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ひぐらしハルヒの憂鬱な頃に

≪TIPS8≫
≪北高文芸部室にて≫


「あれ?みくるちゃんは?」

「……まだ来てませんが」

「そう、珍しいわね。詩音も昨日から来てないのよね」

「ところで涼宮さん、昨日は大丈夫でした?」

「昨日?」

「ええ。警察の方がお見えになってましたが」

「あー……ああ、あぁ。ん、大丈夫ダイジョーブ。何かちょっと、人探しとか、そんなの」

「そうでしたか。突然警察が来たものですからビックリしましたよ」

「ごめんごめん。ところで圭一、あれから魅音とはどーなのよ?」

「どうって?」

「電話番号ぐらい聞いたんでしょ?デートの約束ぐらいした」

「ん?電話番号は聞いたけど、デートの約束は……というか、まだかけてないしなぁ」

「ちょっと!何やってんのよ!!ダメよ、早く誘ってあげなきゃ!!」

「えぇ!?そう……か!?」

「そうよ。あたし思うの。魅音てすっごく奥手なんじゃないかしら」

「いやー、結構アグレッシブに見えたぞ?」

「ちっちっち。わかってないなぁ。それはあくまで遊んでる時の魅音でしょ??
じゃあ聞くけど、あんた綿流しで魅音とどれぐらい話した?」

「う〜〜ん、言われてみればあんま話してねーな」

「でしょ!?シャイなのよ、あの子は!だからホントはもっと圭一と話したいと思ってんのに、恥ずかしいからついつい遊びの方を盛り上げちゃうのよね」

「鋭いですね、涼宮さん。僕もさりげなく園崎魅音さんの様子をうかがってましたが、時々圭一さんの方を見てましたよ。
それで目が合ったりするとすごく嬉しそうにして」

「でしょでしょ!!!??そんな奥手な魅音がよ?圭一を綿流しに誘ったなんて、すっごい勇気を出したと思うのよね」

「そうなのか?」

「そうなのよ。だから今度は、圭一がその思いに応えるべきよ!!」

「そっかぁ……じゃあ何か誘ったりした方がいいのか?」

「もちろん。今日にでも電話してあげなさい!きっと魅音は喜ぶわ」

「どうしたものですかね」

「……」

「休むこともあるでしょうけど、昨日言ってましたよね。明日の準備があるって」

「異常動作が始まっている可能性は高い」

「探した方がよさそうですが、どこに行ってるのか見当もつきません」

「……」

「とりあえず、二手に分かれて探しますか。僕は興宮近辺をあたってみます。

長門さんには雛見沢の方をお願いしていいですか?」

「わかった……彼にも、連絡が取れたら伝えておいて欲しい」

「ええ、そうします。では、後ほど」


≪標的≫


「朝比奈みくるが動き出しましたね」

「う〜ん。これはちょっとマズイかも。今ループさせるわけにはいかないのよね。止めてちょうだい」

「はい。抵抗されたり、邪魔が入ったらどうしましょう?」

「あ、殺しちゃって」

「分かりました。涼宮ハルヒの方はどうですか?」

「いま一つ反応悪いかなぁ。刺激が足りないのかしら」

「あのスクラップ帳は効果あるんじゃないんですか?」

「そのはずなんだけど……ま、既定事項なんて殆ど存在しない世界だし、不確定要素もあるでしょ」

「でも、あと3日ですよね」

「そうね。それまでに変化が無かったら、何とかするわ」


≪竜宮レナの動揺≫


 鉄という男が沙都子ちゃんの叔父さんだったなんて驚きだ。

 いや、それより問題は何故オヤシロさまは鉄という男だけ鬼隠しにあわせてくださらなかったのか。私は間違ったことをしたんだろうか。

 どうしよう。あの時、なんで死体を抹消しなかったのか……。

 きっと、リナを殺すことは正しかったけど、鉄という男を殺すことは

何かが間違っていたんだ。だから鬼隠しの対象にはならなかった。

 ごめんなさいオヤシロさま。ごめんなさいごめんなさい。

 ……落ち着け。死体が見つかった以上、これからどうするかを考えるべきだ。

幸い、警察はトラブルに巻き込まれたと思ってる。下手に工作はしないほうがいいかもしれない。

 それでも、積極的なものではなくても、何かしらの手を打っておこうか。

何ができる!?冷静になれ。

考えるんだ アリバイ……遺留品……、現場に戻るのはよくない。墓穴を掘りかねない。

それこそ愚の骨頂。もっと、こう、私との結びつきを完全に否定できるもの。

 だめだ、思いつかない。どうしよう、どうしたらいい……?


≪古手梨花の溜息≫


 みんなと別れて神社に帰ってきた。社から少し離れたところにある、倉庫小屋で沙都子と暮らし始めてからもうどれぐらい経つだろう。

2階の窓からひとり空を見上げて、苛立ちを紛らわせようと溜息をつく。

 沙都子が帰ってこないということは、叔父が帰ってきてるはず。今までのパターンだと、ほぼそうなのだ。

なのに叔父が殺されている。叔父の殺害については、経験上だと圭一かレナあたりが犯人だ。

しかし叔父の帰宅がなければ動機も無いし、この世界での配置から考えても圭一はシロだといっていい。となると、

レナか、あるいは大石の言う通り園崎組とのトラブル……まぁ、この問題より、とりあえず全員の無事の方が優先だ。

 その点では叔父がすでにいないのだから、もっとも解決が困難な沙都子の虐待という心配はない。

見方によっては、まだ可能性が残されている。昭和58年6月を越えられる可能性が。

 ではなぜ私はイラついているのか。原因は分かっている。

 サイコロに例えるなら、1から6までの数字しか出ないはずなのに、出たのだ。それ以外の数字が。

 キョンという存在がいる。ハルヒという人間が、いわゆる『オヤシロさまの崇り』に関わろうとする。

 そのことが沙都子の失踪を直接引き起こしたとは思わない。けど、既に叔父が殺されているのに、沙都子が帰ってこないという事態が起きたのだ。

これまでに経験のない事態が起きたこと、それはつまり未知。

 キョンという存在は、未知という意味で沙都子の失踪と共通しているといえる。だからこそ鍵になり得るかもしれないし、また一つ絶望を教えてくれるだけかもしれない。

 そして私がイラつくのは、この視点から話ができる人がいないからなんだろう。

 日が沈んで、あたりが薄暗くなってきた。ふと、境内の方で人影がひとつ動いていることに気付く。

何やら棒状のものを手に持って、うろうろしながらゆっくりとこちらの方に近寄ってくる。

 沙都子がいないということは、私は学校にいるとき以外は一人だということ。私を殺そうと思ったら、これは絶好の状況。

 たとえこの世界に未知の要素がどれほど多かったとしても、結局、避けられないのか。

 急いで受話器を取り、魅ぃの家に電話をかける。

 ……話し中か。

 警察──だからといって無条件に信じるわけにはいかない。興宮署に電話して大石につなぐよう頼む。

「……、そうですか、わかりました」

 参った、まだ捜査から戻ってきていないとは。

 続いてレナの家にかける。

『もしもし。梨花ちゃん?どうしたのかな?』

「レナですか?お願いがあるのです!今すぐボクの家に来て欲しいのです!」

『えっ?何かあったの?』

「理由は、後で話します!とっ、とにかく今すぐ来てくださいです!」

『う、うん。緊急事態なのかな? わかったよ!すぐ行くから待ってて!』

 電話を切っても胸の奥のモヤモヤした渦が拭えない。レナだけでは不安だ。下手したら二人して殺される。

 私は再び受話器を取る。

「……、はい。それならいいのです。失礼します」

 キョンは出かけたか。こんな時になんてことだ。

 そろそろ話し終わっただろうと思い、もう一度魅ぃの家にかける。……まだ通話中なのか。

 窓の端からのぞくように外の様子を確認すると、人影は明らかにここに向かって歩いてきている。

 そこでハッとする。しまった!電気をつけたままだった!これでは在宅を示しているも同然。

 慌てて電気を消すが、消したあとですぐに後悔する。

ついていた電気が消える。ますます家の中に私がいることを知らせてしまっているではないか!

 落ち着け!こんな時こそ平常心だ。見たところ相手はひとり。家の扉まで来たところで、こっちから出よう。

勢いよく飛びだせばむこうも一瞬驚くはず。その隙に全力で走って、大声で助けを呼ぶ。

 よし。一か八か、その作戦でいこう。沙都子がどうなったのかもわからないまま殺されてたまるか!

 扉の内側から耳をあてると、もう足音が聞こえるぐらいの距離だ。

一歩、また一歩。近付くたびに少しずつ足音は大きくなって……止まった。そこに、いる。

 今だッ!!!

 力まかせに扉を開けて駆け出す!

 そいつの脇を抜けて、見慣れた境内の景色が目の前に広がった瞬間、思いっきり地面を蹴って前へ振りだそうとした足に何かが引っかかった。

「あっっ!!!!」

「ふわっ……!!」

 相手の足に当たったのだ。

 景色が上に流れて、私の頭は即座に諦めで満たされていく。

 手と頬を地べたについてすりむいた痛みを感じながら横を見ると、もつれて一緒に転んだその相手は、

「あれ??」

「ふぇえぇぇ〜……」

 制服姿で竹ぼうきを手にしていた。

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