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創作小説:桃月郷(BL)
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 幼い頃から病弱だった。


 紫乃の生まれた村は雪深い北国にあった。


 寒さが厳しくなる季節でも、村の大人達が忙しく冬支度を始める中、紫乃は貧しい家の手伝いもろくに出来ず、家族にも村の人間にも厄介者扱いされてきた。


 故に、唯一自分を愛してくれた姉以外の人間の愛情に触れることが出来なかった。


 しかしこの桔梗屋に来て、紫乃は兄貴分となった月花の優しさに居場所を感じ始めていた。


 優しい兄。


 血はつながっていなくとも月花は紫乃に沢山の話を聞かせてくれた。話を聞いてくれた。


 紫乃は月花を本当の兄のように敬愛するようになっていた。
 







 桔梗屋に来て数日が経った。

 
 今日は月花は朝から仕事で。


 紫乃は見習いとしてこの仕事のしきたり、客に対する接客を覚えるべく一人勉強することとなった。


 紫乃が勉強させられているのは、あまりにも紫乃自身が物事を知らないからであり、それを危うんだ周りの者達が人前に出せるようになるまでこうして勉強させていたのだ。

 今の時代、娼館には裕福な家の出の者以外文字の読み書きができる者は少ない。紫乃も貧しい家の出身ではあったが、彼の場合文字の読み書き以前の問題が多々あった。

 文字の読み書きは勿論出来ないがまず、人の顔と名前を一切覚えられない。これは男娼として客を接客していく上で大変深刻な問題だった。

 そして、これは学力に関係はないが、紫乃は一度眠ると起きない。本人の話によると朝が苦手らしい。

 しかし紫乃には昔から集中力がなかった。


 貧しかった暮らし、元々書き物なんかしたこと無かった上に、文字だってよく分からない。


「飽きちゃった…男娼も勉強しないといけないなんて知らなかったなあ…」



(兄さんはどこに居るんだろう)


 もう外も薄暗い。接客で客と食事でもしているのだろうか。


 紫乃は部屋着用の着物に羽織を着て部屋を出る。


 部屋より少し肌寒い薄暗い廊下を見回と、赤い漆塗りの柱に黄色の灯りがあちこちぼんやり灯り昼とは違う、どこか妖しげな雰囲気を醸し出していた。

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