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REQUEST
痕、唯一の…


「…遅い。」


部屋の時計が指し示しているのは、20:10…

“19時には部屋に着くと思いますから…”

蔵馬の台詞を思い出して、呟いた事と同じ事を思った。


―やはり遅い…



〜痕、唯一の…〜



蔵馬は余り俺を待たせる事はしない。
それ故たかが一時間のズレが、俺を落ち着かせない。

所在だけでも確認すべく、意識を邪眼に集中させた―…


蔵馬の所在は直ぐに確認出来た。
義父を手伝いたいからと入社した勤め先のビルの中…
慌てて帰る支度をする蔵馬が視えた。
約束の時間を忘れる等有り得ない蔵馬の事…大方仕事が長引いたのだろうと見当がつく。

何も無ければそれでいい…

そう思って邪眼を閉じ掛けて飛び込んで来た光景。
何やら顔を赤らめた女が蔵馬に声を掛けていた光景だった。

蔵馬はその女に謝罪のポーズを取る。
恐らく…酒の誘いだろう。
それを断っている様だ。

会社というのは、業務以外にアフターとしてやたら飲み会を大事にする組織だと…断わるのが面倒だと…蔵馬がいつぞや言っていた。

特に何が気になった訳ではない…が、俺は邪眼を閉じるタイミングを失って、そのまま蔵馬の姿を追った。

エレベーターに乗り合わせた男に、先程の女に向けた同じポーズに加え、申し訳無さそうな顔をした蔵馬が、やっとビルの出口に差し掛かる。

其処にはまた女。
蔵馬を見るなり近付き、手紙らしき封筒を渡す。
付け加えて言えば、これまた顔を赤らめて必死…という表情だ。
蔵馬は笑顔を向け、軽く会釈をしてその女から立ち去った。

全く…顔の皮が厚い奴―…


結局、自宅の最寄りの駅に着く迄に、片手では足りない人数に声を掛けられ、蔵馬はどれも作り笑顔を添えてやり過ごした。

まぁ、アレだけ器量も愛想も良ければ、他人から好かれるのは当然の事と思う。
魔界でも然りなのだから…


時刻は21:00
もう家迄の一本道に差し掛かっており、もういいか、と邪眼を閉じ掛けて…
今度は大柄な男が蔵馬の前に立った。

何かを言われ、例外無く笑顔と会釈でやり過ごそうとした蔵馬の手首をその男が掴む。

その光景を見た瞬間。
窓を飛び出しそうになった己が居た。

…が。
大柄であろうと相手は人間。
ましてや蔵馬は元妖狐…知能も実力も有る。


俺は何を熱くなり掛けている―…

自分を笑って、今度こそ邪眼を閉じた…



「只今っ飛影…待たせてすみません!」


慌てて転がる様に部屋に入って来た蔵馬からの謝罪。
仕事なのだから仕方が無いだろう…
俺だって仕事が理由で中々来れないのだ。


「…構わん。」


気にしていない事を伝えてやると、蔵馬はふっと顔を綻ばせた。


「何か作りますね。」


そう言って長袖のシャツの袖を捲り上げた…蔵馬の右手首に見えた痕―…

それを見た瞬間。
窓を飛び出しそうになった時の感覚に似た…衝動。
今回は止まる気等無かった―…


蔵馬に近寄り右腕を掴み持ち上げる。
蔵馬によく見える様に。


「…何だ、これは。」

「え…?あ…さっきの…痕になってる…?」

「…さっきの?」


視ていたのだ。
だが、知らない振りをして問う。


「さっき…変な男に絡まれまして…腕を掴まれた時に付いたかと…飛影?」


素直に答え、俺の真意を問う蔵馬。

腹が立った。
たかが人間に痕を付けられる蔵馬の甘さに。
そして蔵馬の右手首に在る事実に。

他人に触れさせる事自体、許せない事だと言うのに―…


右腕を掴み上げたまま引き寄せ、そのままベッドに倒し込んだ。


「…飛影…?」


―どうしてやろうか―…

翠の瞳を見下ろしながら考える。
呆れる程甘い狐に、どう…分からせてやるか…

お前に触れていいのは…痕を付けていいのは…この俺だけだという事を―…


蔵馬の頭上で左手首も共に押さえ付ける。
揺れる翠の瞳には無視を決め込んで。


「…犯る…」

「…え?……っ…」


蔵馬の呼吸をも奪うべく、口付けた―…


掴んだ手首を離して等やるものか。
このままお前が果てて気を失うまで。

眠りに就く直前にお前の口から俺の名が聞ける頃には、同じ場所に新しい痕が在る筈だ。

目覚めて…
頭の良い狐の事…俺の真意を知って困った様に小さく笑うのだろう。

その時は。
柄にも無く、手首に残るその痕に口付けを落としてやってもいい…



(END)



*3333*REQUEST
通りすがりのヒクラ好き様より 「モテモテ蔵馬に嫉妬する飛影(甘々)」
受付 2010.8.9  掲載 2010.8.22.....☆

★あとがき★
通りすがりのヒクラ好き様、キリ番お踏み下さった上にリクエスト下さいまして、有難うございました^^
大変お待たせ致しました(汗)
ウチの飛影、独占欲は強いですが、嫉妬を表には出さない模様。。。
分かりづらいので、蔵馬は何だかよく分からずに戴かれちゃいました(笑)
翌朝、飛影の真意を知った蔵馬は、飛影の言う通り困った様に小さく笑うんでしょう。
でも言い訳の一つ位するかな?
「昨日は飛影を待たせてる事だけが気になっていた所為で、日頃はきちんと気を付けているんです。オレだって貴方以外に触れられたくありませんからね。」って。
で、また飛影のツボに入って朝から…フフフ
リクエストにお応え出来た自信はありませんが(甘い自信も無い;謝罪)、少しでもお楽しみ頂けたら嬉しいです♪
通りすがりのヒクラ好き様、お読み下さった皆様、有難うございました^^

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あきゅろす。
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