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物語【魔界の扉編】
禁忌 −taboo−


「あんなに…!あんなに簡単に魂を他人に持っていかれるなんて…!!」


俺は激怒している蔵馬をどう静めようか、考え倦ねていた…。

事は、つい二時間前―…


不本意ながら幽助を助けるべく入った屋敷には、おかしな張り紙があった。
海藤の挑発に乗り、張り紙に書いてあった禁句を言い、…まんまと魂を盗られた。
蔵馬の心理戦により、俺は魂を取り戻せたし、全ては幻海の仕組んだ事で、幽助も無事だった訳だが―…。

要は俺が簡単に魂をくれてやった事に、蔵馬は激怒している。
事が逆だったら、確かに俺も許せないが―…


「飛影?!聞いてるんですか?!」

「…あぁ、聞いて…」

「それは綺麗でしたよ!貴方の魂の色は…!こんな形で見れるとは思いませんでしたっ!」


顔を歪め、声を荒げる蔵馬は初めて見る。

さて、どうしたものか…
正直、謝るのは癪に障る。



「もしもこれが師範の仕組んだ事じゃなくて、もしもオレが居なかったら、貴方は海藤なんかに殺られていたんですよ?!」

「…分かっ…」

「分かってない!!」

「…」


これは収拾がつくのだろうか…。
癪に障るが謝ってしまった方が早いのではないか…?


「…もしも…貴方が死んで…オレはその事すら知らずに…貴方を待ち続けるんですか…?何ヵ月か後に…コエンマからにでも聞かされて…?」


今にも泣きだしそうな表情だ。
だが悔しいのか、絶対泣くまいと我慢しているのが見て取れる。


「…悪かったな。」

「…っ」


絶対言うまいと決めていた言葉が自然と口を付く。
俺も驚いたが、蔵馬も驚いた様だ。


「…悪かった、蔵馬。」

「…っ」

俺の台詞が引き金になったのか、溜めていた涙がついに流れた。


「…急に…謝るから…」


涙が流れた理由を俺の所為にして、先程まで金切り声を上げていた狐が大人しくなった。


綺麗なものだな―…

いつも俺が理由で泣く。
コイツの気持ちを知る迄は、この狐が涙を流す事でさえ知らなかった。


「…蔵馬。」

抱き締めたくなった思いのままに蔵馬に手を伸ばしたその時。
蔵馬は涙を流している瞳でキツく俺を睨み、俺に向かって手を挙げた。
思いも寄らぬ行動に驚いたものの、蔵馬の腕を止めた。

「…何の真似だ。」

「…っ」

離せと言う様に引こうとする手を掴んだまま、蔵馬を見る。

観念したのか、蔵馬は腕の力を抜き、そのまま俺に身体を預けてきた。


「…許さない…から…あんなに簡単に…」


手を離してやると、強い力で俺の背中を掴む。
少し震えを抑えてる様にも思う。

何の言い訳も出来ないのが手伝い、俺は黙って蔵馬を抱き締めた。
背中を擦ってやる。


「…貴方が悪いのに…何でオレが慰められるんですか…」


簡単には納得しない様で、まだ悪態をつく。


「目の前に泣き虫が居たら慰めるのが一番だろうが。」

「…!飛影!!」


俺の台詞に頭に来たのか、身体を離そうとする蔵馬を逃がすまいと力を込める。
そしてついでの様に口付けた。
蔵馬の為か…己の為か…


「…んっ」

蔵馬は流されまいと身体を強張らせる。
蔵馬の身体の力が抜けるまで、暫く口付けてやった。


「…っ…本当に…卑怯者…」

「フン。何とでも言え。」


蔵馬を抱き締めたまま座り込み、蔵馬の匂いと温もりを楽しむ。
暫く、触れられないだろうからな…


同じ事を考えているのか、蔵馬は黙ったままだ。


「蔵馬…お前はあいつ等に協力するんだろう?簡単に殺られたら承知せんぞ。」

「…今日の貴方に言われたくないな…。それに貴方だって来るんでしょう?」

「…さあな。」


来るくせに…と呟いて蔵馬は小さく笑った。

「これから、きっと大変だね。」


わざとだろう…
これから迫り来る闘いを“大変”等と簡単な言い方にしたのは。


「…そうかもな。」

「…」


「昨日の事で、もう死んでもいい等と思っている訳でも無いんだろう…?」

「…まさか!」


おそらく顔を赤くして目を見開いているだろうが、俺の首筋に顔を埋めている為見る事は出来なかった。
その事を少し不満に思う。

蔵馬の頭を持ち上げる様に促し、頬を両手で包んで俺の目を見る様に固定する。
蔵馬は翠の瞳を少し揺らしながらも、俺の瞳をじっと見詰める。


「“それ”は俺にとっての禁忌だからな―…」

「…分かって…ます…」


蔵馬はそう言いながら柔らかく俺の手を外すと、もう一度俺の首筋に顔を埋める。


「…オレも…貴方の魂はもう二度と見たくないな…」


“とても綺麗な色をしていたけれど”と蔵馬は続けた。


「一生に二度と無い貴重な経験をしたな。」

「…凄い屁理屈…」

「…フン。」


蔵馬が俺の服を掴む力を強めた。


「…オレにとってもtabooですから…」


そう言って何かを覚悟する様に、蔵馬は静かに大きく息を吸い込んだ。


…俺の甘い判断により、不安にさせた事は悪かったと思う。
だが、それを怒りと共に素直にぶつける事が出来る様に成った蔵馬の変化を嬉しく思う。

口に出したら、また狐の怒りを買うが…。


「…そろそろあいつ等の所に戻れ。」


言葉とは裏腹に、蔵馬を抱き締め直した。
気付かれぬ様、蔵馬の香りを思い切り吸い込んで。


「…はい。」

蔵馬も同様、俺の背中に回した腕に力を込め直した。

そして二人同時に立ち上がった。


蔵馬は俺の瞳をじっと見詰めてから、背を向けて歩き出した。
が、二、三歩歩いて振り返った。


「オレ、貴方と共に闘える事、凄く嬉しく思います。」


強い…翠の瞳だった。

“オレも簡単には殺られない”
蔵馬の心の声が聞こえる。

俺が駆け付ける事も解り切っている表情だった。


敢えて何も返さなくていい様な気がした。


俺は蔵馬に背を向ける。
だが―…
一つ思い付いてしまった。


「…あぁ蔵馬。もう腰に力は入るのか…?」

「…っ!!飛影っっ!!」


顔を真っ赤にしているだろうお前の表情は見ないでおいてやる。

その代わり。
闘いが終わった後に堪能してやるさ。


蔵馬があいつ等の所へ向い易い様、地を蹴った。

まだ見ぬ敵を睨みながら―…






★あとがき★
暗黒武術会編の物語、“夢と契りと愛と…”の次の日のお話でした。
海藤さんに簡単に魂を盗られた飛影を怒る蔵馬です。
せっかく結ばれたのに、今度は仙水さん達との闘いですからね、大変…
魔界の扉編では、あまり二人の時間がないですからね。。。
貴重な二人の時間でした♪
あ、ちなみにコレ、屋敷を出た飛影を蔵馬が後で追って、何処か人気の無い所(外)でのやり取りです…
お読み下さって有難うございました^^

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あきゅろす。
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