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その瞳は、何を想う


日頃から、愛想等持ち合わせない、人。
鋭い瞳には、常に紅い光と共に不機嫌さを浮かべている。

…知っている。

けれど。

どうして今は、こんなにも怒りの色を放っているのか。

気怠い不機嫌さ以外の感情を…
飛影が瞳に露にする事を、初めて知った。



〜その瞳は、何を想う〜



母を救う事。
それが今のオレの全てだ。

飛影、剛鬼と手を組んで暗黒鏡を手に入れた。
オレはそれを母の為に使用する事だけに、全てを懸けている。

霊界探偵の幽助に暗黒鏡を三日間貸して欲しいと頼み込んだのは、形振り構っていられなかったからだ。
自分なりに幽助を調べ、情に厚い人間、と答えを出した。
幽助の実力は、妖力が戻り切らない自分と同じ…場合によってはそれ以上。
強引に事を進めるより、理解を求めた方が手っ取り早い。

飛影と剛鬼…
この二人から手を切る事を選んだのも、その場を幽助に見せたのも、全て策略。
幽助の信用を得る為に他ならなかった。

オレは手を引かせて貰う、と告げた時も、飛影は嫌味一つ言うだけだった。
暗黒鏡を返さない事は気に入らなかっただろうが、それでも、関係無いと言った顔色だった。


それが、何故―…?
今はこんなにもハッキリと、紅い瞳に怒りを含んでいた。




――――――――――――――
――――――


―明日は満月。

暗黒鏡の効力が発揮される、そして、母の容態を考えたら最後のチャンスになる日。

明日の事で頭が埋め尽くされて居た所為で、気配に気付けず小さな物音で彼の来訪を知った。


「どうしたんです…かっ?!」


急な来訪の理由を尋ねた台詞の最後は、不自然に途切れてしまった。

まさか、彼の邪眼によって身体の動きを封じられるとは思ってもみなくて。
いや、そこまで飛影の事を信用している訳じゃ無い。
只、飛影の行動を警戒する程の頭の余裕が無かっただけだ。


「…な…に、を…」


辛うじて未だ口元は動かせた。


「…明日は満月だな。」


ガシャンと音を立てて、無造作に刀が床に放られた。
降魔の剣―
折角手に入れた、飛影が望んだ筈の秘宝。


「あの鏡を使って何をする気だ。」


飛影が親指で机を指した。
机の引き出しの中には、暗黒鏡が仕舞われている。
オレもその方向を目線だけで追う。


「貴方…には、関係の…無いこ…とだ…」


辛うじて動かせる口から声を絞り出した。

けれど、その瞬間、飛影の呪縛が強められた。


「…っ」


もう、少しも動かせなくなって、息苦しさだけが口元から洩れた。


オレが暗黒鏡を欲していると言った時も。
仲間を抜けると言った時も。
全く興味を示さなかった飛影。

怒りすらしなかっただろう…?
気怠そうに、呆れさえ含んで、嫌味を一つ告げるだけ。


「霊界探偵には何を頼んだんだ?アレが“人間”としてのやり方なのか。」


生温い、とでも言いたいのだろうか。
飛影の台詞は、オレの様子を視た事を含んでいた。
聞かなくても知っているだろうに、わざわざ出向いてオレに問う意味が分からない。

…飛影の真意が読めない―…


「…あの寝たきりの女を救う為か知らんが…」


飛影がニヤリと笑った。

何の心情も読めない飛影の表情を見詰めた。
オレの目的も行動も全て知っていて、わざわざ何を問い質す必要が有るのか。
同じ疑問が、答えを出せないまま頭の中に居座っている。


「…あの鏡を壊す。」


―!!

飛影の言い放った台詞が、オレの中で怒りを生んだ。

暗黒鏡を失ったら、母を救う手段が無くなる。
冗談じゃない。

何をしに来たのだ、目の前の男は。
無駄な事等しないと、多少飛影を信用していた事を後悔する。


“もしくは”
飛影の低い声が、至近距離でした。

ベッドに座ったままの状態で壁に貼付けられながら、間近の飛影を睨み付ける。
ゆっくりと飛影の手が伸びて、首元を撫でられた。
指先が、鎖骨まで下りてゆく。
ぞわりと悪寒が背中を走った。


「…このまま…明日、動けない様にしてやろうか。」


怒りで顔が赤らんだ感覚がした。


「ふざけ…るな…よ」


高まった妖気によって、口元と指先だけが飛影の呪縛を逃れた。

その事を、後悔する事も知らずに―…


「剛鬼はお前のその女の様な顔が酷く気に入りだった。」

馬鹿にした、笑い。
耳元でやけに響く。

飛影の熱い舌が耳を這うのが分かる。
時折触れるのは、乾燥している唇だった。

動く指先で、シーツを強く掻き毟る。
それだけがオレの抵抗だった。


耳の裏、首筋…
ゆっくりと、下りて来る。


「止め…ろ…っ……あっ」


オレが口を開いたのと。
飛影の手が背中を厭らしく辿ったのと。
鎖骨を舐め上げられたのは…

…同時。

自分の漏れた声が第三者のモノの様に聞こえ、汗が噴き出した。

嫌悪を感じる。
何もかもに。


「…いい声で鳴く。そこらの女と変わりが無いな。」

「…っ」


余りの屈辱に、息を呑んだ。
頭に血が昇る。
その瞬間、右腕だけの呪縛が解けた。

飛影を引き剥がそうと動かした右腕を、簡単に掴まれる。
鈍い音と共に、壁に縫い付けられた。

―クソ…
冷静になっていれば…

冷静になって機を窺えば、飛影の隙を付けた筈だ。
内心、己に舌打ちをした。


「止めろ、飛影…!」


オレの肩に顔を埋めようとしていた飛影の動きが止まった。
そのまま下から、ちらりと見上げられる。

一瞬見えた飛影の紅い瞳に、オレは言葉を失った。

そんなオレをどう思ったのか、それとも何も思わないのか…
飛影の顔はオレの肩に埋められた。


―何故…?

頭の中は、混乱した。
いや、本当はそんな事は考えなくても良い事の筈だ。

けれど。
オレの頭の中は、飛影の瞳の所為で混乱させられた。


…何故、そんなにも、飛影の瞳に怒りの色が浮かべられているのか。

オレの計画を知って。
その計画を阻止した時に、オレがどんな反応をするのか…
そんな子供の様な戯れだと思った。
暇潰しに似た…

飛影との付き合いは、一年程。
飛影の瞳に有り有りと怒りの色が浮かんだのは、一度しか知らない。
“雪菜”と言う氷女を捜す飛影と、八つ手を目の前にした時だ。

今、この人を怒らせる材料が、何処に在る…?


「…っ」


飛影に首元を強く吸われ、チクリと痛みが走った。


「…元妖狐とは言え、所詮皮膚は人間の皮膚…か。簡単に内出血する…」


誰に言う訳でも無い、独り言の様な飛影の言葉だった。
オレは言葉を発する事が出来ずに、混乱し続けた。

右手の甲は、ざらついた壁の感触を感じ取っている。
手首には飛影の指が、動かずに絡み付いていた。


「…んぅっ…」


腿の内側に、飛影の手の熱さが布越しに感じられた。
何度も指先が行き来する。
只、辿るだけ…

それなのに。

何処をどう繋がっているのか。
緩い刺激が、頭の中で響き渡る。

その合間にも、首元をキツく吸われ、時には胸元まで舌が這って、動かない身体ではオレは逃げ方が分からないまま。
自分の熱い息と、布の擦れる音を聞いて。
飛影が寄越す刺激を、只受け入れるだけだった。

オレの中の嫌悪と怒りは何かに隠されて。
今は見えない飛影の瞳の色だけが、散ら付いていた。

再度耳元に飛影の唇が触れる。
オレは咄嗟に歯を食い縛った。

囁かれた飛影の台詞。


「…特に何もしていないのに、お前の身体はここまで反応するのか。」

「…あぅっ!!」


そして足の間に割り入れられた飛影の膝が、オレの局所に擦り付けられた。
その事で、己の溜まった欲を知る。

食い縛る唇の端を、ゆっくりと舐め上げられた。
オレの顔の熱と同じ温度なのだろうか。
飛影の舌の熱よりも、ねっとりとした感覚が際立って感じられた。


「…厭らしい身体だな。このまま突っ込んでやろうか…。なぁ、蔵馬…?」

「…っ」


己の顔に、これでもかと言う程に熱が集まった。

…屈辱だ。
顔を上げた、飛影の瞳を睨み付けた。

其処に未だ浮かぶ、怒りの色―…

何故か咄嗟に目を逸らす。
そして見えた、嫌な笑みを形作る飛影の口元は、唾液で濡れて光っていた。
乾燥している様は、もう、見られなかった―…



――――――――――
――――――――――――――
――――――


“こんなに穢れた身体を持つお前の命で、何が出来る。”


部屋を出る際に残された、飛影の台詞が頭を過った。

飛影は、もう何もしなかった。
鏡を壊す事も。
オレを、壊す事も―…


オレは、母への罪の意識がある。
命と引き換えに救う事で、恩を少しでも返す事が出来る。
それが何処か、罪の意識に苛まれたオレに残る最後の美意識だった。

オレ一人で、母を救うのだ、と。

けれど、暗黒鏡の放つ光を見ながら、飛影の台詞が木霊する。
だからだろうか。
命を分けると叫び、手を差し出した幽助の腕を、止める事が出来なかった。



飛影の、あの怒りを含んだ瞳―…

それ以外に、オレを混乱させたモノ。
飛影の指先だった…

オレに傷を付けたいのなら、何故触れる指先は全て優しいものだったのだろう。
飛影の言葉は、オレを抉るモノだった。
なのに腫れ物を扱う様な飛影の指先が、オレをますます混乱させた。

勘違い、なのだろうか。
飛影の真意を考えても、分かる筈が無い。
考えても、仕方の無い事だ。


「…秀一?外を眺めたまま、どうしたの?」

「あぁ、ごめん、何でもないよ。それより、林檎でも剥こうか?」


顔色が良くなった母の優しい声で、何処か飛んでいた意識を取り戻した。
母がオレを見ておかしそうに、けれど穏やかに笑う。
心からの安堵を噛み締めた。


―けれど。
散ら付く、紅い瞳―…
そして、痣すら残されていない右手首が、今もオレを混乱させていた。

無意識に手に取ったのは。
青林檎では無く。
紅い、林檎だった―…



(END)



*10000*REQUEST
りー様より 「飛影→蔵馬で、飛影さんが強引に蔵馬さんを…(裏有り)」
受付 2011.2.3  掲載 2011.4.29.....☆

★あとがき★
すみません×∞!!!
裏少ねぇぇぇぇぇ!!!(皆様につっこまれる前に自己申告)
リクエストして下さいましたりー様、只今リアルタイムに土下座中です。。。
え〜っと、、、
言い訳の“い”の字も今回は出て来ません><
飛影さん、何がしたかったんでしょうか。
幽助クンに暗黒鏡を貸して欲しいと頼む、人間臭いやり方をした蔵馬と…
何より、命を懸けて母親を守ろうとする蔵馬のやり方に、訳の分からない怒りを抱いた模様。
この辺りの原作の飛影さんは、余り見たく無い程格好悪いですよね。
けど、ウチじゃさせね〜よ?!的な気分で、格好良くしたかっ…た…け…ど………
ご・め・ん・な・さ・いっっっ
精進します。。。
お付き合い下さった皆様、りー様、有難うございました^^

【2011.4.30追記】
本日、リクを下さったりー様の素敵サイト『紅い薔薇の花』にこの作品を掲載して頂きました☆
りー様、有難うございます^^

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