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物語【三竦み編】
無言の約束 ―先に見えるは、徒寝…―


既に月が唯一の明かりと成っている刻。
月明かりが無い分、暗さを増した部屋の中…

艶めいた声と布が擦れる音だけが支配していた―…



〜無言の約束 ―先に見えるは、徒寝…―〜



掛ける言葉を持たないのが当たり前の様に、飛影は無言で蔵馬の身体に触れた。
意識こそまだあったものの、既にベッドに身を預けていた蔵馬は、こちらも当たり前の様に飛影を受け入れた。

まるで。
お互い解っていた様に…


蔵馬は、飛影が魔界へ行く前日にきっと訪れてくれるだろうと…そう思っていた。

飛影は、蔵馬がきっと自分を待っているだろうと…そう思っていた。


自惚れではなく…
これが短い期間で生まれた、二人の絆であった…

儚くも…確かな―…



「…っ」


蔵馬の艶やかな声が、抑え気味に飛影の耳に届く。
飛影の口からは、少しだけ乱れ気味な呼吸が繰り返されるだけ。

艶めいた声と布が擦れる音だけが部屋を支配しているのは。
この上無く…
飛影が優しく蔵馬を抱いている証拠だった―…


「…飛…影…っ」

「…蔵馬。」


呼び合った互いの名が、初めて部屋に響く。


まるで月明かりが自ら選んだ様に…
固く絡め合った二人の手が、照らされていた―…



蔵馬はベッドに横になったまま、身支度をする飛影を見詰めていた。

身支度を終えた飛影が、蔵馬の視線に気付いて。
優しく蔵馬の頭を撫でた。

蔵馬は目を閉じる事無く、飛影を見詰め続けた。


飛影は蔵馬に背を向け、窓に足を掛けた。
部屋よりも外の方が明るくて、何となく飛影は目を細めた。

飛影が外に出るべく、身を乗り出して足に力を込めた時。
蔵馬が近付いて来る気配を読み取って、窓に乗り上げたまま後ろを振り返った。

其処にはシーツを身に纏った蔵馬が立っている。


蔵馬はゆっくりと…
少し背伸びをして、飛影に口付けた。

バランスを崩しかけた蔵馬の背に腕を回し、飛影は二人の距離を縮めさせる。


少しの隙を付いて、蔵馬が飛影の首元に歯を立てた。
前にされた仕返しの様に。


「…っ」


小さな痛みによって、飛影が息を呑む。

その飛影を挑発するかの様に、蔵馬が笑みを向けた。
それを受け取って、飛影も笑った。


そして。
どちらとも無く、もう一度口付けた…


厳かな儀式の様に…月明かりが眩しい程に二人を照らす―…



今宵最後に月明かりが照らしたのは。
屋根を伝う飛影の左手に握られている布切れと…
窓に佇む蔵馬が零した、一筋の涙だった―…



(END)



★あとがき★
“徒寝(いたずらね)”とは…
恋い慕う人と離れて独り寂しく寝る事、という意味です。
次の日幻海師範のトコで顔を合わせますが、コレが二人の別れと成りました。。。
長い別れを前にして…何も喋らない様な気がしたのでこの様な形に成りました。
それでも二人の想いが伝わってると…
願わくば、お読み下さった方々にも伝わればと…
そう思います。
有難うございました^^

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