創作小説:桃月郷(BL)
8
泉の周りを囲うように桜が咲き、泉にはまん丸の月と夜空、そして満開の桜の樹が映りこんでいた。
「わー…凄く素敵な場所だね!こんな綺麗な場所、俺見たこと無いよ。なんだか神聖な感じがする」
紫乃はその幻想的な風景に溜め息をついた。
「うん。僕のお気に入りの場所なんだ。四季ごとに違う風景が楽しめるから、昼寝には丁度いい。人もめったにこないし」
紫乃は首を傾ける。
「どうしてこんな素敵な場所なのに人が来ないの?」
「アヤカシが出るって噂があるんだ」
「アヤカシ…?」
月花が桜の木々を見つめながら続けた。
「そう、精霊とも言うのかな。此処に棲むアヤカシは樹齢千年の桜の樹がアヤカシになったものらしくてね、此処に誘われた者達に取り憑いて悪戯するんだって」
月花は笑い、噂だけど、と付け足した。
「アヤカシかあ…どんな姿だろう?こんな綺麗な桜のアヤカシならきっと姿も綺麗なんだろうなぁ…」
「アヤカシや精霊は人前に姿を現すことはめったにないから…アヤカシに余程気に入られたりしない限り出会うことはないんじゃないかな?」
「そうだよね」
紫乃は笑う。
「ねえ、そう言えば紫乃、僕に見せたい物があるって言ってなかった?」
「そうだ!あのね、…はい」
紫乃が懐から取り出したのは綺麗な袱紗に包まれた何かだった。
「誕生日には少し早いけど…兄さんに」
中を開けた月花は目を瞬かせた。
袱紗の中から現れたのは薄紅色の腕輪だった。
「これ…」
「お客さんからの貰い物じゃないよ?俺が仕事したお金で自分で買ったの。兄さんに似合うと思って」
「でもこんな高価そうなもの…僕貰うことは…」
「俺があげたかったんだから、受け取って?桜の花弁の中にいる兄さんをみてこれだって思ったんだ」
「でも…」
言いよどむ月花に紫乃は言う。
「それは紅桜石と言ってね、付けてると幸せになれる石なんだって…。兄さんに幸せになってもらいたい…だからお願い、受け取って?」
「紫乃…」
コクンと頷き、月花は自分の腕に腕輪を通す。
「綺麗」
月花が言うと紫乃は月花を引き寄せ、その唇に口付けた。
「ふふっ」
紫乃は微笑み、月花の手を引いて湖の辺に立つ。
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