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創作小説:桃月郷(BL)
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「春の風は意地悪だからね。あ、ねえねえ、そう言えば兄さんの誕生日ってもうすぐだよね?」


「え?うん…そうだけど…どうしたのいきなり」


「ふふっ」



 紫乃はそれには答えず、笑い、月花を連れ見世に戻った。




「お前ら何ふらふらしてんだよ客から指名入ってんぞ!人手足りねーんだから早くと接客して来い!」



 忙しく見世を動きまわる鴇に言われ、紫乃と月花はそこで分かれ接客へと向かった。









 春風に


 白い白い桜の花弁が夜空を舞って、


 幻想的な空間を生み出している。





 白桜祭ももうすぐ終わる。


 満開の桜もこの春を越せば花は落ちやがて緑に変わるだろう。



「紫乃」


 月花に呼ばれ、紫乃は振り向く。



「どうしたの…こんな夜中に見世の前で。何か見えるの?」


 仕事を終え、少し外の空気を吸いにやってきた月花に問われて、一人外に立ち尽くしていた紫乃は笑う。


「兄さんを待ってた」


「え…?」

 きょとんとする月花の元に歩み寄り、紫乃はその右手を握る。


「兄さんに見せたいものがあるんだ。ね、兄さん、人が居なくて静かな場所って知ってる?」


「この時間なら…殆どの人が出歩いてないと思うけど…。紫乃が言うなら案内してあげる」


「有り難う」



 紫乃は言うと二人は夜道を歩き出した。




 月の明かりのお蔭で、灯りがなくとも道は明るい。 


 ちらちらと舞う桜の花弁。

 虫の音と二人の足音、そして風に微かになびく桜の木の音だけがこだまする。




“そこ”へ入る時、紫乃は空気が変わったように感じた。


「ほら、此処だよ」



 月花に連れてこられた場所は、鏡面のような大きな泉の広がる開けた場所。




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