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ひぐらしハルヒの憂鬱な頃に

≪TIPS5≫
≪開演≫


 今日もまた、キョンくんを宝探しに誘おうと思っていたけど、用事があるみたいで、むこうからキャンセルされてしまった。

昨日ケンタくん人形を取ってもらったりしてるし、無理は言えない。残念だけど仕方ない。諦めて家に帰ると、すぐに後悔した。

うっかりしてた。帰るんじゃなかった。今日もあの女が来てるのに!

 最近ウチに入り浸るリナさんと出会ってから、父の金銭感覚は狂いはじめた。

母に裏切られる形で離婚して、かつて住んでいた雛見沢に私と一緒に引っ越してきた父は、心が隙だらけだったのだろう。

間宮リナという興宮で水商売をしている女に入れ込んで、貢ぐようになった。気持ちがエスカレートするのに比例して、貢ぐ金額も増加の一途を辿る。

飲食代から始まって、やがて高額なプレゼントを繰り返し、あげく賃貸マンションの敷金礼金まで……。最近では、離婚の際に母からもらった多額の慰謝料にも手をつけている。

間宮リナは、愛する母に裏切られて傷ついた父をたぶらかして、食い潰すつもりなんだ。

 そのリナさんが家に来ていた。私の家は、少し前に家具を一新して模様替えをした。

父は心機一転するためと言っていたが、どう見てもリナさんのセンスで包まれた部屋は、私の居場所を奪った。そんな気にさせる。

 リナさんが愛想笑いで何か話しかけてくる。私の名前を呼ばれるだけでも虫唾が走る。

その香水の匂いが大嫌い。そんな本心を悟られないように、適当にあしらって家を飛び出し、ゴミ山に向かう。

 かつてダム建設現場だった場所。かつてバラバラ殺人が起きた場所。

今は、まるで村の暗部を覆い隠すかのように、粗大ゴミの山で埋め尽くされている。

誰も近寄らない、忘れ去られた場所。

 ここは私の国。その一角にあるワゴンの廃車、内部を改装して作った私の城。

マットレスにシーツ、懐中電灯とか日用品。お菓子に本。まさに秘密の隠れ家。

周りには、誰にも必要とされなくなり捨てられたガラクタ。居場所の無い者たちに囲まれて、ゆえに、私はここに居ていいんだと思わせてくれる。そんな私の国で、ガラクタたちとやさしい時間を過ごそう。

 そう思ってゴミ山に来たのに、こともあろうにリナさんが追っかけてきた。

バイクの音が近付いてくる。自分の領土を侵されるような気分。やめて来ないで。

「おーい、礼奈ちゃーん!!」

不快感でいっぱいになった私の後ろで、排気音が止まる。

 何しに来たのか、世間話を始める彼女を避けたくなってゴミ山の斜面を降りていく。

当たり前のように話しながらついて来た。何なんだ。避けられてると気付いて欲しい。

 リナさんが父とマトモに付き合っているなら、今後のことを考えて私との仲を良好にしておきたいがための行動と思えるかもしれない。

現に父はリナさんとの再婚を考えているが、私に遠慮してはっきりとは口にしない。リナさんもその気なら、私との関係には気を使うだろう。

 けど私は知っている。この女はいわゆる美人局というのを企んでいる。興宮の喫茶店で偶然見かけた時、鉄という男とそれらしき話をしていたのを耳にした。

貢がせているうちに気付いたんだろう、父が持つ財産の膨大さに。

 へえー、なんか秘密の隠れ家みたいで素敵ねー、なんて白々しく言ってくる。

「あはは。そうなんですよ、ここには誰も来ないし、誰にも何も聞コエマセン」

返事をする自分の声に不思議な違和感がある。

 私は、この場所が誰も知ラナイ秘密ノ場所デアルコトヲ思イ出シ、意識ト体ガ剥離シテイクヨウナ、ふわふわトシタ感覚ニ酔ッテイタ。

 リナが少し真面目そうに切り出す。

「それでね、ずっとあなたのお父さんと付き合ってきて、色々話し合ったんだけど、」

「再婚は許さないです」

 しばらく沈黙したあと、リナが自嘲的な笑いでそれを破る。

「あっはははははは。……うーん、拒絶もあるかと思っていたけど、ここまではっきり言われるとはね。何で?私のこと嫌い?どこが嫌いなの?」

「全部です。その香水も嫌いです」

「ふぅん。そっかー。ま、私もあんたが嫌いだからお互い様だしね。でもね、私妊娠してるの。クリスチャンだから中絶もできないし。だからね──」

「  嘘だッ!!!!!

私は知ってる!鉄って男と喫茶店で話していた!!美人局をしようと企んでる!!!」

「……あら、知ってたの?そう。なら話が早いわね。いい子にしてりゃ、小遣いでもやろうと思っていたのに。残念だわ」

 そう言いながら、リナの腕がスローモーションで伸びてくる。

「ウン千万って金が転がってくんだよ!こんなウマいカモは二度とねぇからよ!

てめー締めてウン千万なら悪かねぇさ、どうせ金巻き上げたら蒸発するつもりだ!

上等くれたらぁボケガキがぁ!死に晒せや!」

 首を引き千切るかのような強い力で締め付けられるまで、リナのこんなにも直接的な悪意に気付けなかったのか、私は。すぐに頭が痺れるような感じがしてきて、首を絞めるリナの手を掴む。

「…………ぅ…………ンぐ…………っ……」

 そのまま、もつれながら後ろに倒れた。リナは尚も首を絞めたまま、力を緩めない。

倒れた拍子に地面についた手にガラスの感触があった。破片が落ちていたのだろう。

割と大きい。私はそれを手にすると、力いっぱいリナの手首を引っかく。

「ぎゃあああぁぁぁああぁ!痛ってぇぇぇえええぇぇ」

 私の首から手が離れる。傷口から血があふれ、リナは焦っている。今しかない。ガラクタの中に1メートルぐらいの鉛管を見つけて拾う。大きく振りかぶって、リナ目掛けて力いっぱい振り下ろす。

「……っ!!」

 腕で防ごうとしたって、その腕が砕けるだけなのに。リナは両腕で頭を庇う。

グシャっと、肉の奥で骨が粉々になる感触があった。

「ぅわあああああぁぁっ!!!!ちょっと……! ちょっと待ってよ!!マジ、洒落になんないって!!!」

 こんなこと洒落でやるものか。死ね死ね死ね、死んでしまえ……!

逃げ出そうとするリナを間髪置かずに何度も鉛管で殴りつける。逃げられるものか。ここは私の国。

頭を、肩を、背中を、そしてまた頭を──殴る度に骨が割れる感触が伝わり、
リナの呻き声が少しずつ細くなっていく。バランスを崩したのか、リナが足下を滑らせてゴミ山の斜面を人形のように転がり落ちていき、そのまま動かなくなった。

 リナに近付くと、目が開いたまま、首が不自然に曲がっている。

死んだフリかもしれないと思い、顔に砂をかけたりしたが、全く反応せず、目蓋を閉じようとしない。リナの死を確信した瞬間、汗で鉛管が手から滑り落ちる。

こんなにも重いものを振り回していたのか。

 感傷に浸るヒマは無い……死体をどうしようか。たぶんコイツは普段からいい加減な生活をしている。

行方が分からなくても周りは特に不思議がらないだろう。変にアリバイ工作などしない方がいい。

問題は死体の処理だ。このゴミ山に隠すのが一番安全だろう。ここは忘れ去られた場所なのだから。

それでも百パーセント安心はできない。死体を細かく刻んで、この地上から抹消しなければ。

 とりあえず、近くに捨ててあった冷蔵庫に死体を入れて、家に帰ることにした。鉈を持ってこよう。

そう考えて、走って家に帰る。けど、鉈を持ってゴミ山に戻ってきた私は、信じられない光景を目にした。

死体を入れた冷蔵庫を開けると、

何てことだ、死体ガ消エテイル……

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あきゅろす。
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