物語【三竦み編】
似て非なるもの、ならぬもの。
“…よく、似ている―…”
魔界統一トーナメント。
蔵馬は二回戦に闘った相手、時雨の台詞を思い出していた。
時雨との対峙中、蔵馬は一度妖狐の姿に戻った。
…が、直ぐに元の…南野秀一の姿に戻った。
妖狐としての過去。
人間界に逃げ延び、母親の腹に宿っていた生命に取り憑いた事実。
捨てる気も逃げる気も無い…が、どうしても勝ち方に拘りたかった蔵馬の想いがそうさせた。
その蔵馬の闘い方に。
決着がついて直ぐ、相手の時雨は言ったのだ。
“半年前に剣を交えた相手に、よく、似ている”と―…
蔵馬に似ている相手は誰なのか。
その人物に何が似ていると言うのか。
解する事が出来る様な出来ない様な…
不思議な感覚が蔵馬を支配していた。
幽助と黄泉の闘いが終わり、暫くして蔵馬は幽助や六人衆が控えている一室に向った。
「お〜、蔵馬だ。」
蔵馬を、陣の第一声が迎えた。
幽助は爆睡中だと教えてくれたのは凍矢だったか。
皆の身体の状況を簡単に確認し、残る試合の行く末を軽く口にしていると、遅れて飛影がやって来た。
人懐っこい陣が、飛影に逸早く気付いて幽助の状況や飛影の試合の感想を述べている。
飛影は相変わらず、軽く流すばかりだが。
飛影が来てから十分程経ち、少し会話が途切れたのを見計らって、蔵馬は外へ向った。
自然の流れの様に、同じタイミングで飛影もドアに手を掛ける。
「…時雨に、似ていると言われました。」
外では生温い風が木々を揺らし、時折雷鳴が響き渡る。
違うのはたまに会場の歓声が外に洩れる事位で、一年振りに再会を果たしたあの日と何ら変わる事の無い風景だ。
徐に向けられた蔵馬の台詞に、飛影はぴくりと眉を動かした。
背を向けたまま声を掛けた為、飛影の表情を蔵馬が見る事は無かったが。
「貴方、半年程前に時雨とやり合ったでしょう?」
殆ど見当がついている様な口振りで蔵馬は問う。
「あぁ。」
それだけ飛影は答えた。
本当は死に掛けた事を蔵馬に知られたくは無い。
その事実は、蔵馬を苦しめるだけだと解っているから。
時雨が何処まで蔵馬に話したかは知らないが、おおよそ見当がついている蔵馬の口振りだ。
時雨と対峙した事を隠しても仕方が無いし、対峙したとなれば、両者無事に済む訳が無いのは当然の事。
余計な事は言わず、蔵馬の問いに飛影は只答えた。
「ねぇ、オレ達…よく似てるんだって。」
蔵馬は笑いながら振り返った。
振り返る際に長い髪は生温い風に誘われ、流れる。
その事も、つい数日前と同じ光景だった。
「そうか。」
蔵馬につられる様に、飛影も小さく笑った。
飛影の逆立った髪も、生温い風に掠われ、小さな流れを作り出す。
「飛影とオレって、真逆のタイプだと思うんだけどなぁ。」
「俺も言われた、躯に。」
「…え?」
「お前と時雨の試合の最中に、“似てる”だの“そっくり”だの…散々な。」
正確には、“お前の飼い狐はお前と同じ闘い方をするな。あの飼い狐も意固地か。”とも言われたのだが。
其処までは言わないでおいてやろうと飛影は思った。
思わぬ飛影の台詞に、蔵馬は目を見開いた。
そして次の瞬間には、また笑った。
蔵馬が本当に嬉しそうに笑うから…飛影は目を細めた。
眩しいものを見る様に。
「…“散々”って…その言い方だとオレに似てるって言われてさぞ迷惑だった様で。」
笑いながらも、蔵馬は言ってのける。
「…何処が似てる。俺はお前の様に自分の怪我を放って置いて他の奴の手当てをする様な馬鹿じゃない。」
「躯と時雨によると…それじゃあ貴方も馬鹿って事になりますね。」
雷光が己を主張する。
決して…飛影の怒りを表している訳では無い。
決して。
この手の事で蔵馬に口で勝とうとするのは無駄だと悟り、飛影は小さく溜め息を吐いた。
そして気になっていた事をさらりと口にした。
余り蔵馬に負担を掛けない様気遣う様に、本当にさらりとした言い方で。
「…吹っ切れた様で何よりだな、蔵馬。」
蔵馬が闘い方を択んだ理由。
観戦している飛影としては、どんなに蔵馬を信用していようとも、心苦しい闘いであった事に違いは無いが…
「お陰様で。」
飛影の口調を真似て、蔵馬もさらりと返す。
フン、と飛影は鼻を鳴らし、笑みを零して目を瞑った。
その飛影に向かって、蔵馬の地を踏む足音がする。
「…本当に。」
先程とは打って変わって真摯な蔵馬の声がして、同時に蔵馬の足音は止まった。
飛影はゆっくりと目を開ける。
「貴方のお陰です…有難う、飛影―…」
飛影の目の前に立って、蔵馬は困った様に笑いながらそう言った。
…何故困った様に笑うのか。
余りにも飛影の存在が蔵馬に影響を与える事を思い知ったか…
その事実が蔵馬にとって予想よりも大きかったからか…
蔵馬自信は勿論、飛影も認識していたかも知れないが。
「…二週間以内に行く。」
蔵馬の礼はそのまま受け止めてそれには答えず、飛影はそう告げた。
人間界まで蔵馬に会いに行く、と言う意味を直ぐに汲み取って蔵馬は答えた。
「…待ってます。酒でも呑みましょうか。」
「あぁ。」
そう答えて直ぐに、飛影の姿は消えた。
と思えば、風に乗って陣が目の前にやって来ていた。
陣の気配を察して移動したのだろうと蔵馬は理解した。
「蔵馬〜、鈴木達が捜してるだ。」
「今行くよ。」
「飛影のヤローは?一緒じゃなかっただか?」
―流石。
陣に移動した飛影が見えなかった事を知って、蔵馬は只感心した。
「あぁ、躯の処に戻ったんじゃないかな。」
そう答えて蔵馬は陣と歩き始めた。
躯の処。
そう答えて少しばかり胸の奥に影を落としたものの、蔵馬は歩みを進めながら己の髪を手櫛で梳かした。
飛影が消える瞬間。
僅かに飛影の手が蔵馬の頭を掠めた。
くしゃりと、無造作に撫でられたと理解する前に陣の受け答えをしたが。
己の台詞に僅かに生まれた影を覆う様に、蔵馬の胸は暖かみを持った。
―彼は約束を破らない。
僅か二週間以内に会えると言うのに。
一年程の会えない時を乗り越えたと言うのに。
胸に暖かいものが流れ込んで来る感覚と同時に。
少しでも速く時が過ぎれば良いと請う様に。
蔵馬の鼓動は速まっていった―…
(END)
★あとがき★
原作ガン無視の管理人です(´∀`)v
言わせたかったんですよ、二人似てるなって、時雨兄さんと躯姉さんに♪
まぁ、蔵馬と時雨兄さんの闘いは、原作に細かく載ってなかったですしね。
これがリアルストーリーです!!(どーーんΣ)
陣初登場で台詞あり!(若干楽しかったのは秘密です)
お読み下さった皆様、有難うございました^^
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