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REQUEST
...if

何故―…
そうは、思わなかった。

只。
もしも、この部屋でなかったら。
もしも、この手を伸ばせたら。
もしも、声を出せたなら―

繰り返し、繰り返し…
蔵馬は願っていた。

もしも―…



〜...if〜



「…ふ…っ……ぅ……ぁ………っ」


声にならぬ様、蔵馬は必死に耐えていた。
うつ伏せに、只シーツを噛み締めて。
腕は一瞬空を切ったが、頼る物が無くて震える指先がシーツを引っ掻いた。


―魔性使いチームとの闘い。

飛影が結界の中に閉じ込められた事に、酷く安心した。
あの傷付いた右腕で、闘って欲しくは無かったから。
そして飛影が欠けた穴を少しでも自分が埋めるのだと、その思い一つで蔵馬は闘いに臨んだ。

画魔による呪縛。
凍矢を倒す為のシマネキ草。
爆拳の前では電池切れのサンドバッグ状態。

蔵馬が情けない程にボロボロになった身体を治癒し始めてから、既に五時間以上。
完全に身体の痛みを取り除けたのは深夜の時刻となっていた。


「…お帰りなさい!」


蔵馬は思わず微笑って、ホテルの窓をカラリと開けて部屋へ入る飛影の気配に振り向いた。
ベッドに座ったまま、お手製の薬品を片付けている最中だった。

ホテルの外は、風が激しい音を立てて吹き荒れていた。
窓を背にした飛影の後ろで、木々が風に大きく撓る。

いつもの様に右腕を傷め付けて、そのまま外で休むのだと予想していたのに。
飛影が暖かい部屋できちんと休む事を択んだ事に、蔵馬は安堵して…
そして何処に居てもこの人は窓から侵入するのが好きだな、と―
そんな余計な事まで思って、蔵馬は微笑ってしまった。

何も答えずに窓を閉めた飛影の右腕の傷が、閉じ込められた結界によって元に戻りつつある事―
飛影の右腕をチラリと見てそれを逸早く感じ取り、蔵馬はますます微笑みを深めた。


「…!」


直後―。
蔵馬の身体はベッドに沈められ、満面の微笑みはぎこちなく固まった。

蔵馬の瞳には、天井よりも近くに見える飛影の鋭い瞳。
それよりも余りに近い、剣の切っ先―…


「…あんな風にみっとも無く壊れるのなら、今此処で死ねばいい。」


そう飛影の低い声が告げても、蔵馬は一瞬何を言われているのか分からなかった。
剣諸共飛影を跳ね除ける事もせずに、蔵馬は飛影を見上げている。
そして“死ねばいい”と言った飛影の剣先も、蔵馬に向かって動く様子は見せなかった。

ベッドの軋む音すら立てず、暫く二人はそのまま動かなかった。
蔵馬は瞳に1センチの間も無く向けられた剣先の奥の、飛影の瞳を見詰めている。
けれどそうしていても、蔵馬は飛影の心情を読む事は出来なかった。

徐に剣先が揺れ、蔵馬の目の前から消えた。
ドスッと言う音で、床に突き刺された事を知る。
蔵馬の衣服に飛影の手が掛けられたのも、同時の事だった。

強引に蔵馬の素肌が暴かれてゆく。
そうしながらも飛影は器用に蔵馬をうつ伏せにさせた。
全く想像もしていなかった展開に、蔵馬は酷く狼狽えた。
止めさせようと、見えた飛影の腕を掴もうとして、それがまだ完治していない右腕だと気付くと蔵馬はその腕に触れる事が出来なかった。


「―――っ!!」


蔵馬の目の前には真っ白なシーツの波。
それが一瞬で歪み、頭の中が酷く霞む―

蔵馬の蕾に急に入り込んだ、飛影の長い指。
ぬるりとした感触は飛影の唾液によるもので…
けれど初めて感じる痛みに、蔵馬にはそれを理解する余裕が有る筈は無い。
一瞬飛び掛ける、蔵馬の意識。
それを繋ぎ止めるのは、飛影の舌の感触だった。
飛影はうつ伏せにした蔵馬に覆い被さり、蔵馬の耳元に唇を付けるとそのまま熱い舌をねじ込んだ。
厭らしい音は蔵馬の脳内に響き、蔵馬の意識を繋ぎ止める。

―あぁ、怒らせたのだ。

霞が掛かる意識の端で、蔵馬は思った。
知っていた…幽助よりも早く、爆拳に反応してくれた事。
分かっていた…涼しい顔をしながらも、誰よりも案じてくれていた事を。

でも、オレだって…
貴方の腕を心配していた。
貴方の代わりに闘って、勝ち進むのだと。
そして本当は、オレが貴方の腕を癒せたらいいのに、と―
そう、思っていたんだ…

蔵馬は伝えられない想いを、心の中で悲痛に叫んだ。


「…ふっ…ぅ…」


入り込んだまま止まっていた飛影の指が動き始め、蔵馬の思考を遮断した。
その異物感が、背中を這う飛影の熱い舌によってじわじわと快感に変えられてゆく。
蔵馬の勃ち上がったモノを背後から撫で上げ、その硬さに笑った飛影がどんな表情しているか…
蔵馬は見る事も考える事も出来ない。


「声、出せよ。」


そう飛影の声が聞こえた瞬間、蔵馬はシーツに噛み付いた。
飛影の指が抜かれ、飛影自身が入り込んでくる刺激を、蔵馬はシーツを噛み締める事で受け入れた。
蔵馬の声は、一切、漏れなかった。

隣の部屋には幽助と桑原。
どんなに眠りの深い二人でも、おかしな声が聞こえれば、それはまた別だろう。

蔵馬の手は、何かを求める様に空を切った。
そしてそのまま乱れたシーツを掴み、小刻みに震えている。

飛影は蔵馬に己を埋め込んだまま動く事はせずに、蔵馬の勃ち上がったモノに触れた。
柔らかく握り込んだり先端を親指で撫でたりと、この上無く蔵馬を煽る。

―おかしく…なる…

蔵馬はますますシーツを深く咥え込んだ。
このまま飛影の熱に浮かされて、正気を失くしてしまいそうだった。
そうなっては、己の醜い声がこの部屋に響き渡る…
それが蔵馬にとって一番の恐怖だった。

飛影は空いた右手を伸ばし蔵馬の顎を捕えると、顔を浮かせて硬く閉じられた蔵馬の口を開かせ、強引に指を突っ込んだ。
熱い息が、無理矢理蔵馬の口から開放される。
飛影の指は蔵馬の逃げる舌を弄ぶ。
そして飛影の腰は、蔵馬を追い詰める為の動きをし始めた。


「…ぅ…あぁっ…」


中途半端に開けられた口から、簡単に洩れた蔵馬の声。
蔵馬が一番、恐れている事―


「どうした、助けでも呼べばいい。」


蔵馬は朦朧としながら、飛影の言葉に首を横に振った。
何度も、何度も―

―飛影を売る事なんて、絶対にしたくない…

声を出せば、異変に気付いた幽助達がきっと部屋に入って来る。
この様を見られれば、その後の結果は目に見えている…

蔵馬は震える手を何とか動かし、強引に己の口から飛影の指を引き抜いた。
大量の唾液で濡れる飛影のそれを大事そうに握ったまま、再度蔵馬はシーツに口を押さえ付けた。


本当は。

見えた飛影の右腕に、縋り付きたかった。
只、“飛影”と呼びたかった。

飛影に対する…この行為に対する嫌悪はまるで無くて…
只―
もしも、この部屋でなかったら。
もしも、この手を伸ばせたら。
もしも、声を出せたなら―

もしも。
“飛影”と呼んだなら、彼は“蔵馬”と呼び返してくれただろうか―…

そう、願い事の様に繰り返しながら、蔵馬は飛影の指を握り締めた。

蔵馬の初めての抵抗がそれで、飛影は思わず動きを止めた。
助かったとばかりに蔵馬は呼吸を整える。
蔵馬の短い呼吸が、シーツに吸い込まれてゆく。

飛影は黙ったまま、蔵馬のその様を見詰めていた。
逃げるなら今だろう―
それなのに、蔵馬は飛影の腕の中から抜け出そうとはしない。
飛影が蔵馬の中に入り込んだ事からも逃げずに、蔵馬は呼吸を整える事に必死だ。
まるでこれからの飛影の刺激に、声を出さずに受け入れる為の準備に見える―

飛影は蔵馬に握り締められた指を引き抜いた。
唾液に濡れたままのそれは、蔵馬の込める力があってもするりと抜けた。

やっと手を伸ばせたのに―
あくまで成り行きであっても、飛影に自分から触れられたのに。
息が荒く大きくなってしまわない様に呼吸を肩で整えながら、蔵馬の胸は締め付けられた。

それでも、縋るモノが欲しい―

またシーツを掴みかけた蔵馬の手に、奪われた筈の欲しかった手が覆い被さった。
それはそのまま、指を絡める様に動いた。

それが、蔵馬にとって余りに衝撃で。
シーツを噛み締めたまま、蔵馬は己の手に目をやった。
未だ傷付いたままの飛影の右手が、指が、己の手に触れている。
とても温かい、優しい感触で―

たったそれだけの事なのに、蔵馬の目にはじわりと涙が浮かんだ。
蔵馬の背中がますます震える。

その頼り無げな背中を。
蔵馬に剣を向けても触れても変わらなかった表情を少しだけ歪ませて、飛影は見詰めた。

優しくするつもり等、微塵も無かった―
只、醜い低レベルな妖怪に殺され掛ける位なら…
己のこの手で壊して葬ってしまえ。
―助けられない、位なら…

これ迄思う様に生きてきた飛影の、余りに身勝手な選択だった。
それまでして蔵馬の生き死にに拘る理由は、見付ける気も無くて。

只、それだけの事。
残酷までに只、それだけの事、で…

名を呼ぶつもりも、無かった筈、なのに―…


「…蔵馬。」


思わず己の口を吐いて出た名に、飛影は酷く驚いた。
こんな声が出るのかと。
まるで他人の声の様だと…
飛影はそう感じずにはいられなかった。


しんと静まり返る、空間。
乱れた蔵馬の息も、布擦れの音も、全てが止まった。
外の吹き荒れる風の音も、聞こえない。

たった今小さく響いた声を、大切にするかの様に―…


もしも。
“飛影”と呼んだなら、彼は“蔵馬”と呼び返してくれただろうか―…
宙に浮いていた、そんな蔵馬の想い。

―充分…だ…

その飛影の声だけで。
己の名が、優しく響いた事実だけで。

蔵馬は己の右手に絡む指を大事そうに握り直してから、繋ぎ止めていた意識をゆっくりと手放した―…



どれ位、経っただろうか…
蔵馬はもう一度優しく己の名が響いた気がして、ふと、目を開けた。

ぼんやりとした視界の端に映ったのは、ベッドの側に立つ飛影だった。
呼び掛けてくれた…?
そう聞く前に飛影の背中が見えて、部屋を出て行くつもりなのだと分かった。


「…飛影っ!ちょっと待って…っ」


覚醒したばかりでも、焦りが前に出てハッキリと声が通った。
だが飛影は止まらずに、ドアへと向かう。


「飛影っ!お願い…待って下さい!」


蔵馬は思わず叫ぶと、ベッドから飛び出した。
闘いの所為では無い鈍い痛みが走ったが、それは気にならなかった。

止まってくれない飛影に向かって、半ば距離感も掴めないまま蔵馬は突進した。
ドタン、と大きな音を立てて、飛影諸共床に座り込んだ。
待ってくれないのなら捕まえておくだけだと言う様に、蔵馬は飛影の背中に張り付いた。
飛影の胸にはしっかりと、蔵馬の腕が回されていた。


「…何だ。」


やっと飛影が観念した様に口を開く。
いつもよりも少しだけ低い、静かな声だった。


「すみません…でした。」


そう、蔵馬は言った。
蔵馬は額を飛影の背中に当てて、目を瞑っている。


「飛影…ごめん…」

「…何故、貴様が謝る。」


繰り返された蔵馬の謝罪に、飛影は聞いた。
無理矢理事に及んだのは、飛影の方だ―

蔵馬は首を何度も横に振った。
背中で蔵馬の額が擦れる感触が、それを飛影に教える。


「蔵…」

「おーい、どうしたよ?デカイ物音立てて!オメェら喧嘩かぁ?」


直ぐ其処のドアの外で幽助の声が聞こえ、蔵馬は焦ってギクリと身体を強張らせた。
蔵馬を呼び掛けた飛影の声は遮られて、何を言おうとしたのか本人でさえ分かっていない言葉は完全に呑み込まれた。


「…幽…助っ!違うんですよ、飛影ってばオレの薬呑んでくれなくて!あっ、代わりに幽助呑みます?」

「げ、アレか!俺はいいわ。飛影、ご愁傷様〜!早く呑んだ方が身の為だぞ!んじゃ俺また寝るわ、明日な!」


“蔵馬の薬”と言われて、関わらない方が良さそうだと瞬時に判断したらしい。
幽助の気配は既にドアの前から移動し始めている。


「うるさくしてごめんね、お休み!」


そう幽助に告げるなり、蔵馬はホッと息を吐くとクスクス笑い始めた。
飛影は未だ蔵馬に巻き付かれたままで、無理矢理動く事も憚れるのか黙っている。
先程何かを言い掛けた事も、忘れて。
…が、流石に笑い続ける蔵馬を不思議に思った様だった。


「何が可笑しい…?」


飛影に問われても未だ笑っている様で、その振動は絶えず飛影に届けられている。


「あんなに声を出さない様に気を付けていたのに、今になって物音立てたり大声だしたり…オレ、ツメが甘いなぁって!」


そう答えて、一頻り笑い終えたのか、蔵馬は飛影の肩に頭を寄せた。
瞬時に変わる表情。
まるで祈る様な、蔵馬の瞳―

飛影の耳元で、サラリと蔵馬の髪が鳴る。
蔵馬の腕同様、長い髪は飛影の身体の一部を包んだ。


「…ツメだけじゃない、貴様は…全てに甘過ぎる。」

「うん―」


もう、言葉は交わされなかった。
互いの想いは、交差したのか、否か―

飛影を抱き締め続ける蔵馬の手に、飛影の手が静かに重ねられたのを。
包まれた手の持ち主だけが、気付く―…



(END)



*20000*REQUEST
りー様より 「暗黒武術会中のエピソードで、飛影→蔵馬で、部屋で飛影が無理矢理蔵馬を…(裏あり)最後は飛影が反省しながら告白して、蔵馬が受け入れる、みたいな感じで…」
受付 2011.10.30  掲載 2012.1.18.....☆

★あとがき★
りー様、リクエスト有難うございました^^
さて、皆様にクイズです
リクエストに何個沿えているでしょ〜かっ!w
りー様、本っ当に申し訳ございません(T▽T)
クレームお待ちしております!orz
しかし…久し振りの飛影の「貴様」呼び…楽しかったです
あ、こいつら最後までヤッたんでしょ〜かっ!w(クイズ多いな)
違うか、最後までイッ…(放送事故)
それは皆様のご想像にお任せしま〜す('ω';)
そして〆はわざと明らかにしませんでした。。。
二人の微妙な心情が伝わ…る…話になっていれば…イイんですが…(言ってて自信無くなった、いや寧ろ最初から無い)
よし、もう逃げ〜るっっ
りー様、リクエスト、本当に有難うございました^^
大変お待たせしまして申し訳有りませんでした
お読み下さった皆様も、本当に有難うございました
心から感謝申し上げますっっ(*'ω'*)ノ

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