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ひぐらしハルヒの憂鬱な頃に

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 エンジェルモートに入ると、窓際の席で既に古泉と朝比奈さんが待っていたので、俺たちもテーブルに着く。

古泉の野郎がごく僅かでも朝比奈さんと二人だけの時間を過ごしたと思うと、俺にとっては非常に面白くない状況のはずなんだが、

そう感じさせないのは何となく二人の空気が倦怠期のカップルのように冷めて見えたからかもしれない。

 今日はデザート半額フェアなんてものをやっているようで、ゴージャスにデコレートされたケーキなど、見ただけで胃が重くなりそうなデザート写真がメニューに並ぶ。

そして甘党の設定でもあるのか、長門がそれを凝視している。

 アイスティーとジャンボキャラメルチョコレートパフェを頼む……と、注文の品を確認をするウェイトレスに見覚えがあることに気付く。

「あれ、喜緑さん?だよね? 奇遇ですね……」って言ってる自分で突っ込みたくなる。奇遇にも程があるだろ。

まぁ、北高もあるわけだし、何かの拍子に巻き込まれたとしてもおかしくはないかもしれんが、よりによってこんな所でバイトまでしなくてもいいだろうに。

 喜緑さんは困ったような笑顔を見せて厨房のほうに消えていった。

 二人分のオーダーが済むと、古泉が毎度そうするように、俺も一応報告をした。

「来る途中たまたま長門と一緒になったんだが、そこで朝倉に会ったぜ。俺に何の恨みがあるのか知らんけど、

謎の脅しを残していきやがった。この世界で何度も殺されるとか何とかってな」

「それはどういう意味でしょう?」

 知らねえし、知りたくもないね。

「朝倉涼子はループを肯定した」

 長門が言葉を挟んだ。……なるほど。んで、俺はループするたび何者かに殺されるってわけか。

「そう。あなたはこの世界で何度も殺される」

 うん、別に復唱する必要はないぞ長門。そこはループ無しで頼むわ。

「ハルヒの方はどんな感じだ?変わった様子はあるか?」

 今日の本題は、ハルヒの言った『オヤシロさまの崇り』だろう。俺もさっき、魅音から聞いたところだ。

オヤシロさまの崇りってのが何なのか。

「涼宮さんは、その『オヤシロさまの崇り』について興味津々のようです。

部室に何やら厚めのファイルを持ってきましてね、中身は新聞記事のスクラップなどノートのようなものでした。

そこにはオヤシロさまの崇りについて詳しく書いてありまして、それを基に僕たちに色々と説明してくれましたよ。

それで、今日あたり誰かいなくなってもおかしくないから気をつけるようにと言われました。変わった事といえば、腕章に書いてある文字ぐらいですかね。

『団長』から『陰陽師』になってましたよ」

 ほっとけ。それよりそんなファイルをあいつはどっから見つけてきたんだ。

「聞いてみたんですが、企業秘密だと言って教えてくれませんでした」

 しかしなぁ、今度ばかりはイカンだろ。あいつはどうせゲーム感覚で考えてる。妙なファイルはさしずめ取扱説明書ってところか。

 だがな、人が死んでるんだ。自分の身近で起こらなければ現実感が沸かないのはもっともかもしれないが、

対岸の火事なら許されるなんて理屈は無い。それに、俺にとってはあながち対岸でもないんだ。

「どういうことです?」

 犠牲者の中には、沙都子や梨花ちゃんの両親もいる。2年目は沙都子の親、3年目は梨花ちゃんの親だ。

「それは……驚きましたね。涼宮さんの説明では、
2年目に死亡した夫婦は、1年目の発端となったダム計画の誘致派の人間で村全体と敵対関係にあったこと、
3年目に病死した神主さんはダム計画について日和見主義でどちらかというと中立派だったことがクローズアップされてました」

 ……それこそどういうことだ?

「つまり、被害者は皆ダム計画における『村の敵』、もしくはそれに準じた立場と位置づけることができる、ということなんですよ。

1年目は直接ダム建設に関わる人間、4年目は反対派の親族と、年々『村の敵』の基準は緩やかに解釈されていってますが」

 待て。それじゃまるで村ぐるみでの犯行みたいじゃないか。だいたい殺されただけじゃなく、自殺や事故もあるんだぜ?

なのに被害者が村の敵に位置するからってそんなの──

「ただの偶然でしょうか。それとも人の意志によるものでしょうか。あるいは、……本当の崇りなのか。

オヤシロさまの崇りの謎とは、その点に集約されます」

「警察……」

 長門がポツリとこぼした。警察?

「あぁ、そうでしたね。先ほど言い忘れたんですが、涼宮さんが帰り際に警察の方につかまってました。

といっても逮捕ではなく、任意にお話を聞きたいだけみたいだそうですが」

 警察がハルヒに何を聞くってんだ?あいつとうとう何かやらかしたのか。

「そういう訳ではないようです。校門のところで少し立ち話をしていくというので、僕たちは先に帰らされました。

たぶん明日、何の話か教えてくれるかと思います」

 なら大した事じゃないのかもしれないけどな、大した事になる前にオヤシロさまの崇りからは手を引いた方がいい気がするんだ。

個人的直感というか、そういうものが警鐘を鳴らしてる。

「かもしれませんね。でもSOS団入団についてはどうするつもりです?」

「……そこなんだよな。昨日はSOS団の入団に話を持っていけたところはよかったんだが。まさかハルヒのやつがこんな厄介な問題と結びつけてくるとは思わなかった」

 俺は窓の外に視線を移して考え込もうとしたが、朝比奈さんの不機嫌そうな声色に引き止められた。

「別に平気なんじゃないですか、キョンくんがSOS団に戻れなくても。ループさえ終わらせられたら、脱出できると思います」

 えっと、朝比奈さんのご意見を否定するつもりは全く無いんですが、俺がSOS団に戻ってこなくてもいいなんて、そんな寂しいこと言わないでくださいよ。

 涙腺がゆるみそうな俺をよそに、古泉がやわらかい口調で聞き返す。

「と、おっしゃいますと?」

「よく分かりませんけど!あたしはそう思いますよ」

 朝比奈さんはそう言うと、それ以上の質問は受け付けないという顔で、そっぽを向いてしまった。

 とりあえず、俺の方で調べるわけにはいかないんで、SOS団はハルヒが暴走しないように気を回しつつ、もうしばらく様子を見ることにした。

 一段落したところで「それじゃ、あたしは先に帰りますね。明日の準備もあるし」と、朝比奈さんは

ツンとしたまま席を立って行ってしまった。

 朝比奈さんが去ると、古泉は爽やかさを残したまま困ったような顔で肩をすくめる。

「なにか彼女の機嫌を損ねるようなことを言いましたかね、僕は。どうも嫌われてしまったような気がします」

 朝比奈さんがお前を恋愛的な意味で好きではないことは保証しよう。これから先もそのような感情を抱くなんて間違っても無いこともな。

だが、嫌われてるわけではないと思う。俺は朝比奈さんの無愛想な態度の理由として思い当たることを説明した。

昨日エンジェルモートで聞いた朝比奈さんの話を。

「なるほどそうでしたか。そんな話をしていたとは……僕たちは信頼されてないのですかね。少し寂しい気がします」

 僕たち、の中に俺は入ってないぞ。俺にだけは話してくれたからな。と、まあそれはいいとしてだ。

信頼……というより、朝比奈さん自身の様子がおかしいように思えるね。

「有機生命体共生型情報生命素子が空気分子間を拡散的に伝達する方式によって朝比奈みくるに吸着している。

当該情報生命素子の活動により朝比奈みくるの思考が制御されている可能性がある」

 どういうことだ?

「そういうこともあるんですか?だとしたら……」

「ある。昨日の時点で竜宮レナにも同傾向の思考阻害が確認された」

 レナの様子も変だった。で、どういうことなんだ?

「おそらく私たち全員に同様の情報生命素子が伝達している。ただし生命体の態様によって活動状況が変化する上、異常動作の傾向にも差がある。

したがって、保有が認められても必ずしも異常動作をきたすとは限らず、また、その傾向から保有の有無を判断することはできない」

 最近、俺の質問はスルーされる傾向にあることは分かるんだが、長門の言ってることがイマイチ分からん。

「つまり、朝比奈さんの様子がおかしいのは、ウィルスのようなものが原因だというのです」

 古泉が補足する。そんなことがありえるのか?レナもそうだってのか?

「そう」

 人の機嫌とか、そういうものを変えちまうウィルスなんてどうにも信じられんが、長門が間違ったことを言うとは思えない。

だとしたら、朝比奈さんやレナだけじゃなくて梨花ちゃんも──何かに取り憑かれたようにハルヒを諭したあの梨花ちゃんも、言葉通りそのウィルスに取り憑かれてたってのか?

 団員会議を終えて家に帰り、夕食後にまったりしながら考える。

オヤシロさまの崇りといい、妙なウィルスといい、この村には何かあるんだ。その見えない何かに推理を巡らせようとしたところ、電話のベルがリビングに鳴り響く。

受話器を取ると、相手は梨花ちゃんだった。

『キョン、助けて欲しいのです。沙都子がまだ帰ってこないのです……』

 そう言われて古泉の話を思い出す。ハルヒが「今日あたり誰かいなくなってもおかしくない」と言ってたって?

 どういうことだよ、ハルヒ。

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あきゅろす。
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