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物語【三竦み編】
別離の行方



「俺は躯に会いに行く。」


貴方の台詞が、酷くオレの身体を冷やした。
全身で…血が流れてゆく様な感覚を味わったよ、飛影―…



〜別離の行方〜



生徒も教師も訪れない校舎の一角。
其処でオレは黄泉からの言玉に集中していた。

躯の言玉を持って側に来ていた飛影には気付かずに。

黄泉からの誘いに心底驚いた。
と同時に、黄泉の企みに巻き込まれた事に、神経がざわついた。


それを知ってか知らずか…飛影が躯の言玉を壁に叩き付けた。
自然に、躯の言葉をオレも聞く事になる。


「…せいぜい利用させてもらうぜ。」


貴方の台詞。
嬉しそうに…この上無く、楽しそうに…
空気が冷たいこの部屋に響いた。

強さを求め…至極好戦的な貴方らしい―…

けれど。
生まれてなかったから知らないんだよ、飛影…
躯の恐ろしさを…


背を向けた飛影に…
言い様の無い不安を感じさせられた。



「…飛影、これを!」


側に寄って飛影の手に握らせたモノ…
飛影がくれた…忌呪帯法の切れ端―…

そしてオレは少し、飛影から距離を取った。


「…まだ持っていたのか?」

呆れた様に飛影が笑う。


貴方がくれたのは…たった数週間前の事。
たかが布の切れ端でも…貴方がくれた…
オレにとってはかけがえの無い思い出の品。

―貴方だって…解っているでしょう―…?


「俺に渡してどうす…」

「いいから!後でオレに返して下さい!…ちゃんと…返しに来て下さい―…」


こんな…馬鹿な事…女々しい事…
分かっている。
嫌と言う程…己の情けなさ位―…


飛影は、無理矢理握らされた忌呪帯法の切れ端を見詰めて、暫く黙っていた。

そして溜め息を吐くのと同時に口を開いた。


「人の心配をしていないで、自分の心配をしたらどうだ?…黄泉の処に行くんだろう?」

「…おそらくは。」

「…」


無言のまま、飛影がオレに歩み寄る。
殆ど距離が無くなって…
そのまま…飛影の口付けを受けた。

人が来ないとは言え…学校なのに。
ほんの少しの理性が働いて、飛影の肩を掴む腕に力を入れる。


「…ふっ…」


口付けられながら、制服の襟のホックが外されていて。
首元に飛影の顔が降りて…
熱い唇が触れて……





………噛まれた。


「…っ!いっ…いたたた!飛影っ、何するんです?!」


歯形が付くのは間違い無い程。
下手すれば、飛影の犬歯によって多少血が出てるかも知れない…


「…別に。」


涼しい顔をしてそれだけ答えた飛影が、ゆっくり背を向け、部屋を出るのを只々眺めていた―…



「…何だったんだ、本当…」


黄泉との事を考えなければならないと言うのに。
オレの頭の中は、飛影の不可解な行動で占められていて。

取り敢えず。
溜め息を一つ、吐いたのだった。


部屋を出る飛影の左手から、渡した忌呪帯法の切れ端がひらひらと踊っていたのを思い出したのは。
その、十分後―…



(END)



★あとがき★
飛影、噛みました。
蔵馬、噛まれました。
…………………………笑

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あきゅろす。
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