創作小説:桃月郷(BL) 16 「ねえねえ、せっかくだから着てみてよ」 紫乃は渋る月花を説得しながら月花の白い着物の上に桜色の外套を着せてやる。 月花の白金色の髪を下ろして見てみれば、紫乃は息を呑んだ。 雪の中に佇む白い鷺と、桜の花弁。 桜の衣を纏って白い着物と髪をした月花は紫乃のあの懐かしい情景を思い起こさせた。 「紫乃、どうかした…?」 月花に言われ、紫乃はハッと我に返る。 紫乃は笑い、月花を抱きしめた。 「なんでもない。凄く綺麗だよ。桜色の衣にかかる兄さんの髪が満開の桜が雪化粧したみたい」 紫乃は月花の艶やかな白金の髪を撫でながら言った。 「桜が雪化粧するはずないでしょう?春と冬で季節が全然違うじゃない…」 「そんなことないよ?俺のね…俺の雪桜村では年に一度だけ…桜が満開に咲いた後必ず雪が降って雪化粧するんだ」 月花の額に紫乃は唇を何度もあてがい、嬉しそうに笑う。 「兄さんがいなくならないで良かった…」 「もう…紫乃ったら…」 それは帰り道の出来事だった。 紫乃と月花は二人桔梗屋へと歩いていた時。 “一度つがいになった白鷺は、決して離れず生涯を共に…” “例え片割れが猟師に撃たれても、決して片割れを見捨てない…” 「え…?」 風に乗って微かに聞こえてきた歌声に、紫乃は思わず足を止めた。 「また、だ…」 「…?どうかしたの紫乃」 紫乃の様子に月花は首を傾けた。 「聞こえたんだ…あの歌が…」 「歌?風の音なんじゃない?」 「あの歌は…ううん、そうだよね…風の音だよね…」 紫乃は笑んで、月花と共に歩き出した。 [*前へ][次へ#] [戻る] |