおおぉ!!」

「上から下までぜ〜〜〜んぶ脱がっしゃあよぉおおー! はああぁあええのんしゃあ〜!!!」

 仕方ない、こっちから攻撃するか……そう思った瞬間、閃光が瞬く。あの男の子が……一体!?

「このボケナスどもがあああぁああぁあぁ!!!」

稲妻のような光が迸り、3人組が次々と殴り倒される!! 何だ、強いんなら最初からそうしてよ。

「なぁあ、何しさらすんじゃあああぁぁあ!!いてこまされたいンかぁああ!!!ぐほあッ?!」

「お前らはわかっていない!わかっていない!!!全裸には萌えがない!!服は脱がしても靴下は脱がすな!!

いいかよく聞けモンキーども。ホモサピエンスと動物の違いは何か。そう、衣服の着用だ。

つまりヒトは衣服があって初めてヒトなのだ!それを全部脱がすことでしか欲情できない貴様らはヒト以下!!

動物と同じだあああぁ!!全員を矯正するッ!!歯を食いしばれええぇええぇえ!!!」

「ぐはあっ!!!」

 ……?!?

「先ほどAVの脱衣シーンを引き合いに出したな。例えばここに『コスプレHビデオ』があったとする。

コスプレと一言に言ってもその裾野は広すぎる。だからここでは最も普及していると思われる制服系で説明することとする!!

制服系の御三家と言えば何か!!!答えてみろ!!そうだな、制服、体操服、スクール水着だろう。

なおセーラーかブレザーかの好みの違いは制服にカテゴライズするものとする。勿論、ブルマーかスパッツかの違いも同様!!

スク水も紺か白かの違いはあれどカテゴリーは同じ扱いだ!!!どうだ、これだけでも甘美な響きがするであろう?!!

ではお前ら3人がこれらの内の一つずつが好みであったと仮定しよう!!おいノッポ!!お前は制服だ!デブ!お前は体操服、そしてチビはスク水だ!!頭に思い描け、時間は3秒!!

描けたか?妄想くらい自在に出来ろ、気合が足りんやり直せッ!!ではお前らの望む衣装が登場するHビデオがここにあるぞ、あると思え、あると信じろ気合を入れろ!!

返事は押忍かサーイエッサーだ!!!それらの萌え衣装が、貴様らの馬鹿げた欲情に従い一糸纏わぬ姿にひん剥かれたと思うがいい!だがおいお前らよく考えろ!!全部脱いだらもうそりゃコスプレHじゃないぞッ?!?!

最近そういう詐欺紛いなAVが増えているが実に嘆かわしい!!服を全部剥いだらもうそれは文明人ではない、動物だ!!

全裸にしか欲情できない貴様らは犬、猿、雉だ!!キビダンゴでももらって鬼ヶ島へでも失せろ!

貴様ら聞いているのか、軟弱スルメどもがああぁ!!!歯を食いしばれ、今日は徹底的にしごく!!!

貴様らが自分の妄想でご飯三杯行けるまで今日は寝られないと思ええ!!!はいいぃいい指導指導指導ぉおおッ!!!!」

 ……。

 その時、何人かが走ってくる音がした。

「圭一〜っ!!! 大丈夫ー!!??」

「くそ、……や、やべぇぞ! ずらかれ!! 覚えてろ!!!」

 どうやら連れが来たらしい。不利な状況を理解したのか、3人組は捨て台詞とともに逃げ去っていった。

「すごいですね、前原さん。あんな怖そうな3人相手に……僕だったらきっと足がすくんで動けませんよ」

「ふぇえ、だ、大丈夫ですかぁ???」

「へー、何よあんた。結構強いじゃない!逃げてったやつの1人なんか鼻血出してたわよ」

「ふー……。俺の固有結界もだいぶ磨きがかかったかな……。お、それより、オマエ大丈夫か?」

 私の方に振り返った男の子の周りに仲間たちが集まってくる。この制服は……北高の生徒たちか。

怪しすぎる大演説に圧倒されてポーっとしてる私の頭を、前原と呼ばれた彼が突然撫でてきた。

「3人に囲まれて怖かったよなぁ。でも、もうあいつらもいなくなったし、元気出せよ!」

 満面の笑みで髪をわしわしする。うーん、初対面なんだけどな。一応、デリカシーとかさ……。

まぁけど、きっと彼なりに慰めてくれているんだろう。それだけでも分かる、ガサツな性格。

私と似てるかもねー、この人。

 緊張感の解けた心にスーッと入り込んでくるつむじ風。何だろう、この感情。

「じゃあな、気をつけてな!」

 あり得ないほど馴れ馴れしいのに、妙な温もりを感じてしまった私を残して、彼は仲間たちと去っていった。

何はともあれ、助けられたことになるのかな。

 ……北高か。

 その夜、私は電話をした。

「うん、そう。それでね、そのまま行っちゃったからさー、せめてお礼がしたいなぁって。

北高の制服着てたから、詩音なら分かるかと思って……」

「なるほど、お姉も律儀な人ですねー。でも前原なんて生徒いたかなぁ?ま、調べれば分かるでしょうけど」

 電話の相手は北高に通う双子の妹、詩音だ。訳あって、雛見沢の園崎邸ではなく興宮に住んでいる。

「あと連れが3、4人くらいいたかなー。女の子何人かと、男の子1人。あー女の子の中に、肩ぐらいの長さの

黒髪でオレンジ色のカチューシャつけてる子がいたかも……」

「ん〜……あっ、あー!!! あぁ、はいはい!! その子ならたぶん分かります! 北高一有名なんじゃないかな」

「え、そうなの?」

「なんかねー、SOS団? とかいうよく分からない同好会らしきものを立ち上げて、色々不思議な活動してますよ。

涼宮ハルヒっていったかな、だいぶ変わった子みたいです。一緒にいたなら前原って人もSOS団の1人かも」

「へぇ、そうなんだ……じゃあ、その涼宮って子とは、仲良しなのかな?」

「……あれぇえー? 気になるんですかお姉? ひょっとして一目惚れ!? えええっ!!???」

「ちち、違うよ!! 違うって!!! なんとなくそう思っただけ! と、とにかくお願いね、ちゃんと誘ってよ?」

「それは別に構いませんけど、何で綿流しに? 普通に会ってお礼すればいいじゃないですか。

上手くセッティングしますよー??」

「だっ、だから照れくさいでしょ!? そういう風に改まってだとさ……」

「くすくす。お姉らしいですね。いいですよ、わかりました。私がキッチリ綿流しに連れて行きますから!」

「う、うん……ありがと。よろしくね。うん、わかった。じゃあね、おやすみ〜」

 電話を切って、少しだけドキドキしていることに気付く。きっと詩音のやつに変なこと言われたからだ。

ほんの数時間前まで自分の男キャラっぷりに悩んでいた私が、まさかこういうことで悩むなんて……。

胸の内側に広がるくすぐったい感覚。何でこんな気持ちになっちゃったんだろ。

 ホント、うかつだったとしか言いようがない。

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