創作小説:桃月郷(BL)
9
「―紫乃…?」
髪に触れられ、思わず息を呑んだ。
体を硬くしていると、月花が静かに言った。
「…紫乃、今日見てたよね。僕が客と寝てる処…」
紫乃の心臓が跳ね上がり、月花を恐る恐る振り返る。
月花は、いつもの優しげな表情で紫乃を見つめていた。
「なんで…」
そう小さく呟いた紫乃の声は震えている。
「紫乃が近くに居るのは直ぐ分かる。怖がらせたかな…」
「…」
今、自分が抱えてる気持ちが何なのか分からなくて、紫乃は何も言えなかった。
沈黙してしまった紫乃に月花は静かに続ける。
「あれが僕達の仕事。僕はね、こんな…女の子みたいな容姿だから、女の人よりも男の人に指名されることの方が少なくないんだ。僕を…汚らわしく思った…?」
「そんなことない…!」
紫乃は思わず上体を起こして即答する。
「紫乃…」
「兄さんのこと…汚らわしいなんて思ってない…っ!でも俺、何か変で…兄さんのあんな処見てから身体が…。分からない…ドキドキ、してる…おかしいんだ…」
月花は何かに怖がって自分の肩を両腕で抱き込みうつむく紫乃を覗き込む。
「紫乃…もしかして僕に欲情しちゃった…?」
紫乃が顔を上げる。
「欲、情…?」
最初はよく意味が理解できなかった。
「躰…厭らしい気分に…なっちゃった…?」
そう聞かれて、紫乃は不安げに揺らしていた目を瞬いた。頬が紅く染まる。
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