ひぐらしハルヒの憂鬱な頃に
≪TIPS12≫
≪例3.涼宮ハルヒ≫
鷹野三四のオヤシロさまの崇り解説(図書館)
「雛見沢村にはね、かつてダム建設計画があったの。それが実行されたら村はダムの底に沈んでしまう。それで村人たちは建設計画を進める政府と戦った。
その時の反対運動組織の名前は『鬼ヶ淵死守同盟』」
「鬼ヶ淵っていうのは雛見沢村の旧称よ。人食い鬼が現れたっていう伝承からそう呼ばれていたみたいなの。
オヤシロさまは、その鬼と人とが共存するための調停役。ただし共存のためには生贄を一人鬼ヶ淵沼に沈めなければならない。それを鬼隠しっていうの。
それから、オヤシロさまに感謝の意を表するため、もう一人、村人たちの前で腹を裂き内蔵を取り出し捧げなければならない。それが腸流し。ワタ、つまりハラワタのことね。いつのまにか別の漢字があてられるようになって、今の綿流しになったってわけよ」
「最初の話に戻るけど、ダム闘争の最中に、一年目の悲劇が起きたわ。犠牲者は建設現場の監督。バラバラ殺人が起きて、主犯者は監督の右腕を持ったまま行方不明になった。いまだに捕まっていない。
どう?一人が死んで、一人がいなくなったでしょ?ワタ流しにあって、鬼隠しにあったのと同じ形で事件が起きたのよ。ちなみに、ダム計画は結局中止になったわ」
「二年目の悲劇はね、ダム賛成派の村民。もちろん立ち退き料やら何やらがあるから、村人全員が反対したわけじゃないのよ。
といっても、狭い山村の中、村八分なんてのを恐れて、頑として賛成を貫いたのは犠牲者の北条夫妻だけだったけど。県立自然公園の展望台から転落死。
ところが死体が見つかったのは夫の方だけ。この年もまた、一人が死んで、一人が消えたのよ」
「三年目は、古手神社の神主夫婦。あぁ、古手神社っていうのはね、オヤシロさまを奉ってある神社。だから雛見沢村の中でも重要な立場にある人なの。
その人はね、ダム計画について日和見的な態度をとってたのよ。そして、神主である夫が病死、直後に妻は自殺したわ。
このとき妻は鬼ヶ淵沼に入水自殺したとされているけど、死体がみつかっていないの。
気付いてるかもしれないけど、ダム闘争という視点から考えると、一年目ははっきりとした村の敵、ダム計画に直接関わる人間。二年目はダム計画に賛成した村民、いってみれば裏切り者ね。
そして三年目は、ダム計画に反対しなかった村民。村が一丸となって政府と戦っている時に、それに歩調をあわせなかった人が犠牲になった。
毎年、ダム計画における村の敵に位置する者が犠牲になっているんだけど、その基準は年々緩やかになってきてるわ」
「そして四年目。もはや村の敵と言い切るには曖昧すぎる基準、今度は二年目の犠牲者になった反対派の親族が犠牲になったの。
北条夫妻には二人の子供がいて、二年目の崇りが起きてからその弟夫婦が引き取っていたんだけど、四年目はその子供の一人が失踪した。
失踪直前に、弟夫婦の一人、失踪した子供からみれば叔母にあたる人が撲殺されていた。
この二つの事件に因果関係があることを示唆する事実として、その子供たちが弟夫婦から虐待を受けていたことが挙げられるわ。
でも、叔母殺害の犯人として捕まったのは全く関係のない麻薬常用者だった」
「今年の犠牲になるのは、よそ者ってだけでもおかしくないわね。ハルヒちゃんも綿流し祭りに行くなら、気をつけなきゃね」
鷹野三四所有(涼宮ハルヒに貸与)のスクラップ帳【一部抜粋】
……
したがって園崎家祭具殿および古手神社祭具殿には、今も腸流しに使用した拷問器具が納められていると思われる。
これは御三家本来の役割に加え、現代の雛見沢においてもオヤシロさまとそれにまつわる古い風習を神聖視する村民に対して、示威的作用をもたらすものである。
もっとも、古手神社の祭具殿は境内近くにあるため、誰もがその場所を知っているのに対し、園崎家祭具殿の場所について確証はないが、園崎本邸内にあるものと考えられる。
このことは、両家の政治的立場を表しており、古手神社については、その神聖性を目に見える形で示し、かつ、祭具殿への立ち入りを禁ずることによって村民の意識レベルでそれをコントロールする。
他方、園崎家祭具殿は、その存在はほとんど知られておらず、しかし、鬼ヶ淵時代からの鬼の血脈を受け継ぐ形で、確実にそれは存在している。
つまり、村長を務める公由家と、雛見沢の象徴としての古手家をあわせて「明」とするならば、園崎家は「暗」の部分、すなわち『オヤシロさまの崇り』を始めとする裏の顔を担当する、といった見方ができる。
園崎家がダム闘争におけるダークヒーローとして村民から崇められていることは、その一例だろう。
このように、祭具殿は、オヤシロさま信仰を利用した雛見沢の権力構造の一要素としての意味合いを持つと捉えられるのである。
そこで次に、オヤシロさまの崇りと御三家の関わりについて考察してみる。
……
綿流し翌日、大石からの事情聴取(北高前)
「どうもすいませんねぇ、引き止めちゃって。そんなにお時間は取らせませんから。早速ですが、あなた鷹野三四さんはご存知ですか」
「ええ。知ってるわ」
「では最後に鷹野さんとお会いしたのはいつです?」
「昨日の、綿流しの終わりごろよ」
「その時なにか変わった様子はありましたか?」
「うーん、別になかったと思うけど」
「綿流しの後、どこかに行くとか、そんな話はしてませんでしたかねぇ?」
「聞いてないわ」
「そうですか。ところで綿流しの前に鷹野さんとお会いしたのはいつです?」
「おととい、図書館で会ったわよ。その時が初対面だったけど」
「なるほど。変なことお聞きしますが、図書館で会った鷹野さんと、綿流しで会った鷹野さんは、同一人物ですか?」
「??? 当たり前じゃない」
「ですよねぇ。んっふっふっふ。ちなみに富竹さんとは綿流しで会ってますか?」
「会ったわよ」
「どうでした?何か変わった様子はありませんでしたか?」
「ん〜、特にないわ。そんなに話したわけじゃないけど」
「なるほど分かりました。どうも、ご協力ありがとうございました。もしなにか思い出しましたら、どんな些細なことでも結構ですので、興宮署まで…」
「ちょっと待ちなさいよ」
「んん?なんでしょう」
「ねぇ、事件か何かあったのね!?聞くだけ聞いてあたしには何も教えてくれないなんて不公平でしょ!
協力者として、あたしには知る権利ってやつがあるはずだわ。教えなさいよ!何があったのよ!?」
「んっふっふっ、困りましたねぇ。若いお嬢さんにそう言われてしまいますと……」
「いいじゃない、減るもんじゃないし」
「……他言無用でお願いしますよ?」
「鷹野さんと、富竹さんが、お亡くなりになられました」
「えっ……?」
「綿流しの後、鷹野さんは県内の山中で焼死体で発見されたんですよ。富竹さんの方は、おそらく綿流しの帰り道、複数の者から暴行を受けた後、喉を掻き毟って死亡しました」
「喉を掻……はァ!!?」
「ですから、ご自分でこう喉をガリガリ引っ掻いたんです。肉やら血管やらを突き破るまで。爪の間から彼自身の皮膚と肉片が検出されたんで間違いありません」
「そっ、そんなこと……だって、自分でやったなんて……」
「考えられませんよ。でも現実にそれが死因なんです。ただ、直前に数人に殴られた跡がありまして、その際に富竹さんは角材で抵抗を試みたようでして……」
「じゃあ、その人たちは富竹さんを襲って殺さなかったのに、富竹さんはそのあと自殺したっていうの?」
「そういうことになりますねぇ。ですが死に方が異常すぎますので、その襲った者たちが、喉を掻き毟りたくなるような薬品でも投与したのかもしれません」
「そんな薬なんてあるの?」
「さぁ、現場検証に立ち会った医師の方は、そんな薬あるはずないとおっしゃってましたが、どうなんでしょうね。それぐらいしか思いつきませんよ。
なんせ自分の喉を死ぬまで掻き毟ったなんて尋常じゃありませんから」
「そうよね、考えられないわ……あ、そういえば詩音は?詩音に話しは聞いた?」
「園崎詩音さんですか?」
「詩音も綿流しのとき、ちょうど奉納演舞が終わるころに三四さんたちと一緒にいたの。彼女は三四さんとは以前から知り合いみたいだったから、何か分かるかもしれないわ」
「さきほど学校に確認しましたが、今日はお休みのようでした」
「そうなんだ」
「これから、彼女のご自宅にうかがってみようかと思ってるんです。……どうもご協力ありがとうございました。
すいませんねぇ、長々とお引き止めしてしまって。もし何かありましたら興宮署の大石までご連絡ください。では、よいお年を」
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