REQUEST
stay 〜Hiei's gaze〜
どれ位の間、この幻に囚われていたのか。
その感覚は分からない。
暗黒武術会の一幕や、魔界統一トーナメントの時雨との一戦、俺を庇う蔵馬の姿等、見せられる映像は様々だった。
中には、らしく無くいつぞや想像してしまった蔵馬の死に逝く姿もあった。
敵と蔵馬の間に割り入ろうとしても。
手を伸ばそうとしても。
それは敵わない事だった。
これがあの厄介な蜘蛛が見せる幻なのだと認識出来るまでになっても、俺はその幻から目覚める気にはならなかった。
どうしても、手を伸ばしてしまう。
目の前の、血に塗れる蔵馬に…
それを幻に未だ囚われていると表現するなら、その通りなのだろう。
まるで、身体が二体在る様だった。
傷付く蔵馬に手を伸ばそうとしている自分と、静かに眠り続ける自分。
だが、意識は一つだった。
眠る俺の側に、蔵馬の気配を感じていた。
聞こえていた。
アイツの呼ぶ声が。
手に取る様に分かっていた。
アイツが顔を歪ませている事が。
それでも未だ、起きる訳にはいかなかった―…
いつか届くと思っていた。
助けてやらねば、と…
繰り返される映像に、そう強く思っていた。
やはり何処か、まともな思考回路ではなかったのだろうが。
だが―…
眠る身体に静かに触れて来た蔵馬に。
ふいに落とされた、蔵馬の唇に。
蔵馬の苦しみが痛い程感じられた。
それは、分かってやっているつもりだった以上の、蔵馬の心の痛みだった。
落とされた唇の回数よりも多く降る、蔵馬の涙に―…
そして、思ったのだ。
手を伸ばしても届かない、助けられない目の前の蔵馬よりも。
自分が起きてやれば、拭ってやれる涙が在ると…
目の前の傷付き倒れる蔵馬よりも。
今見えなくとも分かる、涙を流し続ける蔵馬の方が。
余程、死にそうだと―…
そして俺は。
起きてやるか、と…
幻の中で、初めて笑ったのだった。
子供の様にしゃくり上げて泣くお前を見て。
しがみついて離れない、少し震えたお前の腕を見て。
あれでも笑いを堪えた方だと言ったら、お前は怒るだろうか。
お前の中の俺が消える事等許されない、と…
己の存在価値を改めて知ったと言ったら。
何を今更と、お前は呆れるだろうか。
見せ付ける様にして、お前の目を覗き込んだのは。
只、お前の瞳を見たかっただけだと知ったら。
照れた様に、お前は笑うだろうか。
毛先を涙に濡らした髪が、風に舞っていた。
俺はお前に、手を伸ばす―…
風に取られた役目を、取り返す為に。
(END)
★あとがき★
リクを戴いて書かせて頂いた“stay”の、飛影語りでした♪
あぁ〜、スッキリした(笑)←書きたくてしょうがなかったらしい
にしてもウチの飛影…どんな状況でも偉そうだ(´m`)
んでも其処がチミのいいトコだ…うんうん
お読み下さって有難うございました^^
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