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ex:昔、昔、あるところに






ひとりの女の子がおりました

女の子には兄が居ましたが、ある時酷い傷を負って帰ってきたのです



「お兄ちゃん!どうしたの!?」

「‥‥すまない」



そして倒れた兄はそのまま寝たきりになりました

そして少女は兄の代わりに仕事をするようになったのです


仕事の内容は殺人、マフィアの用心棒


そうです、兄は年端もいかない少女のために危険な仕事を担っていたのです

"地獄の番犬"という二つ名と共に



「できるのか?」

「はい」



初めての仕事の夜、少女は冷たい手で銃とナイフを握っていました

ファミリーの誰もが少女を侮り、死んでも構わない、やるだけやらせようと思っていたのです


そして悲しい、とても悲しいことに少女には兄と同じく殺人者としての素質がありました

初めての仕事は完璧なまでに鮮やかに完遂されたのです

少女はやがてその容姿から"聖なる地獄の番犬"と呼ばれるようになりました

そして同時に少女に触れる人間は、兄以外には居なくなったのです


そんなある日、兄が死にました

もう少女に触れる人間は居ません

それと同時に、少女が誰かを殺す理由も無くなったのです



「君は」



戦わなくなった少女の前に現れたのは、炎を額に宿した男でした

背後では少女の雇い主が何かを叫んでいます



「さっさとソイツを殺せっ!何の為にお前を飼っていると思ってるんだ」

「はい」



少女には飼い主に恩がありました

兄を今まで生かしていたのは彼なのです

また冷たい手でナイフを握り締め、少女は炎の男に切りかかります



「待って」



もう戦う意味をなくした少女のナイフは簡単に防がれ、床に弧を描いて落ちました

少女の飼い主は捕らえられファミリーは壊滅したのでした










「起きた?気分は?」



目覚めた少女が見たのは、あの炎の男でした

彼はそれはそれは優しく笑っていて、少女は彼が天使なのだと思いました



「もう、平気」

「そう良かった。ここに居ていいからね」



男はそう言って少女の頭を撫でたので、少女はやっぱり男が天使なのだと思いました

そして思うのです


"自分に何かできることはないだろうか?"



「殺してあげる。貴方のいらない人」



それは、少女にできる唯一のことでした

そしてそれは男にとって衝撃でした


余りにも長い間人を殺してきた少女は、命を奪うことに慈悲も情も愛すら感じなくなっていたのです


炎の男は思い浮かべます

同じく多くの人を殺し、そこに慈悲も情も愛すら持ち合わせないXANXUSという男のことを

少女は愛されることが、XANXUSは愛することが、それぞれ必要なのだと男は気づきます



「君ならそれが、できるかも知れない」



そしてそれが出来たなら



「君は、新しい世界を見られるのかも知れない」

「新しい世界?」



少女には天使の言うことがわかりませんでした

それでも天使が微笑むので、少女もなんとか微笑みました

実際は、微笑んでなどいませんでした


天使は、炎の男はそれを見ながら言います



「君をもう一度、あの世界に返すよ。でももう独りじゃない」

「本当?」


「だから、そのもう一人に、愛を見せてあげて」



そして二人で、笑って欲しい


やっぱり少女には天使の言葉は理解できませんでしたが、代わりに少女は気づくのです

天使の瞳は悲しみに満ちていて、その悲しみは少女と、そしてもう一人の誰かに向けられているのだと


そして少女はそのもう一人の元へと連れて行かれるのです

深紅の瞳をした獣の元へ




2009.12.1.


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