[携帯モード] [URL送信]

ひぐらしハルヒの憂鬱な頃に

≪TIPS10≫
引き続き
≪例1.園崎詩音≫


 しばらくすると、出かけていたのだろう鬼婆が帰ってきた。園崎家の現頭首、崇りの張本人だ。

こいつが口を割ることなどあり得ないだろうが、とりあえず他の二人と同じようにしておこう。

玄関に迎えにきた私が、まさか詩音だとは思うまい。後ろ手で隠し持ったスタンガンを目の前に出されても、私が何をしてるのかも分からなかったに違いない。

なされるがままに、電流を受けて倒れてくれた。そして魅音らと同じように地下室に運ぶ。

さすがに三人も運んで疲れていたのか、拷問室へと続く長い階段の途中で手が滑り、背負っていた鬼婆を落とす。それが足元に絡みつき、危うく転びそうになったが、伏せるようにして階段に手をつき、何とかこらえる。しかしその拍子に鬼婆はそのまま転げ落ちてしまった。

 慌てて階段を駆け降りる。地下室までの階段は結構長い。鬼婆のもとにいき体を起こすと、頭から血が流れ出す。首が不自然に傾いている。

まさかと思い、持っていたジッポを目に当ててみても、反応が無い。やがて焦げ臭さが漂い、私は鬼婆が死んだことを直感した。

何てことだ。どっちにしろ鬼婆から真実を聞きだすことなどできなかっただろうが、こんなあっさり殺してしまうとは!

口を割らないのであれば、崇りの張本人に相応しい死を与えてやりたかったのにッ!!苦しむことなく、簡単に逝きやがって!!!

 死に際まで憎々しい鬼婆をもう一度背負う。自分が取り返しのつかないことをしている自覚はあったが、頭の中は冴えきって落ち着いている。

拷問室への奥へと進むと、目を覚ました沙都子と魅音がやはり何か喚いているが、耳には入ってこない。この拷問室の一番奥に、隠し井戸がある。

園崎家そのものの最深部と言ってもいい、この井戸の中にはいくつもの死体が眠っている。私は躊躇うことなくそこに鬼婆の死体を捨てた。


 私は、園崎家に何をしに来たんだろう。魅音に本当のことを話してもらいたかった。悟史くんが生きてるなら、いや生きていなくても、本当のことを教えて欲しかった。

 けど、それが叶わないことを心のどこかで自覚していたのかもしれない。もう悟史くんの行方は永遠に知りえないことを、分かっていたのかもしれない。

魅音たちを地下室に運ぶ作業を、やけに冷静にこなしていた自分を見ていると、最初から復讐を考えていて、魅音をその口実に利用しただけなんじゃないかと思えてくる。

 いつのまにか足音がはっきり聞き取れるようになっている。私が歩くとついてくるその足音は、一歩多く聞こえる。

振り返っても誰もいないのに。


6月X日(綿流し2日後)

 今日は魅音になりすまして学校に行った。誰も気付かない。

 沙都子が行方不明になったことが部活の連中に伝わっていた。同居人の古手梨花が昨日のうちに話したんだろう。

適当に周りに合わせていたら、どういう理屈か知らないが、放課後一緒に沙都子の実家に行くことになった。叔父も殺されているというのに。

 沙都子の実家で、梨花は北条鉄平が殺されていることにやたら驚いていた。

 このとき私は、二つの疑問を抱いた。

 一つは、大石の言っていたこと。同居していた間宮リナ?園崎組といざこざ?
その単語だけで考えれば、北条鉄平は何か園崎組とのトラブルを抱えていて、それが理由で殺されたようにも思える。もちろん、それを今年の崇りとして実行したと言えなくもない。

けどもし、単に組関係の問題で、鬼婆への報告の「北条鉄平も」というのが、その間宮リナという人物に続いて北条鉄平を殺害したことを意味していたなら、沙都子が生きていたことともつじつまが合う。合ってしまう。

それはつまり、私の、勘違い……?

 もう一つは、古手梨花。何故、北条鉄平が殺されていることに驚く?

祭具殿の中身は御三家の崇りへの関与を示すもの。幼少とはいえ、古手家当主に今年の崇りが知らされていないはずがない。

いや、御三家の力関係、事実上園崎家が筆頭であることや梨花と沙都子の同居関係などを考えれば、あるいは知らされていないかもしれない。

あれ……?今年の崇りっていうか、沙都子は私が監禁したんだから、古手梨花がそれを知っているわけないじゃないか。

 どこがおかしいんだろう?私の考えを繋ぐ線の裏側に、それと平行してもう一つの線が浮かぶ。

事実という名の線が。北条鉄平は崇りとは関係なく園崎組とのトラブルで間宮リナとともに殺された。

そして私が沙都子を監禁したので、行方不明になったと思い古手梨花が沙都子を探す。

そこで初めて北条鉄平が殺されていることを知った。

 私の背中に、過剰な冷や汗が滲み出た。今年の崇りなんて、なかった……?
 いや、違う。崇りはあった。

 今まさに私が起こしてるじゃないか。

 前原圭一から電話があった。瞬時に思いついた。魅音に私と同じ苦しみを与える方法を。

 綿流しの日、せっかく連れてきてやったのに魅音のやつはあまり話してないように見えたが、意外と上手くいってるのか、前原圭一からの用件はデートの誘いだった。

 私は、魅音のふりをして、ゆっくり話がしたいという理由をつけて園崎家に呼んでみた。

前原圭一は最初少しためらっていたが、結局来ることになり、行き方と場所を伝えた。

 一時間もしないうちに前原圭一がやってきた。門のところまで迎えにいくと、少し照れくさそうにしていた。家屋まで案内するふりをして横に並び、ポケットからスタンガンを取り出し前原圭一に押し当ててスイッチを入れる。

気を失ったところで、地下室まで運んだ。ちょうど背丈にあった十字型の拘束具をみつけたので、そこに括りつける。

沙都子のやつはすっかり元気をなくしていて、死んだ魚のような目をしている。

魅音は相変わらずうるさくて、泣き喚いて身の潔白を訴えてくる。

 準備が整ったところで、家屋に帰ってきた。縁側に座り、自分がしたことを、これからしようとしていることを冷静に考える。

魅音の目のまえで前原圭一を殺し、北条沙都子を殺し、そして魅音を殺すのだ。

 なんのために?誰のために?悟史くんのため?私自身のため?

 何か大切なこと、忘れていない?

 どれぐらいの時間、考えていたのか。いつのまにかすっかり日も落ちて、辺りは暗くなっていた。

 ……答えなんて無い。これで幕引きだ。もう後には戻れない。

[*前へ][次へ#]

33/43ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!