ページ:17 「私は遠慮しておきます。お姉の部長としてのメンツを潰すことになっちゃいますし、人数だって合わないじゃないですか。みなさんが遊ぶのを見てます」 「じゃあ、あっちは一人だけ二回ってのはどうだ?ちょっとキツイか?」 「それはいい考えね、圭一。それでどうかしら?」 「詩ぃちゃんがよければ、いいんじゃないかな?こっちは魅ぃちゃんが二回やるし」 「えぇ!?わたし!?!?」 「あー、それならいいですよ。くすくす」 「じゃ、決まりね!!」 「大将戦は2ポイントというのはどうでしょう?偶数回だと、引き分けもありますよ?」 「そうですわね。やっぱり勝敗はハッキリさせておきたいところですわ」 「じゃあ古泉くんの言うように、大将戦は2ポイントね。こっちはもちろんあたしよ。そっちは魅音が大将でいいのかしら?」 「もちろん、常勝無敗の魅ぃが相手するですよ」 「たのむぞ魅音。3ポイント分戦うことになるが、頑張ってくれ」 「うん、まかせといて!」 「それと途中で勝負がついちゃっても、最後までやるっていうのはどうかな?」 「そうしましょう!それならみんなが楽しめるわね。じゃあ最初の勝負を何にするか、ジャンケンで決めるわよ?準備はいいかしら?」 SOS団と部活、それぞれ五人のチームから一人ずつ順に出て勝負をする。ただしこっちは魅音が二回出て、SOS団の方には詩音が入り、全部で六回戦おこなう。 最初の勝負の内容はジャンケンで勝った方のチームが決め、以降は勝負に負けたチームが次の勝負内容を決める。 内容は露店でできることなら何でもよし。 一人勝つごとに1ポイント、最後は大将戦として2ポイント、計7ポイントの奪い合いで、団体としての勝敗を決める。 以上のルールでSOS団&詩音vs部活の露店バトル開催が決定した。 脳内の辞書から遠慮なんつー文字はとっくにアンインストールされちまってるハルヒのおかげで、部活とSOS団は最初から臨戦態勢かと思ったが、詩音や古泉の仲裁で丸く収まり、その後沙都子の 提案で、俺たち部活がやるつもりだった勝負にSOS団も混ざることになった。 ハルヒのやつは数分前の自分の言動を省みる気ゼロという図々しさで沙都子の話にすっかり乗り気になった。 レナがハルヒに突っ掛かったのはちょっと驚いたが、納得できないこともないというか。 しかしそれ以上に意外だったのは、ハルヒがわずかながらレナに気圧されていたことだな。 それはともかく、我らが部活について雄弁に語る魅音に対して、ハルヒは得意の負けん気でSOS団の素晴らしさを演説したところ、それならば露店の勝負はSOS団対部活にしよう、という流れになるのも当然で、俺たちは小川に浮かぶ落ち葉のごとくその流れに身を任せた。 念のため、イカサマはしないよう長門にはコッソリ釘をさしたが、秒針の10分の1ぐらいの動きでうなずくそれは、しないという意味なのか、この世界ではできないという意味なのか、相変わらずの無表情からは知る由もなかった。 最初の種目は輪投げに決定した。一回につき三投、多く取った方が勝ち。決着がつくまで繰り返す。 こちらの先鋒はレナ、SOS団は古泉を出してきた。 どっちが勝つかなんてクリアブラック液晶より鮮明だろう。古泉があらゆるゲームを不得意とすることは証明済みであり、その検証結果がいかに信頼できるものかを示すように、また一つ黒星という記録がデータベースに追加された。つまり、一回目にして3対0で古泉の負け。 一方レナは、景品に『かぁいい』ものを見つけると、それがどんなに輪投げに適さない形であっても、 あざやかに輪の中心に通した。 負けたことが嬉しいのか、爽やかなハーフスマイルを崩さず真性のマゾかと思わせる古泉に、緒戦がいかに大切かを力強く説きつつ怒るハルヒは、説教が終わるとキッとこちらを睨み 「次はあれよ、ヨーヨー釣り!こっちはみくるちゃんが出るわ!」 と朝比奈さんの両肩を鷲掴みにした。 「それならこっちは、梨花ちゃんでいくよ?」 いい人選だ魅音。萌えと萌えのガチンコ対決だな?俺的には朝比奈さんに軍配三枚あげたいんだが。 「手加減はしないのです」 にぱーと小悪魔のように笑う梨花ちゃんに、むむっと言いながら金魚柄の浴衣の袖をまくる朝比奈さん。 全員が普段着で来てる部活メンバーとは対照的に、SOS団の女三人は、みな浴衣を着ている。 ハイビスカス柄をまとうハルヒに、幾何学模様に包まれた長門。たぶんハルヒのセンスと、それぞれのイメージで選んだんだろう。 朝比奈さんは、露店のおじさんに渡された釣り紙を寄り目がちに見つめて、水面にそっと近づける。 俺が釣り紙なら全ての水風船を釣り上げるまでは絶対に破れませんよ、なんて思いながら、集中して真剣な表情になるとその顔は、幼さを残しながらも造形美の極みを尽くした芸術であることを再確認させてくれる朝比奈さんに見とれていたが、水に浸かってすぐに滲んだ釣り紙は、あっさり破れてしまった。 「ふわっ、あえ〜……」 残念そうに眉を八の字型にする表情がいちいち可愛らしい。 「もうっ!!こんな時までドジっ娘属性を発揮しなくてもいいのに!」 いやいや、こんな時こそ発揮するべきだろう。少なくとも俺は大満足だ。溜息をつくハルヒを尻目に、梨花ちゃんが立て続けに二つヨーヨーを釣り上げた。 「みぃ!!やったです!釣れたですよー!!」 この時点で部活は二連勝、スタートダッシュに機嫌をよくした魅音が誇らしげに言う。 「うちの部活は毎日過酷な訓練に耐え抜いた精鋭揃いだからねぇ!!さっ、次は誰?何の勝負?? おじさんが相手になるよ〜!!?」 「SOS団の名にかけて、これ以上負けるわけにはいかないわ!種目は、金魚すくいよ!!詩音!!お願い!!!」 「お姉と直接対決ですか?くすくすくす……お手柔らかにお願いしますね?」 ムードメーカーであり、部長としてリーダーシップをとる魅音とは違った意味で、この詩音には貫禄がある。 レナとハルヒが揉めた時も、あのハルヒに正論ぶつけて何だかんだで結局言いくるめたからな。 ニヤリと不敵な笑みで余裕を見せる詩音に比べて、分が悪いと思っているのか魅音は少し戸惑った様子だ。 「魅音さん、部長としての威厳を見せてくださいましてよ!?」 「魅ぃちゃん頑張ってね!」 「負けんなよー詩音!」 「そうよっ!詩音はもう団員みたいなもんなんだから!SOS団の看板背負ってるのよ!!」 この双子対決に周りもニワカに盛り上がり始める。 「おっ、園崎んとこのお嬢ちゃんじゃねーの!!ちったぁ手加減してくれよー?」 なんだ?屋台のおっさんまで親しげに話しかけてきた。そればかりか、道行く人も声をかけては足を止め、 ギャラリーと化していく。おいおい、何かえらいことになってるぞ? 「魅ぃちゃんのお家は雛見沢周辺では有名なんだよ!地主さんみたいなものかな」 魅音がお嬢様だったなんて、これまた驚きだが、とりあえず今は二人の勝負を固唾をのんで見守る。 「網が破れるまでにたくさんとった方が勝ちですよね?いきますよ、お姉?」 「くッ、いいよ、詩音。勝負!」 いつの間にか注目の一戦になったこの戦いは、魅音の優勢で火ぶたが切られた。 魅音は、すくい網の縁のプラスチックの部分を上手く使い、一匹また一匹と、ハイペースで救い上げる。 真ん中の紙の部分をあまり濡らさず、その手際良さは鮮やかというほかない。 詩音の方は、ペース的には普通だが、紙の部分が全くといっていいほど濡れていない。 すくい網の消耗を最小限に抑える作戦なんだろう。一匹ずつ確実にすくい上げる。 10匹目をすくったところで魅音の網が半分ほど破けた。 「あれ?お姉。やばいんじゃないですか?」 「まだまだ、これからでしょ!?」 強がる魅音だったが、残った網もだいぶ水が滲んで、正直苦しい。 それをジワジワと追い上げる詩音。温存型の戦術が後半になって活きてくる。 「ああっ!」 部活、SOS団双方から、そしてギャラリーからも喚声があがる。 魅音のすくい網が完全に破けたのだ。結果は13匹。なかなかの記録なんじゃないか? さて、これが勝敗のボーダーラインになったわけだが、詩音は現在9匹。4匹差を前にして、すくい網は全面が水に滲んでいるものの、まだどこも破けていない。見事なもんだ。 「さて、覚悟はいいですか、お姉?」 自信たっぷりな眼差しを魅音に向けた後、詩音はペースを変えることなく、すくい続けていった。 姉妹対決の行方は15匹対13匹、詩音の勝利で幕を閉じた。 あぁ、地団駄ってのはこうやって踏むのか、と教えてくれるように魅音は悔しがり、ハルヒは大喜び、詩音は涼しい顔して満足そうにしていた。 「魅音さんの仇は、わたくしが取りましてよ!?次はカキ氷の早食いで勝負ですわ!!」 「有希!!返り討ちにしてやりなさい!これに勝ったら同点になるわ!!」 聞いただけで頭がキーンと痛くなりそうな勝負だが、果たして長門は冷たさを感じるのだろうか。 イカサマは封印したとしても、基本性能まではどうしようもない。 「いい?沙都子。シロップ大盛りで頼んですぐに混ぜれば溶けて食べやすくなるから」 「分かりましたわ魅音さん」 魅音の作戦に従って少しでも早く食べられるように工夫する沙都子だったが、勝負は開始十数秒で決着した。 他の全員があっけにとられる中、長門は顔色一つ変えずにカキ氷を平らげ沙都子に大勝した。 やっぱ冷たさを感じてないようだな。 さて、2勝2敗の同点という状況で、俺の出番が回ってきた。 [*前へ][次へ#] |