物語【三竦み編】 月見酔い W ひたすら肩で大きく呼吸を繰り返した。 頭の中は真っ白で、目は開けられない。 只、飛影に縋り付くだけ―… けれど二三分もそうしていれば、嫌でも身体は落ち着き始める。 本当は、呼吸を繰り返す事で段々と取り戻せそうなまともな思考回路を、手放してしまいたかった。 己の醜態を、気付かずに無かった事にしてしまいたい… そんな望みの薄い所願が、頭の片隅には在った。 飛影がオレの肩を掴んで、少し距離を取ろうとする。 オレは飛影の衣服を掴んだまま、拒否をした。 …このまま…寝た振りでもさせてくれないだろうか… もう一度肩に飛影の優しい力が込められたが、己の所願に忠実に拒む。 「おい、引っ付かれたままじゃ何も出来ないだろうが。」 呆れた様な飛影の声。 先程の醜態に呆れられている様に解釈出来て、ますます顔を見られたく無いと強く思う。 「…嫌です。放って置いて下さい。」 「…おい。」 「…オレ、止めてって言ったのに…」 我ながら、拗ねた子供の様だと思う。 もう無茶苦茶だ。 けれどこんな状況で顔を見せられる程、オレは自尊心を捨ててはいない。 もう、どうにか―… 「…ったく…」 「…わっ」 飛影が呆れた様に、けれど笑いながら、オレを力任せに抱え上げた。 飛影に縋り付いていた手を外され、背中に小さな衝撃があって、ベッドに身体を投げられた、と理解する。 このまま、布団に包まって寝てしまおう。 そうすれば顔を合わせずに済む。 片手で顔を隠す事は忘れずに、もう一方の腕で布団を手繰り寄せる。 …が、飛影に腕を掴まれる事で阻止されてしまう。 「もうっ、寝ますっ。」 そう言い放ったオレを、喉を鳴らして飛影が笑う。 腕を掴まれたまま乗り上げられて、ベッドの軋む音がした。 顔を隠す重要な役割をしている手も力任せに外されて、そのまま飛影の口付けを受けた。 優しいものでは無い、オレを追い詰めた時のそれ… 瞬間、身体を痺れが走った。 身体は平熱を取り戻したと言うのに。 まともに意識を覚醒させたと言うのに。 一瞬で、身体が熱くなる―… 「俺にとっては可愛い事この上無い…が、お前の為に酒の所為にしといてやるよ。」 そう耳元で告げられた。 いつの間に側に引き寄せていたのか、オレの上で飛影は一升瓶ごと酒を煽る。 喉を鳴らして水の様に酒を愉しんだ飛影に、口移しで酒を流し込まれた。 酒の辛い味覚の後に、飛影の甘過ぎる舌が口内で暴れる。 そんな口移しと口付けを繰り返される。 何度も、何度も―… 「…ふ……っ」 「ほら、酔ってしまえ。」 合間に飛影に囁かれる。 甘い甘い、囁き。 低くて妖しい、飛影の声―… 「お酒に?…貴方…に…?」 もう、酔わされている―… そう、頭の片隅で思った。 こんな恥ずかしい台詞を言ってしまう位… オレは、只流し込まれる酒を呑み続けて。 必死に飛影の口付けを受けるだけ。 口元から零れ出た酒を、飛影の舌が這って舐め取る。 こんな小さな刺激でも、逃がし方を知らない。 素直に身体が跳ねて、声が洩れる。 「さあな。」 口の端を上げて言う飛影の紅い瞳が、ぼやけて見えた。 もっとしっかり貴方の瞳が見たいのに―… 先程まで顔も目もまともに合わせられなかった事を棚に上げて思う。 口移しと口付けは、瓶が空になるまで行われた。 ずっとオレは必死に受け取る事を繰り返す。 それが精一杯で。 身体が言う事を聞かない。 指先は、痺れ過ぎて小さく震えている。 「…ちゃんと応えろ、蔵馬。酒の肴がお前しか無いんでな…」 そう告げられて。 身体中を、恐い程の痺れが走った―… (Xへ続く…) ★あとがき★ 飛影のオヤジ!! ハイ、蔵馬さんまだ追い詰められ中です(笑) お読み下さって有難うございました^^ [*前へ][次へ#] [戻る] |