ページ:7 「綿流し?」 「そ! 毎年この村でやるお祭りでねー。キョンちゃんも行くでしょー?屋台がたくさん出たり、まぁ一見普通のお祭りなんだけどね。 最後に古くなった布団を鍬で裂いて、中の綿を川に流すの。それが供養……くょっ……くっくくっ、ぷはっ……ははっ、あははは、あっはっはっはっはっはっ……も〜ダメ、キョンちゃん面白すぎるよ! 何その顔!」 「み、魅ぃちゃん……あんまり笑っちゃ悪い……くすっ。あっ! ご、ゴメンねキョン君、そんなつもりは……」 バカ笑いする魅音と、笑いを堪えて引きつった顔のレナ。この二人と俺は家の方向が同じなんで学校の行き帰りを共にしている。 下校途中、レナも魅音も人の顔をマトモに見ようとせず、泳いだ目でチラ見しては楽しんでやがる。 さて、まずはこの状況に至るまでを説明しましょうか。 昨日、俺が早退したせいで中止になってしまった部活。特に何をするかは決まっていないが、みんなで楽しく色んなゲームをして遊ぶことを活動内容としている。妙な大義名分の無いSOS団。 つまりそんなところだ。何とも健全で素直じゃないか。……これだけならな。 ま、とにかく1クラスしかないこの学校には、そういう部活なるものが存在していて、魅音はその部長なのだ。 他のメンバーは、レナ、沙都子、梨花ちゃん。この世界での仲良しグループってやつだ。 そして俺はまだ部活に所属していないらしく、昨日が部活初日として入部試験の予定だったらしい。 無論、入部試験もゲーム。その試験の結果次第で入部が許可されるそうだ。とは言っても入部はすでに決まっていて形式だけの入部試験、そんな印象を受けなくもない。さらに、浮かれ気味の魅音や沙都子。 この時点でいやな予感はしてたんだけどね。 この部活の方針は、どんな戦いも勝利あるのみ、勝つためなら手段を選ばず、いかなる努力も厭わない。 最下位すなわち敗北者には恐ろしい懲罰が待ち受け、その回避のためなら他人を蹴落とすことすら躊躇わない。 スパルタ市民も裸足で逃げ出す冷徹なる会則のもと、日々鍛練を怠らない。そんな感じらしい。 入部試験に選ばれたゲームはジジ抜き。ババ抜きとルールは同じだが、ジョーカーを加えるのではなく、52枚のカードの中からランダムに一枚抜いて、そのカードの数字がジョーカーの代わりになる。 つまり、ババが何だか分からないババ抜きってワケだ。 そういうルールだし、多少の心理戦や深読みも必要と考え、俺は頑張ってみることにした。ここにいるやつらはおそらく毎日ハイレベルな戦いを繰り返しているだろうから、この手のゲームは強いはずだ。 対する俺の最近のゲーム遍歴といえば、下手の横好き以外に表現できない古泉相手に時々やるぐらい。 これはちょっとやそっとじゃ歯が立たないかもしれない。俺にできる最大限の努力をしなければ勝てないだろう。 よし、本気でやってやろうじゃねえか! ……と考えていたんだが、甘かった。そりゃね、みんなカードのわずかな折り目やキズ、色あせ具合まで52枚全部覚えてるんだぜ。俺だけが見えない公開ジジ抜きだったんだからな、連敗に次ぐ連敗。勝てるわけがない。 もう何とも無残な負けっぷり。しかも入部試験といえども、最下位の者には容赦ない罰ゲームときたもんだ。 初日なんで、顔に落書きだけで済ませてくれたそうだが、油性はやめて……なんて嘆願も当然のごとく聞き入れてもらえず、やつらマジックどころか口紅やらアイシャドウやら化粧品まで持ち出して、あぁ──以下、ご想像にお任せする。 ちなみに、最後まで諦めなかった心意気が評価されて俺の入部は許可された。ハイ、しばらくみんなのオモチャ決定。 そんな部活を終えての帰り道、家に着くまで落書きはそのままにしておくことを強制されている。 「いや〜、ごめんごめん。あまりに芸術的だったからさー。それでね、お祭りの最後の奉納演舞を古手神社の巫女さんとして梨花ちゃんがやることになってるんだけど、それがなかなか見物なんだよ。 だからキョンちゃんも絶対行くんだよ! 今年もやるから部活メンバー綿流し五凶爆闘!」 「あは。魅ぃちゃんやる気満々だね!」 おいおい、物騒な響きだな。部活と結びつくことでさらに凄みを増すことはとりあえず俺も学習済みだ。 お祭りは嫌いじゃないが、そんな時まで部活を延長しなくてもいんじゃないか。せめて普通に楽しませてくれ。 「あっはっは。うちの部活に入った以上、そうはいかないよ〜? どんな時、場所でも勝負があった方が気持ちが盛り上がるじゃない? んー、結果的に屋台荒らしの要素もあるかもしれないかな〜。 日頃の活動の成果を発揮するわけだからね。くっくっ、おじさん今から楽しみでさー」 対外試合ってやつか。ったく、魅音のそういう精神は女にしとくにはもったいねーよ。 「ははっ、よく言われるよ! 時々なんで自分が女なのか疑問に思うこともあるからなぁ。 それにしてもキョンちゃん、あまり乗り気じゃないのー? あ、ひょっとして……、 レナを誘って二人で行こうと考えてる!? ひと夏の思い出にオトナになっちゃうつもりとか?」 「み、魅ぃちゃん……はぅ……」 やれやれ。真っ赤な顔して困るレナをゲラゲラ笑いながらバシバシ叩く魅音。 なんて対照的な二人なんだ。ま、乗り気じゃないなんてことはないけどな。お祭りは好きだ。 部活の延長ってのも考えようによっちゃなかなか味わえない楽しみ方かもしれないし。 「そうそう、そんなわけだからさ、楽しみにしててよ! んじゃおじさんこの辺で! じゃね!」 魅音と別れると、レナがちょっぴり不安げな表情で聞いてきた。 「あ、あのさ。全然話変わるんだけど、これからレナの宝探しに付き合ってもらっても、いいかな?かな?」 宝探し……? 何だそれ? よくわからんが、別に帰ってもヒマだしな。全然構わないぜ。 「ホント? わっ、嬉しいな。じゃあこっちだよ! だよ!!」 一瞬で咲き誇るヒマワリのような笑顔になって俺の手を引っ張るレナは上機嫌を振りまいている。 この子はきっと本当に純粋なんだろう、と思いながら連れて行かれたその場所は、粗大ゴミの山だった。 [*前へ][次へ#] |