ひぐらしハルヒの憂鬱な頃に
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手掛かりなし。警察が捜してくれるということで、その日は解散、不安を抱えたままそれぞれ家路についた。
自宅に帰ってきたものの、まったくもって落ち着かない。沙都子の行方が気になる。だが落ち着かない理由はそれだけじゃない。
梨花ちゃんの言い方がどうも引っかかる。何が引っかかるのかは分からない。
出ばながくじかれた状態から考えを始めようとしたところ、電話が鳴った。今日は誰だ。
「もしもし」
回線を通して音声とともに緊張感を運んできた相手は古泉だった。
『朝比奈さんを見かけませんでしたか?』
「いや、見てないが。……朝比奈さんがどうかしたのか?」
『今日部室に来なかったんですよ。それで、クラスの方に聞いてみたところ学校には来ていたようなんです』
日頃ハルヒから数多くの屈辱ともいえる災難を強制的に受けさせられていることを考えれば、ごく自然な帰結だろ、なんて言える状況ではなさそうだ。
『クラスの方の話によりますと、今日はいつもと様子が違っていたみたいです。昨日のエンジェルモートでのことも考えますと、』
「気になるな。んで、俺にどうしろっていうんだ?」
『できれば一緒に探していただきたいのですが』
「探すったってなぁ」
『行き先は古手神社の可能性が高いそうです』
「古手神社!?」
『長門さんがそう言ってました。既に彼女が向かっています。僕も興宮周辺を一通り探してみて、いないようなら古手神社に行ってみるつもりです』
「何で古手神社なんだよ?」
『危険が及ぶとしたら、まず古手梨花さんだとか』
そういえば、しきりに言ってたな。ループを終わらせるとかなんとかって。そんで梨花ちゃんがループの中心にいるからどうのこうのって。
『ただ、一つだけ問題があります。僕はそれでも朝比奈さんを止めるべきだと思いますが……』
「なんだ?」
『もし朝比奈さんが古手神社に向かっているのであれば、目的は十中八九、古手梨花さんの殺害です。
ところが、このまま朝比奈さんを止めなければ、我々は元の世界に帰れるかもしれないんですよ』
チャリを飛ばして古手神社に急ぐ。確実に奔走癖がついてきているが、気にしないでおく。
ここが何度も繰り返されている世界であることはどうやら間違いなさそうだ。古泉の考えも朝比奈さんの意見もそこは一致しているし、朝倉涼子がそれを肯定したと長門も言った。
問題は、梨花ちゃんだ。
世界ループの中心にいて深く関わっている。俺たちが元の世界に戻るための鍵は、ハルヒではなく梨花ちゃんだと、朝比奈さんは考えている。
そして、具体的な解決策として、梨花ちゃんを殺すという単純明快な方法をとると思われる。
というのが長門と古泉の出した結論だそうだ。
あの、朝比奈さんが?
梨花ちゃんを殺すって?
そんな馬鹿な。
昨日の長門の言葉で説明するなら、そういう類の一種の病気なんだと。
正直ちょっと同意しかねるが、まぁ綿流し以来、朝比奈さんらしからぬ言動が目立つからな。ある意味説得力があるのかもしれない。
それはともかく、梨花ちゃんがどういう形でループに関わっているのかは不明だが、もしそれが正しいならば、
朝比奈さんが梨花ちゃんを殺すことでこの世界に何らかの変化が起こる可能性は少なくないという。
その場合、俺たちが元の世界に戻ることもありうるとか。
SOS団の推察は、そのほとんどが仮説に基づいている。特にこの世界から抜け出す方法について、確かなことは何も分からない。
しかし一つだけ、世界のループはほぼ断定された。そこから導かれる新たな仮説。方法は別として、朝比奈さんの考えはおそらく正しいだろう。
そう考えると辻褄が合い、答えが出てしまう疑問を俺はさっき感じていたんだ。
梨花ちゃんはこう言った。
沙都子が買い物から帰ってこないから探しに行った。いつも寄る店や近所を回ったがいなかった。
ひょっとしたら叔父が帰ってきて、沙都子を連れ戻したのかもしれない。だから実家に行ってみる。
ところが実家に行ったら、叔父は殺されていて、沙都子もそこにはいなかった。
ここまでは何も不自然なところはない。おかしいのは、沙都子の実家での梨花ちゃんの言い方なんだ。
実家にいなければ、もうどこにいるか分からないって?
どこにいるのか分からないと言うなら、それは最初からそうだろ?何故、実家にいなければという条件がつく?
逆に、実家にいないからといって、何故もう全ての手を尽くしたかのように言うんだ?誘拐されたかもしれないとか、事故にあったかもしれないとか、普通そっちを考えないか?
どうして、沙都子が帰ってこない=実家に連れ戻された、みたいな言い方をするのか。
梨花ちゃんの行動は、その等式に基づいてるように思える。まるで、そうなることを知っているかのように。
いや、あるいは知ってるんじゃないか。
別の表現をするならば、そういう世界があったんじゃないのか?
古手神社に続く石段のふもとで自転車を停める。
すっかり日も落ちてただでさえ暗いのに、空を覆い隠すように茂る木々の枝葉がより一層の闇をおりなし、少々薄気味悪さを感じながら石段を登る。
たどり着いた境内の奥から人の声がしたので、とりあえずそこに向かう。
社の近くまで来たところで、叫び声とともに誰かが駆け寄ってきた。
「みいぃぃいいいぃぃ!!!やめるのです!やめるのです!!」
梨花ちゃん!? マジかよ、ほんとに朝比奈さんが梨花ちゃんを……?
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