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REQUEST
observation of ...


「…寝る。」


オレの大切な人は、例外無く風鈴の音と共に窓から部屋に入り、例外無くぶっきらぼうに挨拶代わりの台詞を述べた。

只、例外なのは、台詞の内容。
オレは“いらっしゃい”では無く、その台詞に見合う返答をしたのだった。


「…お休みなさい…」



〜observation of ...〜



稀に見る飛影の寝顔。
あどけなさは未だに多少残るものの、随分大人びた…と思う。

そして、本当に綺麗だ―…と…


寝る、と一言告げて、本当にベッドに身を投げ出したまま身動かなくなった飛影。
安定した寝息を確認して、オレは飛影にそっと毛布を掛けた。
手持ち無沙汰なオレは、睡眠の後は食事…という安易な考えを巡らせて、飛影の為の食事を拵えた。

それも終わってしまって、キッチンから部屋に戻り、今飛影の寝顔を眺めるに至る。


気になる程妖気が減っている訳では無い。
が、疲れているのだろう…と思う。

窓から入って早々、「寝る。」は無いだろうと包丁片手に苦笑いしたが、それ程疲れているのだろう。
躯の人使いの荒さは、飛影から聞かずとも想像出来た。


「お疲れ様…」

―来てくれて有難う―…


眠っていても敏感過ぎる貴方には聞こえない様に、殆ど空気の様な声で呟いた。


ふと、毛布が役目を果たしていない事に気付く。
起こす事の無い様にそっと掛け直して、飛影の格好を見、寝苦しくないのかと思う。
上着位脱がせて…と思い立つが、止めた。

疲れて深い眠りに就いているとは言え、流石に脱がせば気付くだろう。
こちらの真っ当な理由は別にして、からかわれてしまう事も予想出来た。

止めよ…。
よくこの格好で眠る人だし…。

そう自分を納得させ、床に腰を下ろす。
飛影の寝顔がよく見える、真横に―…


―綺麗―…


本日何度目かの感嘆の意を心内で零した。

逞しくなったな…
背もまた伸びたんじゃないだろうか…
表情も、大人びた…


飛影が聞いたら余り面白くない感想だろうが、オレにとっては本心で…。

もう少し近距離で見詰めたい気持ちを抑えるのは困難で、音を立てない様に静かに膝を立てた。


眠る飛影を余所に、オレの滅多に出来ない“飛影観察”は続く。


一見硬く見える飛影の髪。
本当は凄く触り心地がいい…。
オレだけだといい…この感触を知っているのは―…

自然に手を伸ばし、飛影の流れている漆黒の髪に触れた。
手が覚えているこの感触が、何とも言えず嬉しく、心地いい…


闘い向きの、無駄の無い身体―…
昔と変わらずしなやかな…けれど昔よりも背が伸びた所為か、少しだけ逞しさを増した様に感じさせる。

そっと、飛影の腕に手を移動し、指で筋肉を辿る。
オレとは違う造りのそれ…


オレはまた、飛影の寝顔に注目する。

いつもは鋭い目線を寄越してくれる、真紅の瞳―…
オレは逃げる事が出来ずに、必ず捕らわれる。

もしも捕らえてくれなければ、オレは自ら飛び込むんだ。
飛影とオレは、その様に出来ている。
必然だと…オレ達の形を、繋がりを、何年も掛けてこの人が教えてくれた―…


思いを馳せながら、オレの勝手な“飛影観察”はまだ続く。


睫毛、意外と長いんだ…
飛影の睫毛なんて、こんなにじっくり見た事が無い。


あぁ、でも足りない。
貴方の強い真紅の瞳…
優しさを持ち合わせた、綺麗な真紅の光―…


無意識に飛影の頬に手を伸ばし掛けて、慌てて引っ込めた。
せっかく眠っているのに起こす所だった…と己を苦笑う。

飛影の寝顔を見詰めている所為だと省みて、寝顔から目線を外した。
同時にオレの視界に入った、飛影の肩口の切り傷。
とても浅いが新しいものの様で、固まり掛けの血が付いていた。


気が付けば―…
飛影の肩口に頭を下ろし、その血に己の舌を這わせていた―…


「…おい。」


飛影の声が、耳元で聞こえた。
それはそうだ。
オレは今、飛影の肩口に顔を埋めているのだから。

突然の飛影の声、何より己の行為に、自然と身体が強張った。


「…何をしている?」

答えないオレに再度飛影が問うてくる。


「 何…してるんでしょうね…?」

本当…何してるんだ、オレは。
もう何年もの事で慣れてはいるものの、からかわれる材料をこんなに露骨に提供しなくてもいいのに。


不思議に思ったのだろう。
飛影はオレの肩を掴んで、持ち上げた。
当然、オレは飛影を見下ろす事になる。


寝起きとは思えない強い真紅の瞳に見上げられ、そして心ごと射抜かれた―…

あぁ、やはりこれだ。
足りなかったのは…欲しかったのは…強い…真紅の光―…

貴方が居るのに、得る事が出来なくて焦れたもの―…


そのまま、オレは飛影に口付け、舌を差し入れた。
どうせ絡め取られてしまうのは、もう何年も前から疾うに解っている。
否、解らせられた…


「…ふっ…ん……っ」


ほら、オレが先に音を上げてしまう事も―…


「…どうした…気でも触れたか…?」

「そう…かもね…」


妖艶な笑みをくれる愛しい人に、オレもその様を真似て返す。
優しく促されて、今度はオレが見下ろされる。

真紅の光を見ていたい…
けれど。
この近過ぎる筈の距離でさえ、遠い―…

どちらを選べばいいのか…
解らない―…

なら…貴方の熱を受けて、溶けてしまえ―…
貴方と共に…ならば―…


飛影の首に腕を回す事で、口付けを請う。
飛影は気付かない振りをして、オレを追い詰める手段を選ぶ。


「俺の寝ている間に、あちこち触って満足だったか?」

「…狸寝入り…ですか…っ」

「誰が狸だ…」

「…貴方…っですよっ…寝た振りなんて…悪趣…味っ」


息が上がる。


「じろじろ見られて、身体に穴が開くと思ったんでな。寝ていられなかっただけの事だ。」

「…そ…んな…」


眠っている飛影にオレがした様に…飛影が真似る。
そういうやり方は、やはり意地が悪い…と思う。

優しく、オレの髪を弄る。
ゆっくりと妖しく、晒された鎖骨を熱い指で辿られる。


「…んんっ…」


おかしい…
これだけの事でこんなにも身体が反応する。
洩れる声が、小さな痙攣が、止められない…


「…普段よりも反応がいいな…」

「…っ」


反論したがるオレの口に、待ち望んだ飛影の口付けが与えられた。
それは、甘くて…熱い―…

何度も角度を変えられ舌を絡め取られれば、飛影の舌の動きに付いて行こうと足掻くオレのそれは、力を無くして痺れてしまう。

たかが口付け。
けれど飛影から与えられる熱過ぎるそれは、直ぐにオレを突き落とす。
甘い霞の掛かった、飛影だけの闇に―…


「そんなに触れたかったか…?それとも…この様にされたかったか…?」


耳元で囁かれて、常の事、己の身体が小さく跳ねる。
飛影の行為は、オレからコントロールを奪う。
己の身体だというのに。


「…はっ……あぁっ…」


飛影の熱い舌が這う感触を、オレが一番弱い局所で感じ取って…


後は―…

“熱”
“愛”
“飛影”

で埋め尽くされる闇に―…


滅多に出来ない“飛影観察”
途中で終わってしまったけれど。

『全てが愛しい』
これがオレの最終結論。

只々思い知らされてしまっただけ…


そして、終わる事の無い貴方の闇に、益々深く沈められた。
熱くて狂おしい、真紅の―…



(END)



*3000*REQUEST
ちょこちっぷ様より 「甘い微裏」
受付 2010.7.28  掲載 2010.8.9.....☆

★あとがき★
ちょこちっぷ様、リクエスト有難うございました^^
えーと…謝っちゃえ!(おい)
ご希望にお応え出来ず、大変申し訳有りません。。。m(_ _)m
これ、結ばれてから十年近く経っている設定です。
そんなに経ってても飛影はあまり寝顔を見せてなかった模様(笑)
滅多に無いチャンスと、飛影を観察してみた蔵馬ですが、飛影の匂いに(ただ寝てるだけですが;笑)負けてしまった様です。
これを微裏と呼ぶなら、管理人の下ネタは犯罪級…てな位裏の部分が薄い…
ちょこちっぷ様、本当にごめんなさい(T ^ T)
日々精進して参りますので、今後も呆れずにお付き合い頂けると嬉しいです!
あ、蔵馬の「一番弱い局所」…皆様のご想像にお任せします…フフ( ̄▽ ̄)
ちょこちっぷ様、お読み下さった皆様、有難うございました^^

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あきゅろす。
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