創作小説:桃月郷(BL)
5
「さ、出来たよ紫乃」
月花に言われ、紫乃は首だけ振り返る。
「有り難う」
紫乃は月花の腕を引き寄せ、月花の花弁のような桃色の唇に触れるように口づけた。
「ん…」
「ふふっ」
紫乃は唇から離れると、月花の髪をかき上げ首筋にもキスを落とす。
「駄目だよ紫乃。これ以上皆を待たせたらまた怒られる」
「うん…わかってる」
肌が触れる距離でそう言うと、紫乃は素直に離れた。
「良い子だね。さ、行こう?」
月花は紫乃の手を引き、部屋を後にした。
「ねえ、処で今日ってなんのお祭りなの?」
見世へ向かう途中に紫乃に言われ、月花は笑った。
「それは外に出ればすぐ分かるよ」
二人で寝所と見世とを繋ぐ屋外の渡り廊下へ出ると、紫乃はその光景に息を呑んだ。
「凄い…。桜の花が…」
空を桜色に染めたような光景。幾つもの桜の樹が花を咲かせて桔梗屋の外観を彩っていた。
「紫乃はこの桃月郷の白桜祭り初めてだったね。春になると、この町は沢山の桜の花が一斉に咲いて桜の色に町中が染まるんだ。綺麗でしょう?町はもっと凄いよ」
二人で更に下に降りてみると、桔梗屋の周りだけでなく、町のありとあらゆる場所に見事な桜が満開に咲いていた。
「凄い…こんなに…」
「白桜祭は外から来る客に桃月郷の桜の花びらを浮かべた白酒でおもてなしするんだ。この季節になると普段よりも沢山の人がやって来るんだよ」
月花は風に乗って落ちてきた花びらを手のひらに乗せる。
「ふふっ紫乃、髪に花弁付いてる」
月花は紫乃の黒髪に付いた花弁に手を伸ばし、笑いながらそっと取って紫乃に見せてやる。
―紫乃、髪に花弁が付いているわ
再び、紫乃の中にあの懐かしい声が頭をよぎった。
白桜の中で微笑む、翠玉の
「紫乃…?」
「…え?」
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