創作小説:桃月郷(BL)
6
月花に呼ばれ、慌てて振り返る紫乃。
「大丈夫…?なんだかさっきから心が此処に無いみたいだよ」
心配そうに紫乃を見つめる月花に紫乃は笑いかけた。
「ごめん、何でもない。ただ桜の花が故郷を思い出させて懐かしくて…」
「雪国なのに紫乃のいた村にも桜が咲いてたんだ?」
「うん…まあね」
どこか元気の無い紫乃に月花は桜を見つめながら手を握ってやる。
「紫乃、帰りたい?君の村に…」
紫乃は首を横へ振る。
「…村に帰りたいとは思わない。あそこに俺の居場所は無いもん。俺は兄さんの側が…この桃月郷が良い」
行こう、と笑って月花の手を引く紫乃。
その時、さ…と桜の花弁を巻き上げながら強い風が吹き抜けた。
「わ…っ」
風に身体を押され、よろめく月花を紫乃がとっさに支える。
紫乃の腕の中で、風と共に散らされた月花のたっぷりとした白金の髪が、風をふくんで桜の花弁と共にふわりと揺れた。
「有り難う」
月花が顔をあげる。
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