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物語【永久編】
白い闇で揺れる花 U


「どう…して……」


思わず呟いた台詞の後に、蔵馬の喉は苦しそうにひゅっと鳴った。


息苦しさに襲われた次の日。
確かめるべく、蔵馬は再び魔界を訪れていた。
そう、昨日の出来事は何でも無いのだと確かめる為に、だ。

境界から魔界に入って暫くは、自然に息を止めていた事に気付いて蔵馬は苦笑いを零した。
恐れるな、何でも無いのだと、意を決して思い切り魔界の空気を吸い込んだ。

ほら、何も起こらないじゃないか…
何の変化も起こさない身体に安心して小さく息を吐いた直後、蔵馬は立って居られなくなって膝を付いた。
突然襲った身体の変化に、蔵馬には膝が砂利を擦る小さな痛みを感じる余裕は無い。

蔵馬は目を見開いていた。
直ぐに吹き出した冷や汗は、乾いた土に染みを作る。
今日は薬を呑んでない。
なのに、何故―


「く……はっ…」


胸が苦しい。
目眩がして、蔵馬は思わず手を伸ばした。
其処に触れた地に生える雑草に妖気を通すと、ぼやけた視界の中で雑草は鋭利な武器へと変化してみせた。

妖気は操れる。
けれど蔵馬が安心出来る材料にはならなかった。

嫌でも聞こえる不規則な呼吸。
胸の痛みで狭くなる視界。
手放してしまいそうな意識。


「こいつ…利用出来そうだな。」


頭の上から聞こえた耳障りな甲高い声に、蔵馬は反応出来なかった。


只、求めた。
呼ぶ為の情けない声ですら、蔵馬は出せなかったけれど。

―飛影…

諦めたくないと、叫ぶ事も出来ずに―…



―――――――――――
――――――――――――――
―――――――




「休暇なら三日やる。」


移動要塞、百足。
妙な作りの窓に己の姿を半透明に映し出しながら、飛影は外の雷を眺めていた。
後ろから聞こえた声に振り返らず、飛影は同じ様に窓に映る躯をちらりとだけ見やってから再び視線を外に戻した。


「…何の話だ。」

「妖狐のでは無い、毛色の違う使い魔の匂いがしたんでな、お前に緊急の呼び出しだろうと気を使ってやったんだが。」

「さあ…、知らんな。」


そう躯に答えると、飛影は窓に映すのを背中に変えた。
ゆっくりと躯の後ろに在る扉に向う。
止まない雷は、小さくなる飛影の背中と重なって何本もの線を作り出している。


「ほ〜お?俺の勘違いって訳だな?なら休暇は…」

「せっかくなんでな、休暇は貰っておく。」

「…」


すれ違いざまに躯の台詞を見事に遮った飛影は、そのまま廊下へ出て行った。
“可愛くないヤローだ”と言う躯の台詞は飛影に届かず、結果的に完全な独り言となった。



“妖狐蔵馬は我らの手中に在る。助けたくば我らに身を差し出す事だな、百足の筆頭戦士、飛影よ”

この厳重な要塞の中に難無く侵入した使い魔が寄越した言玉は、確かにそう言った。
場所を“白霧(しらぎり)の森”と指定までして。
だが飛影は、直ぐに邪眼を開いて事実を確認する事を躊躇っていた。
躯に声を掛けられて廊下に出た今でも、額に有る第三の眼は閉じられたまま。


―もう、二年だ…あいつが毎日の様に魔界を訪れて修行に励む様になってから。

たまに手合わせに応じると、少しずつでもレベルが上がっているのを手に取る様に感じる事が出来た。
飛影は自分事の様に高揚し、その飛影を見て蔵馬は至極嬉しそうに、そして少し照れ臭そうに笑った。

自分の為に、いつか来る飛影との未来の為に…そう前を見ている蔵馬を信用していた。
“守って貰う程弱くないのだ”と言うプライドを尊重してやりたかった。
それ故、飛影は極端に蔵馬を視るのを止めていた。

“オレの修行は視ないでね、ボロボロできっと格好悪いから”
いつか言っていた、蔵馬の苦笑いを飛影は思い出していた。


外へ向かって廊下を歩く飛影の歩幅は、いつもと何ら変わりが無い。
けれど胸打つ早鐘は、確かに飛影の動揺を表していた。
握られたままの、右の拳も―


外へ出た飛影に、強い風が吹く。
鈍い轟音を鳴らしながら百足が飛影から離れて行った。
百足の足によって掘り起こされた土が、砂埃となって舞う。
立ち止まったままの飛影を見事に囲んで。

その視界の悪さは、指定された白霧の森を飛影に思い出させていた。
その名の通り、濃い白の霧が漂う森。
昔…飛影が未だ氷泪石を失くす前に、一度だけその森を通り抜けた事があった。
濃い霧の所為でまるで真っ白な世界に見える其処は、断片的に記憶に残る故郷を思い出させ、飛影を嫌な気分にさせた。

それでも飛影は今、視界を遮る砂埃の中に蔵馬を見ていた。
花の様に笑う、蔵馬を。


「…チッ」


砂埃が強い風に散って、それと共に蔵馬の姿が消えた。
思わずお得意の舌打ちをして、それがキッカケとなって飛影は額当てに右手を伸ばした。

やっと、だ―
言玉を受け取ってから優に一時間は経っている。

邪眼で蔵馬の状態を確認しようと思えば直ぐに出来た。
が、それを飛影はしなかった。
出来なかった、のかも知れない―

躊躇った己に対する怒りで力任せに外された額当ては、風に煽られ舞い上がって行った。
その行方を追う者は、誰も居ない。



(Vへ続く…)



★あとがき★
躯と必要以上に会話しない飛影が好き(*'v'*)←何じゃそりゃ。
魔界と言えば、雷&強い風…っつ〜情景表現しか出来ない引き出し少ないあたしを許して下さい…
え?飛影っていつもタイミング良く助けに来るんじゃないの?って?
そんなに毎度タイミングがいいのは悟飯を助けに来るピッコロくらいです(笑)
今回はタイミングが悪いひ〜ちゃんをお届けするのがテーマです(ウソ)
しかし…話をシリアスに書いてる分、あとがきでふざけ倒すクセが…w
そして出ました、オリジーな“白霧(しらぎり)の森”…エヘヘ…w
何だか色々アレですが…このあとがきもアレですが…。
お読み下さった皆様、有難うございました〜
続きがどうなるのか、皆様考えてみよう!
あたしも含めてっ♪(´ε` )←オイ

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