ひぐらしハルヒの憂鬱な頃に
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梨花ちゃんの話によると、沙都子がおつかいから帰ってこないので、心配になっていつも買い物するような店や、近所の家などを訪ねて回ったが見つからなかったらしい。
いくつかの惣菜屋では沙都子を見かけたと言われたが、その後の足取りは分からなかった。自分が探してる間に神社に帰っているかもしれないと戻ってみたものの、その期待は裏切られただけだった。
一応、警察にも言ってみたが、まだ事件というわけでもないし、とりあえず気をつけて巡回を行うという返事しかもらえなかった。ということだそうだ。
もう夜9時を回っていて、沙都子と別れてから5時間は経っている。いくらなんでも買い物にかかる時間じゃない。
『キョンのところにはいませんですか?』
「んー、家には来てないが、魅音やレナには連絡してみたか?」
『魅ぃは電話に出なかったです。レナはまだです』
「あぁ、魅音はバイトだったっけ。で、どうする?探しに行くなら手伝うぞ」
『それはありがたいのですが、もう探しても見つからないと思います』
「そんな、他に沙都子が行きそうなところは無いのか?」
『一つだけ……でも、そこにいるなら行方不明じゃないから……』
「そうなのか?ほんとに大丈夫なのか?」
『後でレナに電話して、もし探しに行くならまたキョンにも連絡するです。
み〜……、申し訳ないのです』
「気にするなよ」
『明日、学校が終わったら、もう一つの居そうなところに行ってみるです』
「分かった。俺も行くよ」
『ありがとうなのです』
そう言って電話を切った。
何だろう、非常によくないことが起きるんじゃないかという予感。
その日はもう家に電話はかかってこなかった。
次の日、学校へ続く道で、レナと魅音にも沙都子の話をする。あれからレナの家にも連絡があったようで、顔をあわせた時からずっと心配そうなままだ。
魅音もまた、沙都子の身を案じて、今日は部活中止で探しに行こうと言った。
教室に入ると、やはり沙都子の姿は見えない。梨花ちゃんは完全に気落ちした様子で一人席に座っていて、俺も、トラップの無い教室を寂しく感じた。
授業が終わると、梨花ちゃんが周りに集まってきた俺たちに告げる。
「沙都子の……実家に行ってみるです。昨日あちこち探したので、いるとしたら、もうそこしかないと思います」
実家って、梨花ちゃんと暮らす前に住んでいたところ?
「うん。ずっと別居していた叔父さんが帰ってきて、連れ戻した可能性があるからね。でも……」
「また去年みたいなことになっちゃうのかな……」
確か叔父夫婦から虐待を受けていたと、昨日魅音が説明してたな。
でも、そんなんだったら、逆にこっちが連れ戻せばいいんじゃないか?
「法律とか、そういうのがあって、そう簡単にはいかないんだよね」
そうか。まぁ、とりあえず行ってみるしかないだろう。というわけで、俺たちは4人でそこに向かうことにした。
沙都子の実家に着くと、ドキッとさせられる光景が待っていた。
立ち入り禁止の黄色いテープが家の周りを囲んで、警察官らしき人たちがうろつく。
おい、沙都子に何があったんだよ!?
梨花ちゃんが小走りで近寄って、テープに書かれた文字を無視してくぐり抜ける。
「あっ、コラっ!!」
警察官らしき人に制止されると、珍しく声を張り上げた。
「何だこれは!どういうことなのだ!!」
すると、一人の体格のいい刑事と思われるおじさんが梨花ちゃんのそばに来た。
「おやおや、どうなされました〜?」
「大石!!これは何だ!」
「あれ、古手さんじゃないですか。ダメですよぉ、勝手に入ってきちゃ。大したことじゃあありませんよ。
興宮のチンピラが一人殺されましてねぇ。それがこの近くで死体が見つかったものですから、そいつの実家に手掛かりが残ってないか調べてるんです」
「殺された?叔父が?じゃあ沙都子はどこにいるんだ!!!」
「沙都子とは北条沙都子さんのことですか?彼女がどうかしたんですか?」
普段からは想像もつかない梨花ちゃんの興奮ぶりに、しばし呆気にとられてしまったが、やがて梨花ちゃんは落ち着きを取り戻して刑事に伝えた。
「……沙都子が、昨日から帰ってこないのです。ここに居なければ、もうどこにいるのか……」
「失踪なされたということですか?んんん、ここは北条沙都子さんの実家でもありますからねぇ、なるほど。
ではこちらの方で捜査しておきましょう。お〜い熊ちゃん、興宮署に連絡入れといて!」
「叔父は何故殺されたのですか?」
「んー、ちょっとまだ分からないんですがねぇ、興宮で同居していたと思われる間宮リナという女の足取りが途絶えてまして。
どうもその女が園崎さんとこの組と、何やらいざこざがあったらしいとのことなんです。ま、その関連でしょうか。ねぇ、園崎さん?」
刑事が魅音の方に視線を移すが、魅音は表情一つ変えずに無言で刑事を見ていた。
「どうした、レナ?」
レナが遠くを眺めるような顔のまま固定されていたので、ふとたずねる。
「……え?……あ、うん。何でもないかな。……かな」
どうしちまったんだみんな。ここでも俺一人、周囲の事情と状況についていけずに、取り残されてる感じだが、もはやそれにも慣れてきた。
ただ一つだけ分かるのは、結果的に、今年も一人が死んで一人がいなくなったという事実が、残酷にも突きつけられたというわけだ。
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≪北高文芸部室にて≫
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≪竜宮レナの動揺≫
≪古手梨花の溜息≫
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