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ひぐらしハルヒの憂鬱な頃に

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 「あなた方に合流する前、朝倉涼子さんに会いましたよ。偶然と言っていいのかどうかは分かりませんが」

 ……。

「綿流しを知っていたことも引っかかりますけど、このお祭りはいろんな所に呼びかけているらしいので、まあそれは不思議じゃないかもしれません。しかし彼女はこんな所に一人で、何しに来たんでしょうね」

 綿流しを見に来たんだろ?って答えは不正解ということぐらいしか、俺には分からんよ。

「魅ぃちゃ〜ん……キョンく〜ん……たすけ……」

 後ろを見ると、でっかいぬいぐるみを抱えたレナが人ごみに翻弄されて流されそうになっている。

「ほらキョンちゃーん!!くまの世話で手一杯のレナを世話してあげなきゃー!!」

 今さら何を言っても身に覚えのない冷やかしを続けてくるであろう魅音を、口の端を引きつらせたまま目を細めて睨んでから、レナのところに行ってその手を取る。ずいぶん華奢だな。ちゃんと食ってんのか。

「急がなきゃ置いてかれちまうぞ」

「……う、うん!」

 祭壇の前に大きなかがり火が二つ、真っ暗な夜空の下、真昼のような明るさで光と熱を放っている。

「キョンさーん、レナさーん!こちらでございますわ!!」

 最前列で手を振る沙都子の元までたどり着く。

「さぁ、そろそろ始まるよ?」

 ドーン!!!という一際大きい太鼓の音で場は一斉に静まり返り、厳かな神事が始まった。

 神官に扮した町会の爺さんたちを引き連れて、巫女装束を身にまとった梨花ちゃんがゆっくり登場する。

凛とした顔つきで、ややこしい形の大きな鍬を持つ梨花ちゃんは、ちょっとカッコよかった。

 祝詞をあげ、祭壇の前のしめ縄で飾られた布団の山に近付くと、鍬を振り、布団を突付く。

その動作にどんな趣旨が込められているのか聞くと、人間に代わって冬の病魔を吸い取ってくれた布団を清めているんだとレナが説明してくれた。

 汗だくの梨花ちゃんは、鍬を振るたび重さに体が負けて左右によろめいている。

沙都子はそれを見つめて、梨花ちゃんに負けないほど必死な顔で、無言の声援を送り続ける。

 ふと気付くと、隣で朝比奈さんが怪訝そうに祭壇の方を眺めていた。未来にはこういうのないんですかね。

「あの子……ひょっとして、あの子のせいで……」

 よくわからないことを口走る朝比奈さんに、梨花ちゃんがどうかしたのか聞こうとしたところ、どん!と大太鼓が鳴り、梨花ちゃんが黙礼をして祭壇を降りた。それを大きな拍手が迎える。

神官役が布団を担ぎ上げ、それに見物人が付き従ってぞろぞろと移動を始めた。

神社の大階段を行列になって降りると、沢のほとりにやってきた。ここでもかがり火が煌々と焚かれている。

「ここで、布団の中の綿を少しずつ取ってみんなに配るの。文字通り綿流しをするんだよ!」

 そういって俺の分の綿をもらってきてくれたレナにならって、綿を右手に持ち、左手でお払いした後、額、胸、へそ、両膝を軽く叩く。奉納演舞の後のこれが綿流し祭のエンディングらしい。

「これをね、心の中でオヤシロさまありがとうって唱えながら3回繰り返すんだよ。

そうすると体に憑いてた悪いのが綿に吸い取られるから、川にそっと流すの」

 オヤシロさま?

「うん。雛見沢の守り神なの。御利益もあるけど崇りもあるから、ちゃんと敬わなきゃだめだよ」

 言われた通りにした後、レナと一緒に水面に綿を浮かべた。

「綺麗だなー。こういうのが祭りの最後にあると、何かこう余韻があっていいよな。

いやぁ今日は楽しかったよ、誘ってくれてありがとな、魅音!!」

「あ、え、そそそんな、私は!……」

「魅音さんどうしたんですのー?赤くなってましてよ〜??」

「ちち違うよ、これは火の明かりで!」

 SOS団の連中も、魅音や沙都子に教わりながら同じようにしている。朝比奈さんは、へぇー、へぇーと物珍しそうに流れていく無数の綿を目で追っていて、長門も綿を持ってお払い中だ。

……約一名うるさいのが見当たらないが……欲張って布団ごと流そうとして、そのまま自分も流されたのかね。

 と思ったら、だいぶ離れたところからハルヒと詩音がやってきた。

「とっても素敵じゃない!感動したわ!!あたしね、日本の伝統文化みたいなのは重んじるべきだと思うの」

 そうだな。ついでに常識ってやつももう少し重んじてくれ。

 賑やかな祭りの後の、しめやかな儀式で身も心も清々しくなったところに、巫女さんの衣装の梨花ちゃんが小走りで戻ってきた。

「みーー!!!見てくれたですかー??」

「梨花ちゃんお帰り〜!!よかったよ!」

「あの鍬すごい重そうだったのに、頑張ったよね?」

「当然ですわ!!毎日餅つきの杵であれだけ必死に練習していたんですもの!!最高でしたわ梨花!」

「ほんとお疲れさまだね、梨花ちゃん!」

「ありがとうです。無事に終えることができて、ホッとしたですよ〜」

「その小さな体で、ちゃんとサマになってたのは凄いと思います。僕たちも楽しませてもらいましたよ」

「なー、カッコよかったぜ梨花ちゃん!」

「古泉に圭一も……ありがとうなのです!!」

 みんなに迎えられて安堵の色でいっぱいな梨花ちゃんの笑顔からは、大役を成し遂げた満足感が溢れていた。

うん。実にいいね。何がって、今日の綿流しも、この仲間たちもだ。

 こんな素晴らしい光景の中で、誰が想像できたっていうんだ。少なくとも俺には無理だったね。

まさか自分が、これから凄惨な事件に巻き込まれていくなんてな。いや、もうすでに渦中にいたという方が正しいか。

 散々遊んだから、まだ遊び足りないってわけじゃないんだが、何となく帰りたくない気分の時ってのがあるもんで、ここにいる全員がまさにそんな気持ちだったんだろう、俺たちはそのまま立ち話をしていた。

「それで、宇宙人とか未来人は見つかったりしたの?」

「全然ダメ。何度も興宮近辺を探索してんだけどね。むこうもバカじゃないから、

きっとバレないように策を弄してるんだわ」

「そういえばキョンさんもそんなようなことを言ってませんでした?」

「ああ、言ってたねぇ。入部試験の前の日かな。宇宙人・未来人・超能力者だっけ?

何ならキョンちゃんも入れてもらえば?おじさんは構わないよ、部活と掛け持ちしても」

「え……でも、魅ぃちゃん……」

「それは面白そうですね。僕たちにとっても、活動範囲を広げるという意味で、

雛見沢支部というのは悪くないと思いますよ。どうですかね、涼宮さん」

「別にいいわよ」

 ハルヒはあっさりOKした。と思わせたが、やはり一筋縄ではいかなかった。

「ただし条件があるわ。……SOS団には今取り組んでる課題があるの」

 ハルヒを除くSOS団全員の顔に「そうなの?」と書いてあることは、何も特別な能力を持たない俺にも見える。

「それはね、オヤシロさまの崇りよ!!あんたにその解決まで求めるのは酷ってもんだわ。

あ、もちろん崇りの解決を手土産にしてくれてもかまわないけど。でもまぁ無理ね。

オヤシロさまの崇りはあたしが解決するんだから!そうねぇ……、あんたは真相を暴くのに手柄の一つでも立ててきたらSOS団に入れてあげようじゃない!」

 何だそれは。俺が質問をする前に、ハルヒを真っ向から否定する言葉が飛んできた。レナだ。

「あはははははははははは。おかしなことを言う人だね。あはははははははは。

オヤシロさまは、“いる” の。それを解決だの暴くだのって……

そんな訳の分からないことを言う人たちにキョンくんは渡せないかな??かなぁ!!!」

 いや、だからオヤシロさまの崇りって何だよ。というか落ち着けレナ。

 完全に面食らった様子のハルヒに、梨花ちゃんがささやくように問いかけた。

「オヤシロさまの崇りを……解決するのですか?ハルヒ」

「そうよ!崇りって言われてるけどあたしには分かるの。オヤシロさまの崇りには事件の匂いがするわ!」

「匂いがするじゃないですよ、事件なのです。……解決するのは無理ですよー、にぱ〜☆」

「なっ……なんでそんなことが言えるのよ?やってみなきゃ分かんないでしょ?」

 場が少しずつ凍っていく中、魅音の表情は既にマイナス273度ぐらいに達していた。

「無理なものは無理なのですよー、みぃ〜〜にぱーーー☆」

 そう言いながら梨花ちゃんは何故かくるくる回り出して、ハルヒをおちょくるように笑う。

「ふふん、いいわよ見てなさい!あたしがオヤシロさまの崇りに終止符を打ってみせるわ!」

 意地になってハルヒが返すと、回っていた梨花ちゃんはハルヒの方を向いてピタッと止まり、不気味さを含んだ無表情で声高に言い放った。

「分からないやつだな、無理だと言ってるのに。ま、いいわ。やれるもんならやってみなさい。

  せいぜい、祟 ら れ な い よ う に 気 を つ け る こ と ね ?

    くすくすくすくすくすくすくすくす……」


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≪朝比奈みくる説≫
≪上納金横領疑惑の解決≫
≪オヤシロさま≫
≪宴の後≫
≪鷹野三四の死亡について≫


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あきゅろす。
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