聖なる地獄の番犬は、
世界中が音をたてて雨を飲み込んでいた
昨日から降り続けた雨に、キアロは少しつまらなそうに見入る
ザンザスの部屋ではスクアーロが報告している
「これで終わりだぁ。後始末も問題ない」
「‥‥‥いけ」
そうザンザスが返す時は報告にも書類にも問題がなかった時だ
あれば書類が塵になるか、物が飛んでくる
スクアーロはちら、とキアロを見た
スクアーロの後に来て報告待ちをしていたが、窓の外の雨に夢中でこっちの報告が終わったことに気づいてない
背後から近づくと、頭を撫でようとする
「!」
「、スク?」
撫でる前に振り返る
キアロはなーに?と首を傾げた
「報告終わったぞぉ。お前の番だ」
「うん」
瞳を輝かせてくしゃくしゃになった書類をザンザスの元へ持っていく
書類がきたねーと言われたようだが内容は大丈夫だったらしい
だがいつまでもザンザスの机から離れる様子はない
キアロと入れ違いに窓の所に居残ったスクアーロは、連れだそうと二人に向き直った
―ドカッ バンっ
ドアをキアロが突き破って行った
ザンザスに蹴られたからだ
「う゛ぉおい、」
「うるせぇ」
どうやら雨のせいで機嫌が悪いらしい
氷り漬けにされていた時の傷が疼くのだ
それ以上は何も言わずにスクアーロも部屋を出た
「‥‥スク」
「いい加減、ザンザスに絡むのはやめろぉ」
ドアの外にはしゃがみ込んだキアロが居て、少し驚く
相変わらず、蹴られた程度ではこたえないらしい
「何してる?さっさと部屋に戻れぇ」
「ううん、ここに居る。ボスが痛がってるから」
そう言ってうずくまったキアロは、自分の古傷をおさえた
そう昔でもない傷で完治しているが、痕が残っているやつだ
「お前は‥‥」
「?」
いや、いい
そう言ってスクアーロは退散する事にした
そうだな、今までザンザスのそういう所をケアする奴なんざ居なかったし、要らねーと思ってた
だが、居てもいい
それだけの話しだろう
「居るなら部屋ん中にしろぉ。近づき過ぎなきゃザンザスも追い出したりしねぇ」
「うん」
部屋に戻っていくキアロを見送って、スクアーロはため息を吐いた
まるで子供の心配する母親だぜぇ
呟いた声は雨音に掻き消された
2009.5.27.
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