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REQUEST
…your fragrance

誰の目にも止まらぬ速さで駆け抜け。
誰の視界にも入らない場所で休む。

闇に溶け込むのが得意かの様に。

そんな一人の男が、見上げた木々の揺れる葉達の合間から覗く月光に心底嫌そうな顔をして。
まるでついていないと言うかの様に、舌打ちをした。

己の身に起こった不可解な現象を、消し去る為に―…



〜…your fragrance〜



初めての経験であった。
闘いだけを好んで生きて来た彼にとって…


「…くそ。」


舌打ちだけでは抑えられずに、飛影は言葉を漏らした。


四聖獣との闘い。
飛影としては上手く霊界に利用された面白くないものだったが。

蔵馬と共に駆け付け、手を貸した。
幽助と桑原が先に進める様、雑魚の腐餓鬼を蔵馬と共に相手にして。


その時だった。
飛影の身体に不可解な現象が起きたのは…

蔵馬が得意とする、華を武器化した戦法。
蔵馬は好んで薔薇を使う。
蔵馬と闘う際だけで無く、蔵馬の傍に居るだけで薔薇の香りがする。
鼻のいい飛影には、恐らく他の誰よりも強く感じられているだろう。

そんな常の事。
…の筈なのに。

蔵馬から強く薔薇の香りがした途端、飛影の身体が一瞬動くのを拒否した。
一瞬であったから、闘いに支障は出なかったけれど。


それだけでは無くて。
走馬灯の様に…
初めて出逢った未だ幼なさを残した蔵馬や、霊界の三大秘宝を廻って蔵馬の腹を刺した事等、一瞬で蔵馬に関する事が飛影の頭の中を占めた。
隣に蔵馬が居ると言うのに―…


この事が、普段ならば静かに休んでいる筈の飛影に付き纏い、普段不機嫌な彼を増々苛立たせていた。


誰よりも闘いを好み、勝つ事だけを考えて闘いに臨んで来た。

それが。
誰かを頭に浮かべながら闘う等、飛影には考えられない事で。
今まで経験が無い事だった。

その理由が全く以て解らない事も、飛影にとっては気に入らない。
蔵馬が薔薇の香りに何か毒薬を混ぜて使用したのではないか、とまで疑う程…


蔵馬の腹を刺したシーンが頭に浮かんだ時、飛影は至極嫌な気分に成った。
それを表現する言葉を、飛影は知らない。

“後悔”
飛影はそんなものをした事が無い。
唯一有るとすれば、それは氷泪石を失くした事位か…


もう一つ。
飛影を苛立たせている原因が有る。

蔵馬が玄武と闘った際。
蔵馬は薔薇を使うのだから、また不可解な現象に陥るのだろうか、そう飛影は懸念していた。
けれど、それは無くて。

只、嫌な気分に支配された。
油断をして、腹に傷を負った蔵馬を見て―…



「…チッ」


休み処の木の枝の上。
飛影は何度目かの舌打ちを零した。



「機嫌、悪そうだね?」


からかう様な声色で飛影に声を掛けたのは、今正に飛影の機嫌を急降下させている張本人、蔵馬。
やはり、近くに蔵馬が居るだけで、薔薇の香りが漂った…


「…」

「…飛影?」


増々不可解だった。
何故此処に居る。
先程闘いは全て終わり、幽助の知り合いも無事。
皆帰路に着いたのでは無かったのか。

けれど、問うのも今の飛影には億劫だった。


「…なら来るな。」


それだけ飛影は言った。
増々俺の機嫌を下げる気か、と言ってやりたい気分も有ったが。
やはりそれすらも億劫だった。


「帰り道なんですよ。別に意味は無いから気にしないで下さい。」


そう、蔵馬はいつもの笑顔で言った。
そして直ぐに、飛影に背を向けて歩いて行った。

“お疲れ様”
そう、言い残して…


飛影は再び、顔を上げた。
時間の経過と共に別へ場所を変えた月は、葉の合間から飛影を照らす事は無かった。


「…下らん。」


飛影の言葉は、既に小さくなった蔵馬の背中に向けられた。
あのしたたかな狐に振り回されるのは癪だ、そう思ったのかも知れない。

蔵馬の髪が、風に遊ばれている。

風に香りを織り交ぜながら―…


苛立ちは消え、疑問を追う事も考える事も、飛影は止めた。
月の行方も、未だほんの少し残る蔵馬の香りも、飛影に影響を与える事は無かった。


只、蔵馬の足で。
二人の距離が、離れてゆくだけだった―…





「…飛影?どうしたの…?」


天井を見詰めたままの飛影に、怪訝そうな蔵馬の声が掛けられた。


「…?」

「起きてオレがお早うって言ってから、ずっと固まってたよ…?」


“寝惚けてたの…?”
飛影の隣で、蔵馬がくすくす笑った。


飛影は思い出していた。
目覚めて直ぐに蔵馬の香りに包まれた時、それこそ走馬灯の様に…

あの頃の…
何も理解出来なかった出来事を。
理解しようとすら思わなかった事実を。
今なら解る、あの感情を―…


「…飛影?」

「お前は何も変わらないな、昔から。」


何の話?と不思議そうな顔をする蔵馬を、飛影は腕の中に閉じ込めた。
昔も今も例外無く、飛影には薔薇の香りが届けられた。

その中に。
蔵馬の本来の香りを見付ける事が、本人すら気付いていない飛影の癖…


何度、共に眠って来たか分からない。
何度、蔵馬自身も蔵馬の香りも、腕の中に閉じ込めて来ただろう。

あれから十年、経っていた―…



(END)



*9000*REQUEST
kiki様より 「片想い飛影(ラストはお任せ)」
受付 2011.1.10  掲載 2011.1.20.....☆

★あとがき★
kiki様、リクエスト、有難うございました^^
初めての…飛影の片想いバージョン!(と言いつつ、リク通りに書けなくてごめんなさい;汗)
まさかの四聖獣編っっ
え〜と、文句やご要望等24時間絶賛受付中です(T^T)
kiki様、お読み下さった皆様、有難うございました^^/

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