物語【三竦み編】
逢瀬[前編] 〜Kurama's gaze&Hiei's gaze〜
〜Kurama's gaze〜
あれから…
飛影と別の道を択んでから、一年近く経つ。
幽助が発端と成った魔界統一トーナメントまで後数日。
飛影も、幽助と黄泉とのやり取り、そして六人衆とオレの判断を視ていただろう。
幽助を迎えたあの部屋には、特別な結界は施されていなかったから。
癌陀羅の一室から、外を眺めていた。
相変わらずの濁った空と、度々縦に走る雷光。
それを目にしながらも、オレの視界を支配するのはもう一年も目にしていない彼。
目の前に存在しないというのに―…
ずっと…別れたあの日から。
飛影の事は考えない様にしていた。
それでも、一日でも想わない日は無かった。
―考えるのと想うのとは、違う―…
飛影が躯の筆頭戦士としての立場を固めた事は聞いていた。
その時に感じたのは、喜びと、そしてその倍以上の安堵だった。
短い期間に実力を上げた、その無茶な沙汰に小さく笑い、そして…
無事で居てくれた…その事に、心底胸を撫で下ろした。
今、何をしているだろう…
トーナメントに向けて鍛錬中だろうか、躯の傍で…
長い事、考える事を禁じていた。
その所為か、溢れ出す。
それどころか、溺れてしまいそうな程―…
―逢いたい…逢いたい、飛影―…
「…飛影。」
考える事と同じ位、禁じていた。
貴方の名を呼ぶ事を。
貴方の名を呼んだら、先程まで見えていた幻の貴方の姿が視界から消えた。
そして、衝動的に癌陀羅を飛び出した。
貴方に逢えなくてもいい。
少しでも…側に行きたい―…
〜Hiei's gaze〜
幽助が吹っ掛けたトーナメントまで後数日。
その切っ掛けになったあの日、久し振りに蔵馬の姿を確認した。
俺が蔵馬を視るのは、多くて月に一度程の事。
癌陀羅の中は、結界が張られ邪眼でも視られない場所も多かった。
だが、それが理由では無い…
一人の妖怪として存在する蔵馬の強さを信頼していた事。
それから。
無言で別れたあの日、俺の前で泣かなかった蔵馬の自尊心を守ってやる為に。
それでも、黄泉という厄介な国王の元に居るのだから、手放しに安心出来る訳も無く、別れてから数回、安否の確認の為に邪眼を開いた。
つい先日。
躯の命令もあって覗き視た、幽助と黄泉のやり取りの場面に飛び込んで来た蔵馬の姿。
一年振りに、笑顔を視た。
柔らかいものでは無かったが…
邪眼を開く。
安否の確認という様な目的は無く、只、自然に意識が向いた。
蔵馬は窓辺に身を預けて、外を眺めていた。
当の本人に言えば怒りを買うだろうが、俺から見ればとても無防備な様。
その蔵馬の瞳に、雷光が映る―…
その事に何の反応も示さないまま、蔵馬は外を見続ける。
何を、考えているのか…
再び、蔵馬を雷光が照らした時。
蔵馬の口元が僅かに動いた。
確かに。
“ひえい”と―…
―俺の名を呼んだ―…
金縛りの様な感覚が、身体を支配した。
何も考えられずに、金縛りの様な感覚の中、唯一動いたのは右腕。
馬鹿な。
手を伸ばしてどうなる。
今までに無い程の馬鹿な己の行動を笑う。
勝手に動いた右腕を責めるかの様に右腕に目線を移した。
再度邪眼に意識を戻した時には、蔵馬は雷光の中、地を蹴っていた。
あの日、蔵馬を照らした月光よりも鋭い光の中。
それでも、蔵馬の長い髪は同じ様に光を弾いていた―…
(後編へ…)
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