創作小説:桃月郷(BL)
4
不意に、彼に抱き寄せられた。
抱き寄せるというよりはしなだれかかる、といった表現の方が正しいか。
紫乃の肩口に頭を乗せる月花の良い香りの髪が頬に触れる。
与えられる温もりが心地よい。紫乃も彼を抱き寄せようと、腕を背に回す。
華奢な肩が二の腕に触れた時、ふと気づいた。
―兄さん…腕が…。
着物の袖に隠れて気づかなかったが、左に在るはずの腕が、彼には無い。
―腕…昔実家においてきちゃったんだ。
紫乃の腕からそっと離れて、月花は笑った。
なんだか悲しそうな、儚い笑顔。それが酷く紫乃の胸を締め付けた。
自分には想像出来ないほど、辛い過去を過ごしてきたのだろうか。
―…ごめんなさい…。
紫乃はうつむきながら言った。
―なぜ紫乃が謝るの?僕は腕のことなんてなんとも思ってないよ。
うつむいた紫乃を気遣うように覗き込む月花の唇へ、紫乃はふいに顔を寄せて
口付けた。
―ん…。
突然のことに驚いたのか、小さく声を漏らす月花。重ねあった月花の唇は熱く熱を持ち、軟らかだった。
―あ…。
はっと我に返る紫乃。なぜ自分がこんなことをしてしまったのかわからない。
事もあろうに出会ったばかりの、男に対して。
―お…俺…。
顔を赤らめる紫乃に対し、月花は静かに言った。
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