創作小説:桃月郷(BL) 13 「兄、さん…?」 その時、月花と紫乃の周りにある桜の枝が風を纏い、花弁を舞い上がらせた。 花弁の中に見え隠れした月花の姿が、一瞬紫乃と同じぐらい長い桜色の髪をもつ別人に見えた。 「だ、れ…?」 「うふ。紫乃、僕に会いたいって言ってくれたでしょう?」 花弁の舞う中にいる人物。 声も姿も月花のものだが、紫乃にはそれが彼ではないのだと気づいた。 「綺麗だって言ってくれたから、君の前に現れたんだよ…?この子の身体を借りて」 「兄さんの…身体を借りた…?君はもしかして…兄さんが言ってた桜のアヤカシ…なの?」 紫乃は困惑しながらも尋ねた。月花の姿をしたものが笑う。 「そうだよ。僕は君が好きになったから…。アヤカシが特定の人の前に姿を表すには僕の会いたい人間が大切に思ってる人間の躯を借りるしか無かったんだ。紫乃の想いが強ければ強いほど良い。この躯は凄く居心地が良いよ」 淡々と話す月花。取り憑かれていただなんて… 「に…兄さんをどうするの?返してくれるの…?」 紫乃は縋るような目で言った。 「躯は返してあげる…でも僕が彼の躯の宿主になるから代わりに彼の魂は僕と入れ替わり桜の中に宿らせる。だからこの子には申し訳ないけど魂は躯には返せない。紫乃、紫乃と一緒に僕を人の世界で暮らさせて…?一緒になろ?」 アヤカシはそう言って笑う。月花の姿で。 [*前へ][次へ#] [戻る] |