ひぐらしハルヒの憂鬱な頃に
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道端から少し離れた木々の向こう、やや急な斜面を下ったところに積まれたタンスにソファー、テレビに冷蔵庫。その他諸々。こんな瓦礫でどんなハードな宝探しをする気だよ。
「はぅっ、……レナにとっては……ゴミの山じゃないんだよ……」
今度は夕立寸前の曇り空、表情の七変化は俺の心を揺さぶってばかりだ。マズイこと言っちまったかな。
ひょっとしたら何か思い出の場所なのかもしれない。
「ここはね……レナにとってはね……、
宝 の 山 なんだよ!!! だよぉぉおおお! はう〜〜かぁいいがいっぱいぃぃぃいいい!!!
かぁいいよぅかぁいいよぅぅ!!! お持ち帰り〜〜〜〜〜!!!!!」
狂人のごとく叫びながら、レナはゴミの山に駆け出していった。価値観ってやつは千差万別。否定する気はないさ。
「危ないから気をつけろよー……」
粗大ゴミが無造作に投げ捨てられているし、こんなところで遊んでいたら怪我しないとも限らない。
それに、付き合うって言ったからな、とりあえず近くに座って見守ることにする。
竜宮レナ。その性格は分かるような分からないような、底抜けに無邪気かと思えばどこか影がある一面をのぞかせたり。
部活メンバーの中でも、特に掴みにくいというか……。
暮れかかった空を眺めながらそんなことを考えつつ、次第にぼんやりとしてきた意識の内側に、無機質な音が斜め後ろから瞬時に切り込んできた。
パシャッ!
振り返るとそこにはタンクトップでカメラ片手に怪しく微笑むおっさんがいた。
「何ですか? いきなり」
「いやいや、ごめんね。夕暮れにたそがれる少年が、あまりにも絵になっていたんで、つい……。断りなく撮影してしまったことは謝るよ。すまないね。
普段は野鳥撮影がメインなんで、ちょっと気が回らなかったんだ」
おいおい、俺を野鳥と同等に扱ったのかよ。いいけどさ。
「はははっ、ごめんごめん。君は雛見沢の人かい?」
ええ、まあ。最近引っ越してきたばかりですけど。そういうあなたは雛見沢の人じゃないんですか?
「うん。僕は富竹。フリーのカメラマンさ。雛見沢には年に4回ほど来てるんだ。ここの自然は本当に素晴らしい。
それにもうすぐ綿流しだからね、今はそれで滞在しているんだ。引っ越してきたばかりじゃ、まだ見たことないかな?
奉納演舞や川に綿を流す場面なんかはすごく綺麗だよ。君も是非行ってごらん。きっと楽しめるから」
へぇ、そのためにわざわざ来るぐらいじゃ、結構すごいお祭りなのか。
「そうだね、期待していいと思うよ。ところで彼女、さっきからゴミの山で何してるんだい?」
さぁ? 昔埋めたバラバラ死体でも探してるんじゃないっすか?
「はは。嫌な事件だったよね」
……え?
ちょっと待て──
「キョンくーん!!」
富竹と名乗るカメラマンに聞き返そうと、開いた口から質問を投げる寸前で、俺を呼ぶ声にそれはさえぎられた。
レナが帰ってきたのだ。
「おっと、彼女が戻ってきたね。お邪魔しちゃ悪いから、僕はこれで。それじゃまた、キョン君」
親しか知らないはずの欲しい物、なのに何故かサンタさんがそれを知っていて、クリスマスの夜、寝ている間に枕元へプレゼントをそっと置いていってくれた、
翌朝、明らかにデパートのクリスマス用包装紙であることに微塵の疑問も持たずに、それを丁寧に開けると中からは念願の……、そして大喜びでプレゼントを大事そうに抱きかかえる、
過ぎ去りし日の子供時代のようにレナは炊飯器を両腕で包み込んでいる。
それ、そんなに嬉しいか?ってかもう壊れていて使えないし、壊れてなくても使う気になれないだろ。
「はぅ〜、こんなにかぁいい炊飯器が見つかるなんて……」
炊飯器のフタを愛しそうに撫でるレナに、かける言葉は思いつかなかった。
「なぁ、ところでさ、さっきの場所で何かあったの? 殺人事件とか」
「知らない」
俺が言い終わらないうちに、レナは拒絶をかぶせてきた。そう、否定というより拒絶。
まるでそのことを聞かれるのが嫌であるかのように。何だ? 何でだ?
今までのレナからは考えられないくらいキッパリとした口調に面食らっていると、申し訳なさそうに弁解してきた。
「あ、ごめんね。レナも去年引っ越してきたばっかりだから、よく知らないの……うん、ごめんね」
……たぶん何かあったんだろうね、あの場所で。けどそれに触れるのは好ましくない。いわゆるタブーってやつだ。
俺たちが暮らす社会、町や村、友人たちのコミュニティー、あるいは家庭。どこにだってタブーの一つや二つあるさ。
別に不思議なことじゃない。そうだろ? それを侵せば円滑な人間関係の構築に支障をきたす、ギクシャクする。
だから、触れる必要の無いものには触れない。それが良識ってもんだ。
「そっか。ま、いっか。……よかったな、可愛い炊飯器がみつかって。」
「うん!!! でもね、ほんとはケンタくん人形のほうがかぁいいんだよ!だよ!!
はぅ〜、ケンタくん人形も欲しかったなぁ」
「って、フライドチキンの店先にあるでっかい人形のことか?」
「そう。大きくって下の方に埋まってるし、取れないから諦めちゃった……」
うーん、その『かぁいい』ものの基準が分からん。
それから俺とレナは瓦礫の山について、あそこにはこんなかぁいいものもあるんだ、むこうはまだ未開の地だから今度行ってみたい、そんな話をしながらしばらく歩いて、家の近くの分かれ道にたどり着いた。
「じゃ、俺こっちだから。また明日な」
そう言って軽く手を振ろうとしたら、レナが俺を引き止めた。
「ねぇ、キョンくん。……もう少しだけ付き合ってもらってもいいかな?」
今日は目まぐるしく変わるレナの表情をたくさん見てきた。が、その時の顔は一日通して俺に見せたどの顔よりも真剣で、脳裏に火傷のごとく焼き付いた。
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