創作小説:桃月郷(BL)
7
「春の風は意地悪だからね。あ、ねえねえ、そう言えば兄さんの誕生日ってもうすぐだよね?」
「え?うん…そうだけど…どうしたのいきなり」
「ふふっ」
紫乃はそれには答えず、笑い、月花を連れ見世に戻った。
「お前ら何ふらふらしてんだよ客から指名入ってんぞ!人手足りねーんだから早くと接客して来い!」
忙しく見世を動きまわる鴇に言われ、紫乃と月花はそこで分かれ接客へと向かった。
春風に
白い白い桜の花弁が夜空を舞って、
幻想的な空間を生み出している。
白桜祭ももうすぐ終わる。
満開の桜もこの春を越せば花は落ちやがて緑に変わるだろう。
「紫乃」
月花に呼ばれ、紫乃は振り向く。
「どうしたの…こんな夜中に見世の前で。何か見えるの?」
仕事を終え、少し外の空気を吸いにやってきた月花に問われて、一人外に立ち尽くしていた紫乃は笑う。
「兄さんを待ってた」
「え…?」
きょとんとする月花の元に歩み寄り、紫乃はその右手を握る。
「兄さんに見せたいものがあるんだ。ね、兄さん、人が居なくて静かな場所って知ってる?」
「この時間なら…殆どの人が出歩いてないと思うけど…。紫乃が言うなら案内してあげる」
「有り難う」
紫乃は言うと二人は夜道を歩き出した。
月の明かりのお蔭で、灯りがなくとも道は明るい。
ちらちらと舞う桜の花弁。
虫の音と二人の足音、そして風に微かになびく桜の木の音だけがこだまする。
“そこ”へ入る時、紫乃は空気が変わったように感じた。
「ほら、此処だよ」
月花に連れてこられた場所は、鏡面のような大きな泉の広がる開けた場所。
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