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ひぐらしハルヒの憂鬱な頃に

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 梨花ちゃんの家を出て、古手神社のふもとまで下りる。少し遅れて梨花ちゃんが来たところで自転車に乗り、俺たちは園崎邸を目指す。

 いつもの帰り道、魅音と別れる岐路のところで、いつもとは違う方向に進む。ここから先に行くのは初めてだ。

しばらくすると、辺りの様子が変わり始める。

 路肩に金網、有刺鉄線などが張り巡らされて見る者を威嚇し、所々に監視カメラまである。

周りを囲む森や山は、すべて園崎家の私有地だそうだ。そして想像を裏切らない立派な門構え。

ここに来るまでの間、梨花ちゃんが雛見沢における園崎家の立場なるものを教えてくれたが、百聞は一見にしかずといわれる通り、園崎家とは何かを視覚的に伝えてくれる園崎邸は、常軌を逸した大邸宅だった。

 この雛見沢には古くから御三家というものが存在していて、村を治めてきたのだという。

現在では園崎家が事実上の筆頭格で、分家筋もあわせると興宮周辺まで勢力を持ち、表も裏も牛耳っている。

園崎本家とはすなわち、この辺一帯の支配者なのだ。その次期頭首が、俺たち部活のリーダーである園崎魅音だというのだから驚きだ。

 とてもそんなお姫様には見えないが、……おっと、こんなことを口にしたら明日も首と胴が繋がっていてくれる保障は無いかもしれない。

 とにかく、そんな園崎家に相応しい屋敷の門前で、俺たち4人は自転車から降りた。

 時代を感じさせる古い作りの呼び鈴を押す。が、誰も出ない。

「魅ぃはお魎と二人で住んでます。夜遅いですが、魅ぃがいれば出ると思います」

 何度か押してみても、反応は無い。

「こんな時間に出かけているんでしょうかね」

「風呂でも入ってんじゃねーのか?それかもう寝ちまったとか」

 すると梨花ちゃんは勝手に門を開けた。

「鍵がかかってないのです……昼間は人がいる時なら開けっ放しのこともありますけど、夜に戸締りしていないのは変です……」

 そう言ってそのまま中に入っていく。

「おい、梨花ちゃん、いいのかよ?」

「へーきなのですよ」

 梨花ちゃんがそう言うならと、俺たちも一緒に園崎家にお邪魔する。

 だだっ広い庭の先に家屋があるが、灯りひとつついていない。そこに向かって歩いていると、途中、小さな森の中がぼんやりと光っていることに気付く。

「なんだあれ?」

「まさか……」

 梨花ちゃんが少し足早にその光の方へと歩き始めたのでついていく。

 近くまで行くと、生い茂る雑草や枝葉に囲まれた鉄扉が魔物の口のようにぽっかりと開き、地下へと続く階段の奥からもれている光であることが分かった。

 俺たちを先導していた梨花ちゃんは、立ち止まってわずかな時間身動きせずにいたが、やがて背を見せたまま、冷淡な口調でこう告げた。

「キョン、長門、古泉。ここから下におりていきます。気をつけてください」

 割と長いその階段をおりきって廊下を進むと、もう一つ大きな鉄扉があり細く開かれていた。

押し開けると、初めて見る俺でもそれが何か即座に理解できる拷問具が並び、さらに湿気と血生臭さが入り混じった空気はここに来た人にどんな印象を与えたいのか分かり易く教えてくれ、十分すぎるインパクトをもって瞬く間に俺を恐怖に包みこむ。

だが、そんな空間すら、そこで繰り広げられていた惨劇を際立たせるための演出にすぎないと思えるくらいの、壮絶な地獄絵図が待ち構えていた。

 十字型の台に横になってはり付けられ、頭から鮮血を流す前原君。その隣で、血にまみれた体の所々に破けた服をのぞかせる沙都子が、両手を吊るされる形で両足とともに拘束されていた。

手前には、仁王立ちになりごついナイフを握り締める女がいて、こちらに振り向くと、赤いしずくがしたたる前髪に覆われたその顔は、返り血で染められて鬼のような形相だった。

 何してんだよ……? 魅音……?

「沙都子!!!」

 室内に響き渡る声で梨花ちゃんが叫ぶ。

 今まさにナイフで切りつけたのか、沙都子は絶叫し、前原君は痛みを堪えるような顔をしている。

とても現実だとは信じられず、ホラー映画でも見ているんだろうと錯覚したくなる俺の横で、

「……あれは魅ぃじゃない」

 時折みせる妙に大人びた雰囲気でそう小さくつぶやいた梨花ちゃんは、両手をポケットに突っ込むと果敢にもナイフを持った相手に近寄っていく。

「来るんじゃねぇよ!!!!ぶちまけられてぇかぁァッッ!!!」

 あれは誰だ?魅音じゃないなら、詩音なのか?

 ナイフを振り回す相手を前にして梨花ちゃんがポケットから出したのは、スプレー缶と……、注射器だった。

「ふん。今回はおとなしく舞台から降りてもらうわ、詩音。ちょっと手荒なやり方だけど、感謝しなさい拷問狂!!!」

 吐き出すように言いながら飛び掛かった梨花ちゃんは、まっすぐ目を狙ってスプレーを噴出する。

「っくッ……!!ぅぅぅううううっっ!!!」

 よほど強い催涙スプレーなのか、それが直撃した詩音は呻き声をあげて怯んだ。その隙をついてナイフを持った手に蹴りを入れると、ナイフがふっ飛ぶ。

間髪置かずに足を払い、梨花ちゃんは、倒れた詩音の上に馬乗りになった。

 喧嘩慣れしすぎているその動きに見とれていたが、長門と古泉がそれぞれ沙都子と前原君を縛る器具を外しているのに気付き、手伝う。

 すると、背中を何かが押してきたので振り返る。梨花ちゃんがぶつかってきたのだった。馬乗りになったものの、体重が軽かったせいか、すぐに跳ね除けられてしまったのだろう。

 再び注射器とスプレーを構え、じりじりと間合いを詰める。

 詩音は少し距離をとり、さっとかがんで床に手を伸ばし、落としたナイフを掴もうとする。その瞬間、詩音の手にスライディングタックルが炸裂した。

かかとから滑り込んでナイフもろとも弾きとばし、仰向けの体勢のまま詩音を見上げているのは、無感情な顔をした長門だった。

 そして長門に気を取られていた詩音が、自分の目の前に梨花ちゃんが立っていることに気付いた時には、すでに梨花ちゃんは詩音の顔にスプレーを向けていて、不敵な笑みとともに容赦なくそれを噴きつけた。

「ぅぅっっつあっっ!!ぅぅううぅううあああぁぁァァァッッ!!!!!」

 梨花ちゃんは、叫ぶ詩音の頭を押さえ、その首筋に持っていた注射器をさす。やがて、詩音はぐったりとして地べたに寝転んだ。

 俺と古泉が、沙都子と前原君を拘束具から解くと、前原君の方は大した傷ではないようで、頭を押さえながらも自力で動けた。

だが沙都子の方は、いくつもの傷口からだいぶ出血しているうえ、様子が普通ではなかった。

「わたくしのせいで……にーにーは……にーにー……わたくしのせい……」

 座り込んだまま同じ言葉をひたすら繰り返し、俺たちの呼びかけにも答えない。

「沙都子!!沙都子は!?」

 心配した梨花ちゃんが駆け寄ってくる。

「急がなくては……。入江を呼びにいってきます」

 その場を去ろうとしたところ、振り向きざまに長門にぶつかった。

「んみっ!」

 いつの間にか俺たちの背後に立っていた長門は、梨花ちゃんを見つめて手のひらを広げる。

そこには小さな鍵がのせられていた。

「これ……園崎詩音が落とした……」

「鍵?何の鍵ですか……?」

「なんだろうな。まぁ、まずは沙都子のことが優先だ。ここは俺たちに任せて、梨花ちゃんは入江先生を呼びにいってくれ」

「お願いしますです」

 そう言い残して、倒れている詩音の横を通り地下室から出ていく梨花ちゃんを見送ると、長門が、

「これは?」

 血がべっとりついたナイフを持って聞いてきた。詩音が使った凶器を拾ってきたらしい。というか、触ったらまずいだろ。指紋とか……つかないかな、こいつの場合は。

「うん、とりあえずその辺に、目に付く場所にでも置いといてくれ」

 長門はコクリとうなずき、適当な台を見つけそこにナイフを置く。ふとその先に、鉄格子の張られた小ぢんまりした洞穴の牢があることに気付く。

「その中に、魅音がいるんだ」

 前原君が指をさしながら言ってきたので覗いてみると、気を失ったのか、魅音が顔を横に向けてうつ伏せになっている。格子の一部は開閉可能になっており、南京錠がついていた。

鍵を差し込むと扉が開いたので、魅音を担ぎ出し声をかける。

「おい!魅音!!大丈夫か!?」

「……ぅ〜ん……」

 ゆっくりとまぶたが上がり、魅音は辺りを見渡す。すぐに前原君と沙都子の姿をみつけ、目を大きく見開いた。

「いっ、やっ……いやっ……ぃやあああああぁぁぁあああぁあぁぁぁぁぁっっ!!!!
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい私のせいですごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいいぃいいああああああああ あ あ  あ  ぁ……」

 両手で顔をおおって泣き出した魅音。その震える肩に手を置き、もう片方の手で頭を押さえる前原君。

古泉は自分の上着を沙都子に羽織らせ、側に付き添っている。そして、虚ろな眼差しでうわ言を続ける沙都子を、立ったまま見下ろす長門。

 この状況にいたるまでに、いったい何があったというのか。

 しばらくすると梨花ちゃんが戻ってきた。

「呼んできましたです。……あれ?詩ぃはどうしたのですか?」

 地下室の扉の方を見ると、さっきまでそこにいた詩音が姿を消していた。

 入江先生は、すぐに来てくれた。数人の診療所職員が沙都子と前原君を運び、白いワゴン二台にそれぞれ乗せる。俺たち4人と、泣き続けている魅音もワゴンに分乗した。

 診療所に着くと、負傷した二人は手術室に直行する。こう一日に何度も自分の周りで傷害事件が起こるとさすがに気が滅入るな。

だがそんな俺よりも、魅音の落ち込みようは見るに堪えず、快活で男勝りな普段とはまるで別人で、暗く沈んだ鬱気の中でうずくまっている。

 俺たちは、朝比奈さんの時と同じように、受付前の長椅子で手術が終わるのを待った。惨劇の裏にどんな因縁があったのか教えてもらいたかったが、今の魅音にそれを求めるのは酷だろう。沈黙だけが時間に乗って流れていった。

 手術が終わり、入江先生らが出てきた。前原君は鈍器か何かで殴られたらしく、それほど深い傷ではないとのことだ。

沙都子は、数箇所を切りつけられていて出血量が多かったが、命に関わるほどではなかった。

しかし、例の病気の発症を抑える薬を丸一日投与しなかったため、限界を超えたところまで症状が進行してしまったらしい。

下手すると、一生焦点の合わない目で壁を見つめながら過ごすことになりかねないとか。それでも希望はゼロではないので、入江先生は全力で治療を施すと言っていた。

魅音は怪我こそないものの、精神的ショックが大きく、病院に泊まることになった。結局、沙都子と魅音を残して俺たちは診療所を後にした。

 家に帰って、自室のベッドに飛び込む。もう頭の中がメチャクチャだ。

 いなくなった沙都子はみつかった。でもどうして詩音はあんなことをしたんだ?なぜ沙都子に?
魅音や前原君と、どう関係あるんだ?

 梨花ちゃんは言っていた。仲間が誰かを殺そうとする。これがオヤシロさまの崇りなのか?

オヤシロさまの崇りって何だ?

 朝倉涼子はハルヒを刺激することを企んでいる。何をしようってんだ?いずれ俺たちの誰かを殺すつもりだって?

 この世界はどうなっていやがる? ハルヒ、これもお前が望んだ結果なのか?

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≪例2.竜宮礼奈≫
≪例3.涼宮ハルヒ≫

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あきゅろす。
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