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ひぐらしハルヒの憂鬱な頃に

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 昼休みになって魅音が登校してきた。どうしたんだろう、いやに動揺した顔で教室に入り、午後の授業は自習になったことをクラスメートに伝えた後、俺のところに来る。

「キョンちゃん、ちょっ、ちょっと話があるから!」

 魅音に袖を引っ張られ、俺は校舎の裏に連れ出された。

「どうした?なんで急に自習なんだよ?」

「おじさん、しばらく今日みたいに学校遅れてくることになりそうだから、そのことを知恵先生に言おうと思って職員室に行ったんだけど、それで、先生が電話してるのを聞いたの。

断片的に聞いただけだから詳しいことは分からないけど……あのね、レナがね、たった今、北高で傷害事件を起こしたって……」

 俺は絶句した。

 何やってんだよ、レナ。

「それでね、連絡受けた先生がとりあえず行ってくるから後のことはお願いって。

今日は校長先生が出張でいないみたいだし、おじさん一応クラス委員だし」

「レナは?捕まったのか?」

「どうだろう、聞いた感じだと捕まってないっぽかったけど」

「……ここから北高には、どうやって行くんだ?一度興宮まで出ないとならないのか?」

「キョンちゃん、行くの?」

「レナのやつさ……なんか、殺人容疑がかかってるみたいなんだ。これ以上罪を…」

「え、えええっ!?さ、殺人!!??」

「北条鉄平って人を殺したらしい」

「北じょ……沙都子の叔父!??」

「は?」

「沙都子の叔父だよ!!北条鉄平って!! レナが殺したの?!?そんな……じゃあ、そのために……詩音は……沙都子も……」

 魅音はかくんと膝をついて、地べたに座り込んだ。

「詩音?そのためにって、詩音とどう関係あるんだよ?」

「……沙都子が叔父夫婦から虐められてたとき、ずっとかばい続けてたのが兄の悟史。

詩音は、悟史のことが好きだった。去年、叔母が殺されて悟史がいなくなったのには園崎家が関わっていて、もとをたどれば沙都子が悟史に甘えていたからだって、詩音はそう思っていた。

どういうわけか、今年沙都子の叔父が殺されたことで園崎家の仕業だって確信して、それでおとといあんなことを……もちろん、叔母が殺されたのも悟史の失踪も、園崎家は関わってないし沙都子が悪いわけじゃないよ?

逆恨みだけど、詩音がそう考えるのもある意味仕方がなくて……それがまさかレナが……叔父を殺してたなんて……それで……沙都子は……あんな目にあって……詩音も……ぅっ……うぅぅ……」

「あぁ、聞いたよ。詩音は……」

「うん……昨日、家に連絡があって……ぅっく……っぅうぅ……ううぅぅ……」

 すすり泣く魅音は、膝をついたまま前かがみになり、体を支える両手で砂を握りしめていた。

 そこに梨花ちゃんが息を切らしてやってきた。

「キョン!!はぁ……はぁ……魅ぃも、あれ?何かあったのですか……?」

「梨花ちゃん。実は……」

 俺はレナが起こした事件のことを話した。

「そうですか……レナは?捕まったんですか?」

「分からない。捕まってなさそうな感じらしいが。とりあえず北高に行ってみようかと思う。

見つけ次第、自首させるよ。どんな事情があるにせよ、罪は罪だからな」

「北高ですか?どうしよう……ボクも行きますです!!」

「じゃあ……魅音、学校のことは任せて大丈夫か?」

 嗚咽をこらえて無言のまま繰り返しうなずく魅音。少し心苦しいが、魅音を残して俺と梨花ちゃんは営林署を後にした。


 山あいに位置する北高へは、興宮まで出て迂回する必要はなく、山道づたいに行けるそうだ。

梨花ちゃんに先導されながら自転車を走らせる。

「ところで梨花ちゃん、さっき急いでたみたいだけど、どうかしたのか?」

「あっ、そうだ!ボクは今日も診療所に行ってましたのです。みくるもいることを思い出して、ちょっと様子を見にいってみました。そしたら、病室にいなかったのです。

どこにいったのか入江に聞こうと診察室に入ると、そこで入江が自殺していました」

「入江先生が……!?」

「診療所は大混乱、今は警察が来てます」

「どうして自殺なんか?」

「わからないです。それからボクは、みくるを探して診療所のあちこちを見てみましたが、どこにもいなかったので、キョンに伝えに来たのです。

入江のことも気になりますけど、みくるが心配でしたので……」


 北高は元の世界とそっくり同じ造りをしていた。
 周りには、救急車とパトカー、それに野次馬が集まっている。

するとその中から古泉と前原君が出てきた。俺たちに気付いたのか、こちらに向かってくる。

「午後の授業は臨時休校になりましたよ」

 そう言いながら肩をすくめて古泉が続ける。

「校内に警察の方が立ち入るそうです。なんでも犯人には殺人容疑もかかっているとか」

 レナだ。

「おや、ご存知で?」

 俺たちの学校に連絡があったからな。しかし、何でレナはこんなことしたんだ。

「どうやら涼宮さんがお目当てだったみたいです」

 ハルヒだって?

「閉鎖空間の心配もありましたので、昼休みに涼宮さんのクラスを覗いてみたんです。

いらっしゃらなかったようなので、食堂かと思い行こうとしたところ、涼宮さんはさっき授業中に教室を出ていったと前原さんに言われました」

「で、部室にでもいるんじゃないかと思って二人で行ってみたんだよ。けど部室には誰もいなかったからさ、じゃあもう帰ったんじゃないかってことで教室に戻ろうとしたんだ。そしたら……」

「レナさんが部室に入ってきたんです。驚きましたよ。それで、涼宮さんはいないかと尋ねてきました。

何故こんなところまで?と妙だなとは思いましたが、帰ったようです、と答えました。するとレナさんは部室のロッカーのところに歩いていき、なんと中から鉈を取り出したんです。

これにはぎょっとさせられましたね。僕たちはそんなものを置いた覚えがないですから」

「びびったけど、何だっけ?邪魔をしない限り、大将首以外はどうのこうの言って、そのまま部室を出てったんだ」

「当然、そんな物騒なものを持って他校の生徒がうろついていたら目立ちます。

すぐに教員に呼び止められたようですが、レナさんはその教員を鉈で切りつけ逃走しました。たぶん、裏の林道から逃げてったんじゃないでしょうか。

通報を受けて駆けつけた警察の聴取で、犯人の特徴や服装から、ちょうど殺人容疑で追っている竜宮レナさんだと断定して、さらに追跡しているみたいです。

レナさんが殺人って本当なんですか?どうにも信じられませんが」

 俺も信じたくはないけどな。


 レナはハルヒに会いにきた。昼休みに来て、いなけりゃ放課後まで待つつもりだったのだろうか。部室のロッカーの中には鉈があった。SOS団の団員はそんなものを置かない。

レナが持ち込んだものだろう。事前に校舎に忍び込んだかどうにかして。そしてハルヒが部室に来たところで、用意しておいた鉈で……

 全く以て理由は分からんが、つまりレナはハルヒを狙っているということか。


 レナを止める必要がある。これ以上罪を重ねさせるわけにはいかないし、ハルヒを守る必要もある。警察もレナを追っているだろうが、できれば警察より先に俺たちで見つけ出し、逮捕される前に自首させたい。

 前原君と古泉にも手伝ってもらえないか頼んでみると、二つ返事で快諾してくれた。

 古泉が提案する。

「二人ずつ二手に分かれましょう。僕と前原さんで興宮周辺を探してみます。ひょっとしたら涼宮さんはまだ家に帰らずに、興宮にいるかもしれませんので、涼宮さんを見付けた場合は僕らがついてガードします」

「じゃあ俺と梨花ちゃんは雛見沢を探すよ」

「レナさんは鉈を持っているので気をつけてください。『邪魔をしない限り』といって僕たちは見逃されました。ということは邪魔をすれば当然……」

「部活メンバーの俺たちにも、攻撃してくるか?」

「しないとは言い切れませんです。レナは、発症している可能性が高いです」

 ……詩音の一件でそれは身をもって理解した。したんだが、レナだぞ?あのレナが?

 梨花ちゃんは寂しそうにつぶやいた。

「そういう病気なのですよ」

「ところで長門はどうした?もう帰ったのか?」

「いえ、今日は見てませんが」

 古泉が答えた。

 こんな時に長門がいないと、どうも心細く感じてしまう。

「休みじゃないのか?部室にいなかったし」

 前原君に言われて、古泉が付け足す。

「あぁ、そうかもしれませんね。長門さんはいつも昼休みには部室にいますから」

 休み?長門でも休むことがあるのか……。

 その時だった。

「あっ!!」

 梨花ちゃんが驚く。

 その先から、優雅な歩みで近寄ってきたのは……朝比奈さん??

 純白の歯をのぞかせ、天使のように微笑みながら片手を上げる。握られてるのは、メス!?

病院から持ってきちゃったんですか?危ないですよ、それ。竹ぼうきと違って、切れますよ?

 俺たちの側に来ると、鋭利な凶器を舞うように振り下ろした。とっさに、全員が蜘蛛の子散らすように身をかわす。バランスを崩し躓く朝比奈さん。すぐに起き上がり、無垢な童顔をこちらに向ける。

「ふぇぇ……そこにキョンくんがいないと、あたしたち帰れないじゃないですかぁ……」

 つぶやくと同時に銀の刃を勢いよく突き出す。

「うわぁッ……!!!」

 よける前原君。前原君?標的は彼なのか。彼の顔、胸めがけ、何度もメスで刺そうとする。

たじろぎながら、後ろへよける前原君。朝比奈さんが、もう一度突こうと肘を引いた瞬間、腕を掴み、制止する。

「落ち着いてください朝比奈さん!!」

「なんで止めるんですか……SOS団に圭一くんがいたら元の形と違うじゃないですかぁ……大丈夫ですよキョンくん……すぐに帰れ……ふわぁっ!あぇえぇ〜……」

 俺が動きをおさえている間に、梨花ちゃんが注射器を取り出し、朝比奈さんに打った。

「みー、お騒がせな子なのです」

 朝比奈さんは、すぐにぐったりとして、その場にしなだれた。

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あきゅろす。
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