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君は悪意



やめて

もうやめて欲しい



そんなこと全部わかってるから








雪は一歩も動けなかった

これは悪意だろうか?

彼女がこんな事を言うのは、私が嫌いだからなのだろうか?



「雪様、政宗様の事はお任せ下さいませ。昼も、‥‥夜も」



すっと桜の瞳が細まる

すれ違うように桜は雪の耳元に囁いた



「私がお世話致しますわ」



何も言い返さない

言い返しても意味がない



「お休みなさいませ。雪様」



廊下をゆっくりと歩いていった桜を、雪は茫然と見送った



いいのです

仕方のないことです

政宗様のお心が変わったのなら、私は



身を引かなくては




悲しみの次にそんな考えが浮かんで、雪は足元が崩れ落ちるような感覚がした


仕方のないこと

諦めなくては


何度も自分に言い聞かせる

部屋の縁側に座り込んでいると、不意に愛姫が現れた

お付きの女中にも黙って来たのか軽装で、雪は慌てて上着を取り出した



「どうなされたのですか、愛姫様」

「それは此方の台詞。雪様が座り込んでいるのが見えたのでな」



そう言えば何時ものように笑い返すかと思ったが、雪は笑おうとして涙が出た

驚いた愛姫が懐紙を渡すと今度こそふわりと笑う



「あの新しく入った女中の事であろう?何か言われたか?噂の事か?」

「いえ、噂ではなく、その」



言葉を濁した雪だが、愛姫はキリキリと苛立ちを露わにした

なんと、まさか本当にあんな女を室に迎えたとでも言うのだろうか?

まさかそんな事はないだろうとは思うが、雪の様子から疑いが涌く

これは本人に確かめなくては仕方がない



「とにかく、まだ政宗様から通達があったわけではあるまい。あの娘が何を言ったか知らないが、政宗様が戻るまで待つべきじゃ」


愛姫の真摯な眼差しに、雪は微笑む

貴蝶といい愛姫といい、良い友人を得たと雪は思う


それに愛姫の言うとおりに、政宗が帰らなければ何も分からないのだ

帰りを待とう


女中達に発見されて慌てる愛姫を見ながら、雪はまた微笑んだのだった




2012.3.28.

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あきゅろす。
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