笑む、芍薬
一瞬駆け寄りかけて、雪は慌てて頭を下げた
「お帰りなさいませ、政宗様」
「Ah.今帰った」
ずかずかと雪に歩み寄り、唇を奪う
人前ということに抵抗するかと思っていたが、雪の手が政宗の胸に添えられた
様子がおかしい
唇を離して顔を覗き込む
少し痩せたか?
「政宗様、御用事は済んだので御座いますか?」
不意に佐伯左門が問いかけた
政宗は振り返り、だから帰って来たのだと答えてやる
そこに小十郎と喜多も集う
「まあ、こちらが雪様で御座いますか?」
「え、あ、はい」
「失礼致しました。私は小十郎の姉の喜多と申します。これから雪様のお世話をさせて戴きますので、宜しくお願い致しますね」
「そうなのですか、宜しくお願いします」
戸惑う雪と左門をよそに話は進んでいって、さぁと喜多が雪を部屋へと促す
政宗は小十郎に既に連れて行かれようとしており、思わず振り返る
「大丈夫です雪様。今夜は政宗様のお部屋でお食事を」
「政宗様の?」
どきどき、する
期待する
それでも思い出すのは桜の言葉
だけど
一番大事なのは政宗様なのだ
政宗様が私を不要とするその時までは、私は政宗様のお側に居る
食事の席で、雪はこれまでに無く着飾っていた
編み込まれ肩から流れた髪には花を象った簪が
着物は政宗の好みそうな浅葱色に大輪の芍薬が咲き誇っている
薄く化粧を施した雪は、どこまでも美しい
喜多はそう思った
そして政宗にも喜多は上等の着流しを用意している
「「‥‥‥‥」」
問題は二人なのだ
何があったか知らないが、先ほどから会話が乏しい
政宗などは会うなり口吸いするなど、非常識極まりない行動に出たというのに、あれは勢いだったのか今は大人しいものだ
もう夕餉も終わってしまう
「政宗様」
「なんだ」
雪が箸を置き、政宗に向き直った
「御正室には、他の方をお迎え下さいませ」
穏やかな顔をして、雪は言い放った
2012.4.4.
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