貴方と共に走れるなら まだお帰りにならないのかと、雪は玄関口へと自然に足が向いていた 共に付いていた者達が帰ったのはお昼過ぎ、政宗様は片倉様を迎えに行かれたとのこと そろそろ戻るのではないかと思ったのだ その途中で見下すように向けられた目線 ばったりと鉢合わせ、桜の父、佐伯左門に一蹴される 「これは雪様、お久しぶりに御座いますな」 「そうですね、佐伯様」 笑えているだろうか? 分からない 「この度はうちの桜が政宗様の側室に召し上げて戴くことになりましてな、ますます雪様への政宗様のお渡りが減って‥‥、いや失礼。ですがもともと質として参った雪様なれば側室以外の道もありましょう?女としてではなく、そう、」 そこで言葉を切り、雪を見る佐伯左門を真っ直ぐに見返す 「そうですね‥‥女ならば、とうの昔に捨てた筈でした。今ここに在るのはただ、政宗様の御恩情の賜物」 雪はただ、左門を見据えながら言葉を続ける 「願い叶うならば、一武将として政宗様のお近くにお仕えしとう御座います」 どうか、貴方と共に走れるなら 私を追い出さないで下さい 私を他の男の妻になどしないで下さい どうか 「それは殊勝なお考えで御座いますな」 はっきりと言い切った雪に戸惑いながら、左門は視線をさまよわす そんな彼に雪は一言付け加えた 「しかし全ては政宗様がお決めになること。私は政宗様に従うだけです」 私は弱い人間ではない 私は弱くない それでも戦場で、幾度となく憧れた いつでも父上の居場所を見抜いていた 敵ながら天晴れと、父上が褒め称えた 政宗様 「珍しい取り合わせだな」 突然背後から掛かった声に、びくりと肩震わせたのは雪だった 2012.3.28. [*前へ][次へ#] [戻る] |