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創作小説:桃月郷(BL)
22


 夢をみた。


 一面に白い雪が降り積もる地で


 桜の花弁が風に舞う。


 雪原に1人佇む華奢な着物の人影が、あの歌を歌っている。


―姉さん?


 雪に溶け込むような、きらきらと細く絹のような白金の髪が風にたなびかせて


紫乃を見つめる薄墨色の目


―兄…さん…?



―紫乃



 いつかと同じ光景。月花の顔が紫乃を覗き込んでいた。

「…おはよう、紫乃」


「おはよう兄さん…」

 紫乃は微笑み、覗きこむ月花の絹のような髪に触れた。しかし月花の表情はいつものように微笑んではいない。


「紫乃…あのね…昨日、僕何か紫乃に言ってなかった?酷いこと…しなかった?」


 不安げな表情で紫乃を見つめながらそう聞く月花。


「兄さん…」
(もしかして…昨日のこと…)


 紫乃を見つめたままの月花に、紫乃は笑いかけた。

「うん、昨日の兄さん凄くいやらしかったよ。凄く興奮しちゃった…」

「いやらしかったって…なに…わっ」


 紫乃は言いかけた月花の首を両腕で引き寄せ、そのまま布団に躰を押し付けると口付けた。


「んっ…やっ」


 昨日の熱がまだ残っているようで、身体は微かに熱い。

 ゆっくりと身じろぐ月花の頬や額にも口付けを落としながら紫乃は笑い、耳元で囁く。


「昨日の兄さん思い出したら…またしたくなっちゃった…」


 脚の間に自分の脚を滑り込ませ、下肢を月花の躰に押し付けてくる紫乃。


「風邪が移るって…」

「昨日こうしても移らなかったじゃない。大丈夫だよ」


 紫乃の動きが徐々に淫らなものになっていく。
月花は紫乃の鼻を思い切り摘んだ。


「いたたたっ痛い痛い…っ」

「調子にのらないの。僕は着替えるから、紫乃は先にお風呂行っておいで」


「え?兄さん今日はゆっくり休みなよ」

「いいから…行って」


 月花は後ろを向いたまま言った。


「…うん…」

紫乃が扉から出ていく直前、月花は静かに言った。


「迷惑かけてごめん…」


「…?まだ躰熱いし、声が少しかすれてるよ?無理はしないでね、俺がお父様に言っておくから」



 紫乃はそういうと、足早に寝所から出て行った。


 紫乃には伝わらない。当然意味を理解していないのだ。

「本当にごめんね…」


 一人残された月花は静かに涙を流した。
それは自身でも止められぬ己を偽り純粋な紫乃を騙しているのだという罪悪感と後悔の涙だった。




 部屋の直ぐ前に、鴇が立っていた。




「月花に聞いたけど、昨夜二人で外出したんだってな」


「うん。兄さんに誕生祝いあげたくて…せっかくだから綺麗な桜の花見ながら渡したくて」


「乙女かお前は…」


 廊下を紫乃と歩きながら鴇は呆れる。

「そしたら帰り道、雪が降ってきちゃって…珍しいんでしょ?此処で雪降るの」



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