創作小説:桃月郷(BL)
9
「凄ーい!鏡みたいだよこの湖。月も桜も空も俺の姿もはっきり映ってる!湖の中の桜も綺麗だなぁ…」
―そんなに気に入ってくれた?
「え?」
紫乃はどこか風に乗って聞こえてきたかのような不思議な声に顔を上げる。
「どうかした?紫乃」
月花に問われ、紫乃は首を傾ける。
「気のせいかなぁ…」
「…紫乃はここの桜、好き?」
横に佇んでいる月花に言われ、紫乃はうん、と答える。
パサ、と乾いた衣擦れの音が聞こえた。
紫乃が振り向くと、月花は帯を解き、着物と下着を草むらに脱ぎ捨てていた。
「にっ…兄さん?」
突然のことに驚く紫乃をよそに、月花は腕に腕輪のみを付けた裸のまま、湖の中へと足を踏み入れる。
そのままふくらはぎ辺りまで水に浸かってしまった。
「ふふっ…気持ち良い」
裸のまま、どこか妖艶に笑う月花。
「紫乃も早く来て」
月花は蠱惑的にそう言うと反対側の桜の並ぶ岸へと進んでいく。
どうやらこの湖はそれ程深くは無く、すり鉢状の形をしているらしい。
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