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創作小説:桃月郷(BL)
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 見渡す限りの白い世界。


 一年の殆どが雪に覆われたその小さな村は地図にすら載っていない。


 村人以外の人間も外からの旅人が迷い込み、たまたま訪れる程度で村の存在を知るものは少なかった。


 ずっと昔から、村の人間は自分達の住むこの村を白桜村(はくおうむら)と呼んだ。

 不思議な事に年中雪が降る気候であるのに関わらず、春になると村の御神木として植えられた桜の樹の枝には綺麗な桃色の桜の花が満開に咲いた。


 春が訪れ桜が花を咲かせた後も、時折空から雪が舞い降りて桜の花がうっすらと雪化粧をする。


 村の名前の由来だった。





 紫乃は薄く雪の積もった桜の樹の下で樹を背に雪の上に座り、空から舞い落ちる雪を一人眺めていた。


 幼く小さな体に舞い落ちる雪は軽く綿毛のようで、それは白い手のひらに落ちれば直ぐに溶けて透明になる。


 紫乃は目を閉じ、歌を歌った。


 それは姉が紫乃の枕元や姉が縫い物をしている時、紫乃に聞かせてくれていた歌。


 村に伝わる言い伝えで仲むつまじいつがいの白鷺の歌だった。


 優しかった姉は昨夜、人買いに連れられて行ってしまった。


 独りになった紫乃は姉を忘れまいと姉に聞かされた鷺の歌を歌い続けた。




“一度つがいになった白鷺は、決して離れず生涯を共にする”


“例え片方が猟師に撃ち殺されても、決して片割れを見捨てない”





 何処からか、酷く懐かしい歌が聞こえる。


 (だれ…?)



 紫乃は白い闇に包まれながら、一人問う。



 遠くに見える、白い闇の向こうに薄い墨が滲んだような、微かな人影に腕を伸ばす。


 

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あきゅろす。
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