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ひぐらしハルヒの憂鬱な頃に

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 目が覚めると、遅刻ぎりぎりの時間だった。

 慌てて準備をして玄関のドアを開ける。と、レナがいないことに気付く。遅れそうだから先に行ったのかと思いお袋に聞いてみるが、今日は迎えにきてないという。

 どうしたんだろうと思いつつも、時間が時間なので、俺はそのまま学校に向かう。

 教室に入ると、クラスメートたちの中に部活メンバーは誰もおらず、三限目になってようやく1人だけ登校してきた。昼休み、一緒に弁当を食おうと声をかける。

「もう平気なのか?」

「うん。怪我も病気もしてないのにずっといるわけにはいかないからね。起きてすぐ家に帰ったよ。……レナと梨花ちゃんは?休み?」

「みたいだな」

 昨日の一件については触れず、魅音と二人、とりとめのない話をしながら箸を進める。

 結局、俺と魅音以外の部活メンバーは誰も登校してこなかった。

 放課後、俺は魅音と入江診療所に行った。診療所の受付けで入江先生を呼んでもらう。

「沙都子に会うことはできますか?」

「ええ。ですが、沙都子ちゃんとは……お話はできないと思います」

 そう言って入江先生は沙都子の病室まで案内してくれた。

 ドアを開けると、沙都子が寝ているベッドの脇で、椅子に座ってその様子を見つめる梨花ちゃんがいた。

「……」

 俺たちに気付いて振り向くが、何も言わずに再び沙都子の方を見る。

「梨花ちゃん……」

 魅音も、どんな言葉をかけたらいいか分からず、ただ黙って側に立っていた。

 そのうしろから、入江先生が言う。

「今は薬で眠っています。ただ、目が覚めても……」

 地下拷問室でうわ言を繰り返していた沙都子を思い出す。たぶん、その時と同じような状態になるだけなのだろう。

 しばらくの間、眠っている沙都子を見ていたが、俺は朝比奈さんのことも気になるので面会できないか聞いてみる。

「朝比奈さんですか?いいですよ、こちらです」

 入江先生についていく。朝比奈さんの病室に入ると、やや表情に陰りがある気がするが、落ち着いてはいるようだ。

「わぁ……キョンくん……来てくれたんですね」

 ベッドに座ったまま朝比奈さんはぺこっと頭を下げた。

「具合はどうですか?」

「はい……大丈夫です……しばらくここにいることになりそうですけど……」

「あれから色々ありまして、結局俺たちは、ハルヒの力に賭けることにしました。当初の予定通り、原状作出によって元の世界に戻ることを目指します」

「そうですか……」

「大丈夫ですよ、上手くやりますから。朝比奈さんは安心して休んでいてください」

「……はい」

 少し話した後、病室を出る。受付けにいた魅音とともに、診療所を後にした。

 帰宅し、早めに夕飯を済ませて風呂に入った。湯船でまぶたを閉じると、溜まっていた疲れが取れていくのが実感できる。

 元の世界に戻れるのか? 戻れるとして、沙都子があんな風になったままでいいのか?

梨花ちゃんにとっては、これは望んでいた結果じゃないだろう。だが俺に何ができた?

何もできないくせに、梨花ちゃんに期待させるようなことを言って……

 自分の無力さと無責任さに苛まれ、目を開き思考を遮断した。

 雛見沢に来てから初めてといっていいぐらい何もない一日だった。

 もうこのまま、何も起きないでくれ。そう思いながら風呂から上がったが、静穏を破る第一報は古泉からの電話だった。

『園崎詩音さんが自殺しました』

「……は?」

『今朝、北高近くで発見されたそうです。なんでも、喉を掻き毟って死んでいたとか』

「……はぁ!?」

『生徒の間でそういう話が広まっています。学校の方から特に説明はありませんが、どうやら確かな情報みたいです』

「じゃあなにか!?あの後、園崎邸から北高の方まで行って、そこで喉引っ掻いて死んだってのか??」

『ええ。疑問は多々残りますが。それで、涼宮さんがひどく落ち込んでしまったらしく、その話を聞いて、昼休みになったら帰ってしまったそうです。

詩音さんとは、綿流しの話があってから随分仲良くなったみたいで、きっと僕たちSOS団とは違った意味で友人として見ていたのでしょう。

その詩音さんが、異常ともいえる方法で自殺したわけですから、ショックも大きいかと思います』

「だろうな。けど、やばいんじゃないのか?あいつの場合」

『閉鎖空間が発生するおそれがあります。ですので、お伝えしておこうと思いまして』

「この世界で、もし閉鎖空間が発生したらどうなっちまうんだ?」

『僕も長門さんも分かりません。予測不能です』


 翌朝、学校に行こうと家を出ると、そこで待っていたのはレナではなく、小太りのオッサンだった。

「興宮署の大石と申します。朝早くにすみませんね」

「何か……?」

「竜宮レナさんのことで、少々お尋ねしたいんですが」

 にんまりとした笑みと警察手帳を見せながら近寄ってくる。そういえば沙都子の実家で梨花ちゃんと話していた人だ。

「昨日から彼女、家に帰ってないんですよ。学校にも行ってないようでして、どこにいるかご存知ないですかねぇ?」

「帰ってない?居場所はちょっと分かりませんけど……」

 昨晩の電話に続き、第二の警報が脳裏に鳴り響く。

「んん、そうですか。ちなみに最後に見かけたのはいつですか?」

「えーと、おとといの夜だったかな? あの、なんで警察の方がレナを探してるんですか?家族から捜索願があったとか……?」

「いえ、殺人容疑で捜査してるんです」

「殺人!?」



 時間が止まった。目に映る全てが、止まったように感じた。

「ここからちょっと歩いたところに粗大ゴミの山があるの知ってますよね?そこで遺体が見つかりまして。

あなた、数日前にその場所で竜宮レナさんと一緒にいるのが目撃されているんですよ。ま、それで何か知ってるんじゃないかと思ってきたわけです。あぁ別にあなたを疑ってるわけじゃあないんですよ」

「レナが……殺人……!? いつのことですか?」

「殺されたのは五日前でしたかな?綿流しの前日です」

「そんな……」

「被害者は北条鉄平といいまして、そいつと間宮リナという女が竜宮さんの父親から金銭をゆすろうとしていたんですよ。美人局ってやつですなぁ。

で、調べていったところ、どうやら殺したのは竜宮レナさんで間違いなさそうなんです。

ちなみに間宮リナも消息を絶っていまして……現場近くに間宮のものと思われる血痕もありましたので、そちらの件でも竜宮レナさんは重要参考人として捜査の対象となっています」

「間宮……リナ……」

「もし見かけたり何か思い出しましたら、興宮署までご連絡くださいね。では失礼します」

 そう言い残して大石と名乗ったオッサンは停めてあった車に乗り去っていった。

 レナが人を殺したって? 学校休んで家にも帰らず……今どこで何してんだよ?

 俺はしばらくそこから動けなかった。


 学校に着くと、今日も部活メンバーは誰も来ていなかった。

 梨花ちゃんはまた診療所かな。魅音は……あぁ、詩音のことで大変なのかもしれない。

 俺は授業など上の空でレナのことを考える。

 綿流しの前日──確かあの日はSOS団員会議があった。それで宝探しはナシにしてもらったんだっけ。間宮リナという女が家に入り浸ってることを聞いていた。

昼ごろには学校が終わり、それからレナは一人で帰った。持て余す長い時間、一人で過ごさなければならなかった。

家にはきっと間宮リナがいたんだろう。美人局の脅し役の男もいたのかもしれない。

 綿流しの次の日、レナは言ってたな。父はもう間宮リナには会わないって。違う、会わないんじゃない。

会うことができないんだ。あれは、そういう意味だったんだ。

 なんてことだ。IFを考えたって何にもならないだろうが、もしあの日、綿流しの前日、俺が一緒にいたら……?宝探しに行ってたら?

団員会議なんて後回しにして……何ならレナも連れてっちまえばよかった。どうせ梨花ちゃんには俺たちの正体をバラすことになったんだし。

 レナの時間を、俺が預かっていたら……

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