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創作小説:桃月郷(BL)
3


―…なんて呼べばいい?


 彼に連れられ遊郭の廊下を歩きながら、紫乃は遠慮がちに声をかける。

 彼は柔らかな笑みで紫乃を見て言った。



―好きに呼んで良いよ。皆にはそのまま、月花って呼ばれてる。



―月花…兄さん。



 紫乃がそう呼ぶと、月花は嬉しそうに笑ってくれた。



―そうだ、紫乃は歳は幾つ?僕は四年前に此処に来て、今は十九歳なんだ。



 紫乃は少し驚いた。月花の身長も体格も、今の自分とそう変わらない。

 顔立ちも美しさの中に幼さが残り、とても十九という成人年齢には見えなかった。



―俺は十五。


―僕がここに逃げて来た時と丁度同い年なんだ。


―え…?

(逃げて…きた…?この人が…)



 紫乃は彼の口から出た単語に眉をひそめた。



―ほら、こっちが客間。向こうの離れが僕たち皆の食事処と寝所。ここの寝所は訳あって殆ど個室なんだ。凄いでしょ?…入り組んでるけどそんなに広くないから慣れればすぐ分かるよね?



 手を引かれ、月花の一番のお気に入りな場所だという遊郭の中庭に連れてこられた。

 白く透き通る程薄い花弁を持つ花が一面に咲いている日の当たる美しい庭だった。

 庭を見つめながら、月花がふと言った。



―此処で働くってのはね…きっと紫乃にとってとても辛いことになるのかもしれない…此処は僕達の躯を売る場所だから。



―…昔俺の姉さんも遊郭に売られたから。大人が皆この国のことを話してたから分かってる。此処は世界で指折りの色町がある場所で、沢山の遊郭に大勢の花魁が働いてるって。



 紫乃には5つ上の姉がいた。彼女も紫乃が8つの時に今の自分と同じく遊郭に売られていってしまった。



―そう…お姉さんが…。話聞いてたのと、どうかな?違う?



 紫乃はもう二度と帰ることは出来ない故郷に思いをはせる。



―…話よりもずっと綺麗。沢山色があるし良い香りがする。俺のいた村は雪が沢山で、灰色と白ばかりだった。でも此処は沢山の色がある。


―この国は暖かいから…。紫乃は雪の国から来たんだね。でも紫乃にそう思ってもらえて良かった。

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